関節ネズミの手術痕
若い頃に右肘の関節ネズミの除去手術をされたことのあるお客さん(Pさん)に、施術させていただく機会がありました。自覚症状は首の付け根のがんこな違和感です。
「指のねじれとその施術」にも書いたことですが、癒着は、指にあっても肩にあっても、腕全体がねじれます。当然それは、肘にあっても同じです。
ただし癒着の範囲・深刻さによってねじれ方の程度は変わります。
たとえば私の指にできた癒着はおそらくは突き指によるものです。一般的に、突き指・脱臼は、骨折ほどには大掛かりなケガでない割に、癒着のでき方は厄介です。折れ方がきれいでさえあれば案外あっさり改善できる骨折と違って、突き指・脱臼に由来する癒着はなんとなくずるずる手間がかかります。かかるけれど、骨には達していない軽さというか、浅さのようなものも感じます。良いたとえではないですが、お風呂の表面に浮かぶ湯垢を何回も何回もすくうような感じで、手間はかかるけれどねじれはそれほど深刻ではない。
一方、関節ネズミの手術痕はどうだったかというと、これは大掛かりに大変でした。表面の湯垢どころではない、やっぱり骨に係わる手術だな、深いな、の感じです。
関節ネズミは関節部分に起きる骨折で、その骨折片(骨のかけら)が関節の痛み・動作不良を招きます。ネズミの手術はその骨折片を取り除くものですから、当然、手術痕は深いです。傷痕にできる癒着も、皮膚・筋肉・関節におよびます。そして肘関節は3つの骨が係わる複雑な構造ですから、関節自体もややこしいし、影響の及ぶ範囲もややこしい。これで緩んだかな? ――まだか。これで完璧かな? ――まだか。アタマで立てた予測がボロボロ外れる、一筋縄ではいかない施術でした。誤解を恐れずに言えば、実におもしろかったです。
Pさんの場合は、追突事故による癒着もできていました。
もともと私は、追突事故のほうが原因で症状が出ていると思ったのです。しかしこちらの状態が改善しても、症状は、マシにはなるけれどもきれいには緩みませんでした。そこで、肘の傷痕もほどかなきゃダメだ、となりました。もちろん、追突事故の癒着はほどいた上で、の話です。
それからは肘にも本格的に施術して、これでもか・これでもかの気分で腕全体の癒着をほどきまくって、先日ようやく、首の付け根の違和感がなくせました。
「関節ネズミの手術ってすごいものですねー」と私が言うと、「なんせ35年前の手術ですからね。しかも私はプロ野球の選手ではなく、専門のお医者さんにしてもらった手術でもないですから」とPさん。……ナルホド。
施術後、Pさんは、「これで緩んだ気がします」。私も、きっと緩んだ気がしてます。
このまま凝りが緩んだまま過ごせそうなら、Pさんはこれで、めでたく整体卒業です。ダメなら、またそのときには来院願うことになりますが、かなり手応えは良かったので、おそらく卒業だろうと楽観的に信じています。
(2019年7月7日ブログで公開)