コミュニティが社内に受け入れられ、理解されるまでに必要な、「コミュニティ自体の盛り上がり」以外のこと
こんにちは。株式会社カケハシのユーザーコミュニティ「MusuViva!」で、コミュニティマネージャーを担当している伊藤と申します。
オープンから2年5ヶ月、立ち上げ開始からこの12月でちょうど3年を迎えるMusuViva!。
ようやくユーザーさんへの価値、そして社内への価値について、明確に語れる手応えのようなものが、得られてきたように思います。
アドベントカレンダーとして、こちらを書き残すことで、
「コミュニティは盛り上がってるけど、社内であまり理解してもらえない」
「会社の事業にどう貢献するのか、他チームや経営陣に響く説明ができない」
「コミュニティ立ち上げを検討してるけど、どんなメリットが得られるのかイメージできない」
そんな方のヒントになれば嬉しいです。
※このnoteは、2023/11/16開催「B2B Community Summit~コミュニティを通じてビジネスの架け橋をする~ 共創の地図 by SHIP」登壇資料を元に作成しています
なぜコミュニティ?解決したい社会と会社の課題
まず、KAKEHASHIという会社が、なぜユーザーコミュニティを作ったのか。その理由からお話したいと思います。(すぐ本題に入りたい方は、この章は読み飛ばしてください)
社会の課題~薬局が求められる変化~
皆さんは、薬局にどのようなイメージを持たれているでしょうか。
「お薬をくれるところでしょ」
「病院で待たされて、さらに薬局でも待たされて、しかもいろいろ確認されて、なんかあんまり良いイメージないのよね」
そんな方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際には薬局・薬剤師は、その患者さんが実際に使ってよいお薬かどうか、実際に毎日の服用に問題ないのかを、年間約8億回の処方箋受付に対して、併用薬や生活習慣、副作用、身体機能等々の様々な観点から確認を行う、重要な役割を担っています。
そして、日本は少子高齢化で医療リソースが逼迫しており、大きな社会課題となっています。
そんな中、薬局・薬剤師は今、そういったこれまでの役割に加え、服用に問題ないかを途中で確認する役割や、在宅医療での深い関わり、重症化予防や未病も含めた地域での健康啓発まで、様々な新しい取り組みを行っていくことが期待されています。
KAKEHASHIは、「日本の医療体験を、しなやかに」をミッションに掲げ、そんな「これからの薬局」を目指す薬局の皆さまに向け、業務をアシストし余力を生み出す複数サービスを展開しています。
会社の課題~シェアが重要、かつサクセスが難しい市場構造~
KAKEHASHIは薬局向け、業界が絞られたいわゆる「Verticalな」サービスを展開する会社です。そのため、例えばSmartHRさんやCloudSignさんのような幅広くすべての会社組織がターゲットとなる「Horizontalな」サービスを展開する会社とは違い、約60,000店舗という限られた市場の中で選ばれ、製品に満足していただく必要があります。
そして、薬局の市場構造はトップ10社のシェアが20%にも満たない、非常に細分化された市場です。
言葉を変えれば、法人数がとても多い業界。人手を無限にかけられない以上、1法人ごとのサクセスにかけられる時間はどうしても限られてしまいます。
加えて、製品を使いこなすことは、薬局の経営課題や社会課題を解決する一部。完全なイコールではなく、ユーザーさんからは製品以上の情報も求められていました。
喫緊の社会課題と高まる薬局への期待、そして薬局の市場構造も踏まえた上で、お客様にスピード感をもって応えるために、最良な手段は何か。
ユーザーさんにも会社にも、全体最適を目指して導き出した答えは、直接ユーザー同士がやり取りできる「ユーザーコミュニティ」。
そんな背景から、2021年7月に「MusuViva!(ムスビバ)」は誕生しました。コミュニティサイトとオンラインイベントを主軸とした、オンラインのユーザーコミュニティです。
アツいコミュニティが、社内で理解されなかった3つの理由
順調にも関わらず、訪れたコミュニティの危機
MusuViva!のオープン後は、とても順調に思えていました。
熱量高いユーザーさんと満足度の高いイベントを実施し、サイト上のアクティブ率・アクション率も高い数値。
もちろん途中で盛り上がりの浮き沈みはありましたが、企画運営チーム内やユーザーさんとお話している限りは、良くないところは改善しながら、順調に進んでいると思っていました。
しかし、社内の反応は、とても厳しいものでした。
まさに、コミュニティマーケティングの開祖、小島英揮さんのこちらのスライドの通りの状態でした。
このスライドで示しているのは、コミュニティマネージャーからみればコミュニティは盛り上がっていて、熱く燃えているように感じるが、ビジネスサイドから事業に照らして見ると、その盛り上がりにどんな意味があるのかはわかりにくく、燃えているようには感じられない、ということ。
つまり、コミュニティマネージャーは、ビジネスサイドに伝わるような説明をきちんと行うべき、事業の文脈に落とし込んで理解されるように努めよ、というものです。
経営陣も、もちろんコミュニティの重要性を理解してないわけではありません。ですが、コミュニティが果たす事業へのインパクトを説明できなければ、これ以上人とお金を張る合理的な判断は難しい。
こうしてMusuViva!は、ユーザーさんに求められているにも関わらず、存続の危機とも言える状況に陥ったのでした。
ユーザーさんが必要としてくださってるこの場所を、
絶対になくしてはならない。
運営チームは、非常に危機感をもって、この状況について考え始めます。
なぜアツいコミュニティが、社内で理解されなかったのか。今考えると、理由は3つあったと思います。
①明確な仲間づくりができていなかった
MusuViva!は、7人のユーザーさんと一緒に立ち上げました。
「コミュニティは参加者の関心軸が何より重要」
そう思っていたこともあり、会社都合のコミュニティになることを(今思えば過度に)恐れ、極力ユーザーさんに寄り添った運営をしてきました。
逆に言うと、社内の他チームと明確に連携せず、理解者を作る努力をせずに運営していたとも言えます。立ち上げ当初あった「ユーザーさんへの全体最適のためのコミュニティ」という構想が、運営していくにつれ曖昧になっていたとも言えるでしょう。
②イベントの事前事後の連携が、不十分だった
MusuViva!のイベントは毎回とても満足度が高く、その内容は開発をはじめ社内の各チームにとっても非常に貴重なものです。
にも関わらず、その貴重なユーザーの声を、社内に十分に届けるにはまだまだ工夫が必要な状態でした。
イベントが終わった後に、Slackで資料と録画とポイントを共有しても、特に顧客対応に忙しいフロントチームがタイムリーに視聴時間を確保するのは簡単ではありません(悲しいですが…それが真実)。せっかくのイベントの社内価値が、目減りしてしまっている状態でした。
③コミュニティサイトの盛り上がりと事業の繋がりを、明確には説明できていなかった
オンラインコミュニティを運用していて、一番取得しやすいデータはアクティブ率・アクション率といったコミュニティサイト上の挙動です。我々も、それをKPIとして置いていました。
ところが、この数値が曲者だったのです。
「オンラインコミュニティ上でアクティブなら、KAKEHASHIに対するエンゲージが高いのでは?」
「オンラインの接点で関係性を積み上げていけば、チャーン抑止やアップセルにつながるのではないか?」
そういった説明をしてきました。
でも、それは所詮推測に過ぎず、なかなか納得はしてもらえませんでした。
サイト上のデータだけでは、コミュニティのすべての価値を伝えきれない。
その事実に気がついたのです。
コミュニティの火を、社内に伝え、広げる具体施策とは
問いを、小さくする
「どうしたらコミュニティの事業貢献を説明できるか?」
これは、多くのコミュニティ担当者が通る問いだと思います。
ただ、このままでは壮大すぎて、答えを出しにくい問いでもあります。
そこで、我々は問いを変えました。
フロントチームの2大課題から、コミュニティのKPIを設定
MusuViva!が、他チームの役に立つ/喜ばれるにはどうしたら良いのか。
各チームに話を聞いていくと、フロントチームには2つの大きな課題があることがわかりました。
1つ目は、「営業やCSの、顧客解像度を上げる」ことです。
Vertical にサービス展開する企業の営業やCSがお客様から信頼されるには、業界課題や経営者の悩みを深く理解し、ディスカッションできることが大切です。ですが、バックグラウンドも異なるため、その全体のレベルを上げることは課題でした。
2つ目は、「顧客からの認知を変える」ことです。
競合製品が増えた中、機能比較ではなく、薬局経営の課題解決パートナーとしての独自の価値で選ばれること。それがマーケティングチームの課題でした。
これらの課題に、MusuViva!なら応えられます。
「コミュニティでシェアされる生の声・UGC(User Generated Contents)」は、アンケートとは比較にならないほど密度の濃い体験・感情が含まれおり、そこから学ぶことで顧客解像度が上がります。
また、MusuViva!にたくさんいらっしゃる「KAKEHASHI製品で成果を上げ、愛着を感じてくださっているユーザーさん(=スター顧客)」に、その感じている価値を率直に、深く語っていただくことは、他の顧客の認知を変える何よりも強い味方になります。
そう考え、これらをKPIの軸に設定することにしました。
また、具体的な施策を3つ行いました。
施策①他チームの仲間を作る「エヴァンジェリスト定例」
我々がまず行ったのは、仲間づくりのための「エヴァンジェリスト定例」です。
以下のような内容で、隔週オンラインで行いました。
最初のうちは、エヴァンジェリストの皆さんもMusuViva!についてよく知らず、ディスカッションとしての手応えが得られるまでには時間がかかりました。
が、諦めず会を重ねるごとに参加者のMusuViva!の解像度が上がり、その場で活発にチーム間の課題や知見が交換される、いわば「社内コミュニティ」のような時間になっていきました。
施策②イベントの価値を最大化する、「イベント企画 ”全体” の他チーム連携」
MusuViva!において、おそらく一番強いコンテンツであるイベント。
その社内的な価値を最大化するために、上流から下流まで他チームと連携するようにしました。(下図)
企画段階から連携すれば、新しい素敵なユーザーさんを発掘できます。事後活用までを予めフロントチームと握れば、情報を必要としているユーザーさんに広くイベントの内容を届けられます。
それまで、会社都合のコミュニティになることを恐れていたのですが、蓋を開けてみれば参加人数は施策前の2.5倍。社内価値だけでなくユーザーさんへ届けられる価値も増えたという結果になりました。
社内の他チームが知りたいことは、ユーザーさんもまた知りたい内容だったのです。
施策③「スター顧客創出を目標へ。『あこがれの連鎖』の具体例を示す」
「スター顧客」をコミュニティのKPIの軸にしたことで、MusuViva!の中で、”実は生まれていた現象”に気づくことができました。
それは、1回1回のイベントが盛り上がるだけではなく、ある方がイベントでシェアした内容を、別の方が実際にやってみて成果を上げ、そしてそれが更に他の方に伝播するという、連続的なサクセス。
私達は、これを「あこがれの連鎖」と名付け、「スター顧客」を中心とした理想的かつ自発的な流れと定義しました。
しかし、あこがれの連鎖は、ただスター顧客が存在するだけでは生まれません。①スター顧客に様々な施策でスポットライトを当て続けること ②多くの人に見てもらう機会を作ること そして、③スター顧客が、「ちょっと頑張れば真似出来そう」と思える”一歩先”の存在であること。この3つの条件が揃って初めて、生まれる事象です。
MusuViva!では、イベントやワークショップ、インタビュー、セミナー登壇などの機会を積み重ね、多くの「あこがれの連鎖」を生み出すことができました。
「あこがれの連鎖」の具体例は、こちらの記事をどうぞ!
社内にコミュニティが浸透した結果…!
社内アワードで優勝
これらの施策を行って1年ほど、社内でもMusuViva!を理解してくれる人が増えてきた2023年の7月。
都内某所で行われた社内イベント「CUSTOMER SUCCESS AWARD 2023」で、私と一緒にMusuViva!の企画運営を行っている相方のにっしーが、このnoteでまとめた施策を含む「あこがれの連鎖~ユーザー同士で生まれる行動変容~」という発表をし、見事優勝することができました。
経営陣からも「イケてる会社は、コミュニティが強い。これからも期待している」という言葉をいただき、本当に感慨深いものがありました。
合計6組がプレゼンテーションを行った当日の様子は、ぜひ公式noteの記事もご覧ください!
社内で「MusuViva!チームに聞いてみよう」が増えた
ありがたいことに、アワードで優勝してからはさらに社内の理解が進み、他チームから頻繁に「MusuViva!チームに聞いてみよう」という言葉が、自然と出るようになったと感じます。
この1年で起こった想像もしなかった素晴らしい変化に、本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。
この変化は、決して私だけで起こしたわけではありません。
それぞれ強みの違うチーム全員の力が集結したからこそ、生み出せた変化だったと思います。本当に感謝です。
ここからが、本番だ
ユーザーさんに求められているにも関わらず、社内での理解がなかなか得られなかったMusuViva!。この1年の頑張りで、「何かあったらなくなるかも…」という状態からは脱したと思います。
いよいよ、本来やりたかった「社会課題の解決にむけて、ユーザーさんと一緒に『薬局のあした』を考え、行動する」ことに全力投球できます。
まさに、ここからが本番です。
まとめ
コミュニティを立ち上げると、必ずと言っていいほどぶつかる「社内に理解してもらえない」問題。
心折れそうになる日もあると思います。
このnoteが、そんな方を励まし、心の支えになれれば嬉しいです。
最後に、社内に理解されたのは、結局何が理由だったのか、という振り返りをしたいと思います。
ここまで書いた通り、この1年様々な施策を行った結果、社内理解が進んだのは嬉しかったのですが、正直
「いや、最初から同じこと言ってたんだけどな…」
という、なんとも言えない気持ちになったこともありました。
なぜあの時は理解されず、今は理解されているのか。
この資料・noteをまとめる中で、当時とは明確に異なる3つのことに気づきました。
①概念ではなく、具体の事例が生まれたこと
②推測でしかなかった「こんな事ができるはず」を実際に検証できたこと
③社内に向き合う時間を確保しても、きちんとコミュニティが盛り上がる状態を担保できたこと
そのために大切だったのは、こここまでお話ししたチーム間連携に加えて、これまでに築き上げたユーザーさんとの深い関係性、そしてコミュニティに価値があると信じ、諦めないコミュマネの心だと思います。
逆境においても私達が諦めなかったのは、間違いなく普段からMusuViva!に価値を感じ、応援してくれるユーザーさんがいらっしゃったからです。
いつも、本当にありがとうございます。
そして、これまで様々な知見を惜しみなくご提供くださったコミュニティの先輩方、励ましあったコミュニティ同期の皆様にも、深く感謝いたします。
特に、
立ち上げ当初から何度も壁打ちのお時間をくださり、私がコミュニティマネージャーになるきっかけをくださった「あこがれ」の存在、長橋明子さん
「スター顧客」という概念やその定義、生み出し方について、惜しみなく知見・経験をくださった、小倉一葉さん 河村雅代さん
このnoteの元になったイベントへの登壇機会をくださり、プライベートな活動含め私を応援してくださる、ふがしさん
MusuViva!のシステムを提供してくださり、普段から様々コミュニティ運営の知見を提供してくれ、CM・駅広告など素敵な体験をさせてくださった、commmuneの皆様
そして、CMC_Meetupを主宰してくださり、常日頃からコミュニティに関するインプットの機会をくださる、小島英揮さん
この場を借りて、深く御礼を申し上げます。
これからもコミュニティのチカラを、会社も、ユーザーさんも、社会もハッピーな、まさに「三方良し」な形で最大化できるよう、新たなチャレンジに取り組んでいきたいと思います。
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