井上尚弥選手が強いのはなぜですか?

 しばらく前にお客さんから、「井上尚弥選手が強いのはなぜですか?」と訊かれました。確か、体幹の筋力がどうのこうの、みたいな雑談をしていた文脈で訊かれたんだったと記憶します。

 ボクシングに限らずスポーツ観戦の趣味がない私は井上選手を見たことがなくて、「すみません、見てないのでわかりません」と答えました。そのときはそれで終わりましたが、後から微妙に気になってきて、『怪物に出会った日』(森合正範著)なる本を手に取ってみました。これは、井上選手と対戦して敗退したことのある元選手の方々に〈どこが強かったか〉をインタビューした本だそうなので、ヒントか答えがもらえそうです!
 が、読み始めると、私の期待したようなガチガチの身体理論一辺倒ではなく、人間ドラマに(も?)焦点を当てた本のようで、なかなか私の思う本題(?)にたどり着かない……。堪え性のない私は早々に諦めて、自分で動画を見ることにしました(レビューを見ると、良い本なようです。念のため)。

 痛そうで怖そうなのはむかしから苦手だったし、いまとなっては職業病もあって、あれこれ雑念がうるさい。武術映画は大好きですが、『マッハ!』にしても『ザ・ワン』にしても、いちばん好きなシーンは一人で黙々と練習する姿の美しさだったりするので(『ザ・ワン』なんて、そこしか見ていない…)、ジャッキー・チェンの初期の映画は好きですが、初期の後半というかアクションシーンがエスカレートしてくるともう、見ているのがしんどい。あ、いまの傷め方は、とか、うう、これは後遺症が……とか、気が気でないのです。
 なので井上選手の動画も、短くサクッとまとめてくれたものを見ることにしました(こちらこちら)。

 見始めてすぐ気づいたのは、井上選手は、骨盤から上半身にかけての角度が変わらないことです。攻撃のときも防御のときも、体幹の筋力が生きる位置で姿勢を保っておられる。一方、対する相手選手は、井上選手の踏み込み・引きさがりによってパッ、パッと姿勢がぶれるのが見て取れます。これは井上選手の立ち位置が、相手選手にとって近すぎるか遠すぎるかの半端な位置だから起こることで、たぶん、この間合い取りの巧さが井上選手の強さなんじゃないかしら、と私なりに納得しました。
 〈相手にとっての最適の位置・距離〉を把握して、徹底してそこは避ける・そこには立たない。そうすることで相手のパンチの効力を減らし、防御を無力化する。そのためには遠近の感覚と微調整の利くステップが必要で、感覚は視力の問題なので鍛えようがないかしれませんが、ステップは鍛えられる。とすると、縄跳びとか爪先階段上りとかをみっちりして、足指・甲・足首に磨きをかけているのでないかしら。

 太極拳を習っていたときの私は〈自分がどう動くか〉〈自分は、身体をどう動かせるか〉ばかりに注目していましたが、鳴尾浜で阪神タイガースの練習を見学させてもらうようになってからは、実践の現場においては〈自分が思うように動けるかどうかは、相手さん次第〉なのだとつくづく知りました。
 そしてそれを踏まえて考えると、井上選手の強さは、徹底して相手の嫌なように動く、そのために目と足をうまく使う。体幹を鍛えるとかパンチ力を上げるとかは、トップクラスの選手はみなさんされているはずなので、もちろん、言うまでもなく。

 うん、たぶんそういうことかも! さらっと自分を納得させて動画視聴を終えましたが、本音を言うと、こんなド素人の浅い納得でなく、ボクシング見巧者・有識者の見解をお聞きしたい……。ホントのところはどうなんでしょうね……??

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