【脚本】『VAMP!』(上)※無料※
2月29日にこんなツイートをしてました。
2月29日の私に言いたい。
まだまだ思わぬ方向に進んでいくぞ、と。
いつまでこの状況が続くのか。
どこまでこの状況は悪化するのか。
子供の頃、家族で『金八先生』を観てる時に高校教師の父がよくボヤいてました。
「金八先生はいいよなぁ、1時間でトラブルが片付いて」
まあ、金八先生だって1時間で片付いてるわけじゃないんだろうけど、言わんとすることは分かります。
このコロナ禍も、ドラマや映画みたいに1時間や2時間で収まってくれたらどれだけいいか。
今なお、最前線で戦い続けてる方々に感謝と尊敬の念を忘れず、私自身は出来ることをコツコツと続けてゆくしかないのだなと痛感しているこの頃です。
さて、本日の毎日脚本連載はCheeky☆Queens 『VAMP!』です。
昨年上演したCheeky☆Queensの最新作です。
あらすじ
1970年代、独立行政法人日本生命科学研究所ではヒトの遺伝子改良によって、先天性遺伝子疾患を防ぐ研究を行っていた。
研究によって生まれてきた一組の男女、シンとミライ。
遺伝子操作の副産物で二人の脳内細胞の情報伝達速度は極度に高いものとなった。
高度に発達した脳は、その活動を維持するために常人より多くの酸素とブドウ糖を欲するようになり、呼吸で得られる酸素だけでは必要量を賄えない二人は、他人の血液に含まれる酸素を経口摂取することで不足分を補おうとする、吸血衝動を抱えるようになった。
研究者たちは、研究名の頭文字を取って二人を『V.A.M.P』と呼び、秘密裏に管理していた。
1999年、写真週刊誌『週刊新流』の女性記者・桜井さとみは、渋谷で起こった連続変死体事件の取材中に10年前に失踪した親友・ミライに再会し、彼女の出生の秘密・失踪の理由を知る。
バブル崩壊以降、経済は長期停滞し、先の見えない時代が続いていた日本。
与党『民自党』内には、総裁選を控えて、来たる21世紀を見据えた秘密プロジェクトを進める動きがあった。
さとみは事件の取材を進める中で、知らぬ間に大きな陰謀に巻き込まれてゆく…
世紀末の渋谷を舞台に様々な想いと思惑が交錯する!
「生きるとは」「ヒトとは」を問いかける世紀末SFアクション!
Cheeky☆Queens史上最もリアリティのある、最も濃厚な物語!!
ウィルス禍を扱ってる作品なので結構タイムリー。
タイムリー過ぎて、逆に今のタイミングで出すことはどうなのだろうとも悩みました。
エンタメの時間くらいは現実忘れたい気分もわかるし。
けれど、こんな今だからこそ、「生きるとは」「ヒトとは」について想いを巡らせたく、今作を取り上げてみました。
だから、今作については無料公開(投げ銭制)とさせて頂きます。
まずは楽しんで頂ければ幸いです。
で、気が向いたらサポートから投げ銭して下さいませ。
(記事の一番下からできます)
こちらもかなり長編なので上・中・下の3回に分けてお届けします。
登場人物
・桜井さとみ:週刊『新流』若手記者
・西川未来:遺伝子操作された人類(V.A.M.P) コードネーム:E
・高見新(しん):遺伝子操作された人類(V.A.M.P) コードネーム:A
・沢口美佐子:独立行政法人日本生命科学研究所(日生研) 主任研究員。
・片山仁:日生研 研究員。
・木下美月:日生研 新人研究員。
・高見耕一郎:ReCreation社(バイオベンチャー企業)社長。
・加賀寛子:ReCreation社社員。
・山下陽子:渋谷警察署刑事課の巡査。
・飯嶋太郎:渋谷警察署刑事課の巡査長。
・上原智子:渋谷警察署生活安全課の巡査。
・泉真琴:渋谷警察署生活安全課の巡査。
・坂崎大輔:警視庁公安部の警部。
・松本宏光:国会議員私設秘書。元警察庁警備局警備企画課課長。警視正。
・桜井あおい:さとみの妹。女子高生。
・ハルカ:渋谷のギャル。
・チヒロ:渋谷のギャル。
・原田:週刊『新流』編集長。
・前原:週刊『新流』記者。
・福田:週刊『新流』記者。
・鈴木:週刊『新流』事務員。
・10年前のさとみ
・10年前の未来
・未来の母:元日生研助手。代理母。
#0
1989(平成元)年1月。青森の片田舎の町。(イメージ的には新郷村とかその辺り)
昭和天皇の崩御で世間は一億総自粛ムード。
中学三年生の桜井さとみと西川未来。
学校の屋上。部活動の声や下校中の生徒たちの声などが聞こえる。
会話は南部弁にする。
さとみ 「だべ?口答えすんなら内申点下げるとかこいでらのよ、ひどぐね?」
(でね、口答えするなら内申点下げるとか言うのよ、ひどくない?)
未来 「えーひどい、脅迫だすけな」
(えーひどい、脅迫じゃん)
さとみ 「ウチ妹さいんし、県立一本だべ?あいつのせいで高校浪人とか洒落なんねぇっきゃね」
(ウチ妹もいるし、県立一本なのよ?あいつのせいで高校浪人とか洒落になんないよ)
未来 「え、ウチ一人だけ北高とかヤダすけな」
(え、私一人だけ北高とかヤダよ)
さとみ 「ウチだってヤダすけ・・・あームカつく!帰ってもテレビも最近つまんねぇし、受験終えるまで遊びにも行げねし。てが、天皇陛下死んじゃったこどとバラエティやらないことは関係ねっきゃ」
(私だってヤダよ・・・あームカつく!帰ってもテレビも最近つまんないし、受験終わるまで遊びにも行けないし。ていうか、天皇陛下死んじゃったこととバラエティやらないことは関係なくない?)
未来 「んだ」
(確かに)
さとみ 「あどさ、平成ってなんかダサいべ?明治・大正・昭和・平成」
(あとさ、平成ってなんかダサくない?明治・大正・昭和・平成)
未来 「言い方だべな」
(言い方)
さとみ 「願書書ぐ時に間違えて昭和って書ぎそうになったっきゃね」
(願書書く時に間違えて昭和って書きそうになっちゃったよ)
未来 「だすけな」
(あ、私も)
さとみ 「未来、北高さ行ったらどやす?また陸上部?」
(未来、北高行ったらどうすんの?また陸上部?)
未来 「んー帰宅部だべな。ウチ母子家庭だすけ、バイトしねば」
(んー帰宅部かな。ウチ母子家庭だし、バイトしなきゃ)
さとみ 「えーもったいねぇな。したっけ、バイト先だば諸星かーくんみたいなカッコいい大学生どいぎあっだりしでぇ・・・」
(えーもったいない。でもさ、バイト先でかーくんみたいなカッコいい大学生と出会っちゃったりして・・・)
未来 「きゃー、だどもそれだは大沢樹生の方がいいすけ」
(きゃー、でもそれなら樹生くんの方がいいなぁ)
さとみ 「きゃーオトナ」
※かーくん=諸星和己、樹生くん=大沢樹生。ともに光GENJIのメンバーです。
などととりとめもないことをキャッキャと話しつつ。
雪がチラついてくる。
未来 「・・・あ」
さとみ 「(空を見て)今夜は吹雪きそうだね」
未来 「な」
(うん)
さとみ 「あど三か月で高校生か」
(あと三か月で高校生か・・・)
未来 「浪人しねばね」
(浪人しなければね)
さとみ 「もう!」
ひとしきり笑いあって
未来 「ねえ、さとみ」
さとみ 「ん?」
未来、何かを言うがチャイムが鳴り、聞こえない。
未来 「なんでもねぇすけ。帰るべ」
(なんでもない。帰ろか)
さとみ 「んだね」
(そだね)
未来、先に階段(袖中)に向かう。
さとみ 「次の日、未来は学校に来なかった」
Evanescence『Bring Me To Life』
一陣の風が吹く。
吹雪の中、立ち尽くすさとみ。
雪は行き交う人々に変わり。
舞台は10年後、1999(平成十一)年7月の渋谷に。
クラクションの音。音響式信号機の音。渋谷のスクランブル交差点。
人の波に紛れるように15歳のさとみと25歳のさとみは入れ替わる。
人々は新聞や週刊誌を手に持ち、行き交いながら同年の出来事(見出し)を口々に。
さとみ 「次の日も、その次の日も。未来の家には誰もおらず、大人たちは夜逃げだとか蒸発だとか噂したけど、私はそんな言葉の意味よりも、ただ、親友がいきなり消えたという事実を受け止められないまま・・・中学校の屋上で他愛もない会話で笑いあった日々は気づけば遠い過去になり、私は東京の大学に進学、そして就職した。世間は就職超氷河期。第一志望だった新聞社は全滅。奇跡的に引っかかった写真週刊誌の編集部で記者をしている・・・1999年」
「大阪06市内局番4桁化」
「携帯電話・PHSの電話番号11桁化」
「厚生省バイアグラ認可」
「NTTドコモiモードサービススタート」
「日銀ゼロ金利政策実施」
「石原慎太郎東京都知事に当選」
「男女共同参画社会基本法成立」
「国旗国歌法成立」
「組織犯罪対策三法成立」
「小渕第2次改造内閣発足」
「神奈川県警の不祥事相次いで発覚」
「池袋通り魔殺人事件、2人死亡、6人が重軽傷」
「東海村JCO臨界事故発生、日本初の臨界事故」
「三菱化学と東京田辺製薬が合併」
「桶川ストーカー殺人事件」
「警視庁と静岡県警が法の華三法行を捜索」
「ノストラダムスの大予言」
ふと、未来とすれ違ったような・・・
未来の姿は人混みに紛れてしまう。
さとみ 「未来・・・」
さとみ、未来の姿を探して去る。
夜の裏路地。
一人の女が逃げている。
複数の影に追い詰められ、袋小路で何者かに捕らえられる。
首筋に立てられる牙。
断絶魔の叫び。
「VAMP!」開幕。
#1
週刊『新流』編集部。活気のある雰囲気。
編集部のシーンでは後ろでワイドショーの音などが聞こえてる。
編集長の原田がデスクに。
原田 「福田!おい、福田!」
福田 「はーい」
原田 「ベテラン俳優Oと期待の新人女優Y、略奪愛か」
福田 「いいネタ掴んだでしょ」
原田 「で、写真は」
福田 「これっす」
福田、原田に写真を見せる。
原田 「遠くて顔が全然わからんやないか!」
福田 「え?」
原田 「今週号は寝かせろ」
福田 「えー?」
原田 「あのな、これ出したらどうなる」
福田 「そりゃ人気の二人ですから話題に・・・」
原田 「アホか。他人の空似で押し切られた挙句、警戒されて次狙われへんようになるのがオチやろ」
福田 「う・・・」
原田 「ったく、おまえ何年目やねん(福田の頭を叩く)」
福田 「痛っ!」
原田 「ホテルに入るところとか、車の中でキスしてるところとか、顔バッチリ、状況バッチリで、言い逃れできんような決定的なの持ってこい言うてんねん。このバカタレが!」
福田 「がんばります!」
原田 「鈴木さん!コーヒー!」
鈴木 「はーい」
事務員の鈴木さん、雰囲気に合わないのんびりとした返事。
さとみが原稿を手にやってくる。
さとみ 「編集長」
さとみ、原稿を渡す。
原田、一瞥して突き返す。
さとみ 「編集長」
原田 「そのネタはボツや言うたやろ」
さとみ 「なんでですか、これでもう6件目ですよ。行方不明になった若い女性が数日後、変死体で発見。ネタとしての引きは間違いありません」
原田 「あんな、桜井、確かにネタとしては悪くないかもしれへん。けど、ウチはゴシップがメインの写真週刊誌やねん。警視庁記者クラブにも入られへんし、入るつもりもない。そんな週刊誌のイチ記者が、連続変死体事件なんて追って何が書けんねん。そのネタは新聞かテレビにでも任せとけって腐るほど言うとるやろ」
さとみ 「ですが」
原田 「そないに書きたかったらいつでも転職せえ。ホンマ、いつまでも新聞記者(ブンヤ)志望引きずりよってからに」
さとみ 「そんな、私は・・・」
原田 「ったく、三流私大卒の女が、この就職超氷河期に拾ってもらえただけでも有難い思って働けっちゅーねん」
電話が鳴る。原田、出る。
原田 「はい、週刊新流編集部!(声は打って変わって)あー、織田社長、原田です。どうもお世話になります・・・はい・・・ええ、もちろんです!今回のグラビア最高にええの撮れましたよ。巻頭でどーん!巨乳がどーん!どーん!あっはっはっはっは・・・」
などと話しているところに鈴木さんがコーヒーを持ってやってくる。
鈴木 「またセクハラダの餌食?」
さとみ 「三流私大卒の女がいつまでも新聞記者志望引きずってるって」
鈴木 「わちゃー」
さとみ 「引っかかるんです」
鈴木 「そうね、完全にアウト」
さとみ 「この事件」
鈴木 「ん?ん?」
原田 「おい!前原!」
前原 「はいはーい」
原田 「ReCreation社の取材、その頑固女連れてけ」
前原 「え、マジっすか」
原田 「相手が若い女の方が高見社長も話しやすいやろ」
さとみ 「私は」
原田 「編集長の命令や。記事にもでけへんネタ追う前に、与えられた仕事をちゃんとやれ。従われへんのやったらホンマに転職せえ」
前原 「(資料をさとみに渡して)取材までに目通しとけよ。くれぐれも粗相のないようにな」
理不尽に怒りだしそうになるさとみ。
鈴木 「ん。コーヒーでも飲んで一息つきな」
鈴木さん、コーヒーを差し出す。
さとみ 「ありがとうございます」
原田 「おら、もっとパンチのあるネタ持ってる奴おらんのか。パンチのあるやつ」
鈴木 「編集長ー、はい、コーヒー」
原田 「おお、すまんな」
原田、珈琲を受け取り口にする。
鈴木、原田のデスクに飾ってある写真を手に取り
鈴木 「あら~編集長、これ娘さんですよね。えー、すごい、大きくなってー」
原田 「おう、もう中三や。もうすぐ高校受験だとよ」
鈴木 「えー早いですねぇ。もうパパと会ってくれないんじゃないです?」
原田 「ホンマやで。月イチの面会のはずが、もう半年以上会うてへん」
前原 「え、どれっすか」
鈴木 「ほら(と見せる)」
原田 「そのくせ小遣い欲しい時だけはちゃっかり電話してきよる。ったく、そういうところは別れた嫁はんにそっくりや」
前原 「あ、可愛い。編集長の子とは思えない」
福田 「今度紹介してくださいよ」
原田 「はい、お前らぶち殺す」
さとみも仕事に戻る
#2
警視庁渋谷署。夜。
当直をしている刑事課の巡査・山下陽子と交通課の巡査・泉真琴。
陽子は夜食のパンを食べてる。真琴は女性ファッション誌などを読んでいる。
真琴 「わ、このスカート可愛い。ボーナスで買っちゃおかなー」
陽子 「いいんじゃない」
真琴 「(ページをめくって)わ、ふたご座、来月の運勢最悪だ」
陽子 「てんびん座は?」
真琴 「んー、あ、気になるカレと急接近の予感(ハート)だって」
陽子 「ふーん」
真琴 「けどさ、結局今月で世の中終わっちゃうわけじゃん?この占い意味ないよねぇ」
陽子 「え?」
真琴 「恐怖の大王」
陽子 「は?」
真琴 「ノストラダムス」
陽子 「え、真琴、信じてるの?」
真琴 「え、信じてないの?」
陽子 「信じるわけないじゃん」
真琴 「今までチョー当たってるんだよ」
陽子 「何当てたの?」
真琴 「知らない」
陽子 「何それ」
そこに生活安全課の巡査・上原智子が入ってくる。
気合いの入った私服。そして少し酒も入ってる様子。
智子 「おつかれー」
真琴 「おつかれ」
陽子 「あれ?智子今日当直じゃないよね」
智子 「合コン帰り」
陽子 「え?この前合コンでJリーガーの彼氏出来たって」
智子 「は?いつの話よ、それ」
真琴 「大分前に別れたよね」
陽子 「え、そうなの」
智子 「うん、やっぱJリーガーダメだわ。遠征先ですぐ浮気する」
真琴 「夜の得点王!」
智子 「スイーパーなのに!」
陽子 「で、何しに来たの」
智子 「終電無くなっちゃったから」
陽子 「ん?ん?ホテル替わり?」
智子 「まあいいじゃん。一旦帰ったら寝坊しそうだし、それにこれ(婦警の制服)も持ってくるの面倒だし」
陽子 「え、合コンに制服持ってったの?」
真琴 「出た、智子の必殺技」
智子 「そう、逮捕しちゃーうぞって」
真琴 「Jリーガーもこれで落としました!ゴール」
陽子 「それ、ヤバくない?」
智子 「え、そう?カラオケで着たら超盛り上がるけど?」
陽子 「いや、そういう意味じゃなくて、バレたら。ただでさえここのところ不祥事不祥事で警察は叩かれまくってんだから」
智子 「大丈夫大丈夫、バレないって。それより陽子、アンタ、それ」
陽子 「ん?食べる?」
智子 「食べない」
陽子 「美味しいのに」
智子 「美味しいよなぁ」
陽子 「ほれ」
智子 「だって太るじゃん」
陽子 「いいよ、別に。もう辛い減量からも解放されたわけだし」
真琴 「いやいや、そういう問題じゃなくて、女子としてはそっちの方がよっぽどヤバいわよ・・・」
智子 「ねえ、陽子も一度合コン行こ」
陽子 「え?」
真琴 「そうだよ、行きなよ。せっかく柔道引退して普通の女の子になったのにもったいないって」
智子 「どんな人がタイプ?任せて、私がバッチリセッティングするから」
陽子 「いいよ、私そういうの興味ないから」
真琴 「遠慮しないの。ほら、気になるカレと急接近の予感(ハート)」
陽子 「今月で世界終わるんじゃないのかよ」
智子 「で?」
陽子 「うん・・・顔とかはこだわらないけど、強いて言えば」
真琴 「強いて言えば?」
陽子 「自分より強い人かなぁ」
真琴 「何それ、オリンピック強化選手だったアンタより強い人ってそうそういないよ」
陽子 「古賀稔彦選手とか、吉田秀彦選手とか。あ、野村忠宏選手とか」
真琴 「全員金メダリスト」
智子 「もう、柔道忘れなって。前向いていこうぜ」
陽子 「う、うん・・・」
構内放送。事件発生。管内で変死体発見。
放送 「警視庁より入電。警視庁より入電。渋谷区円山町の路地で変死体発見。被害者は若い女性。第一発見者は現場を通りがかった20代カップル。繰り返す」
陽子 「すぐ近くじゃない」
慌てて上着を羽織る。
智子 「これで何件目よ?」
陽子 「7件目!行ってくる!」
真琴 「いってらっしゃい!あ、パン!」
パンを咥えたまま飛び出していく陽子。
放送 「捜査員は至急現場に向かってください」
#3
変死体発見現場。
張られる規制線。先に到着している渋谷警察署刑事課の巡査長・飯嶋太郎。
カップルに事情を聞いている。
ちなみに、飯嶋の服装はスーツにカーキのモッズコート。夏なのに。汗をかきつつ。
飯嶋 「(メモを取りながら)そこを通りかかった際に、被害女性の倒れている足が見えた」
女 「はい」
飯嶋 「先に気づいたのは?」
女 「私です」
飯嶋 「その時人影とかは」
女 「見ませんでした」
飯嶋 「人影なし・・・」
男 「あの・・・」
飯嶋 「ん?」
陽子がやってくる。
パンを咥えつつ。
陽子 「飯嶋さん」
飯嶋 「遅ぇぞ。ガイシャは10代後半から20代前半の女性。左の首筋に裂傷。死因は失血死。なのに現場に血痕はほぼ無し。身分証無し。金品を漁られた形跡なし」
陽子 「またですか」
飯嶋 「ああ・・・(パンをガン見する)」
陽子 「食べます?」
飯嶋 「食わねえよ」
陽子 「美味しいのに」
男 「あの」
陽子 「はい?」
飯嶋 「あーすみません、お話伺ってる途中でしたね」
男 「まだ時間かかります?」
飯嶋 「ええ、すみません、もう少しだけ」
男 「早く終わらせて頂きたいんですけど」
女 「ちょっと・・・」
飯嶋 「(イラっとして)人が一人犠牲になってるんです、もう少し協力してくれたって・・・」
陽子 「わかりました。でしたらすみませんが、そちらでご連絡先を伺ってもいいですか」
と、男と女を脇に連れていく。
そこに駆け付けるさとみ。
さとみ 「(矢継ぎ早に)飯嶋さん、ガイシャは?若い女性?また失血死ですか?」
飯嶋 「はいはい、すみません、取材は受けられません」
さとみ 「なんで」
飯嶋 「なんでって、君報道じゃないでしょ」
陽子 「ありがとうございました。お気をつけて」
カップル、去る。
さとみ 「一連の事件を追ってるんです」
陽子 「一般の方は規制線から先には入らないでください」
飯嶋、煙草(アメリカンスピリット)をポケットから出すが、空ということに気づきため息。
飯嶋 「ちっ(舌打ち)」
さとみ 「いいじゃない、教えてくれたって」
陽子 「ダメですよ」
そこに警視庁公安部の警部・坂崎がやってくる。
坂崎 「なにをやってるんだ」
飯嶋 「・・・坂崎」
坂崎 「ああ、飯嶋か。ちょうどよかった。この事件は本庁で引き取ることになった」
陽子 「は?」
飯嶋 「え?・・・どういうことだ」
坂崎 「そのままの意味だ。だから所轄の捜査員はもう引き上げてもらって結構だ」
飯嶋 「なんでだよ」
陽子 「そうですよ」
坂崎 「本庁からの命令だ」
陽子 「いきなり来ておかしいですよ」
坂崎 「・・・」
陽子 「ちょっと、聞いてるんですか」
飯嶋 「・・・山下。いくぞ」
と、歩き出す飯嶋。
陽子 「飯嶋さん」
後を追う陽子。
事情が読めないまま、二人を見送るさとみ。
#4
独立行政法人日本生命科学研究所。場所は東京の西のはずれ。
主任研究員の沢口美佐子が新聞に目をやっている。
研究員の片山が書類を手にやってくる。
片山 「沢口先生」
沢口 「どう」
片山 「(書類を手渡して)脳の糖代謝速度と酸素消費量は相変わらず一般と比べれば高いですが、いつも通りと言えばいつも通り、脳波や心電図にも異常はありません」
沢口 「そう」
沢口、新聞を片山に見せる。
片山 「・・・やっぱりAですかね」
沢口 「でしょうね」
片山 「世間にバレたら大問題じゃないですか」
沢口 「高見さんのことだから当然根回しはしてるでしょうけど」
片山 「不都合なことはもみ消して・・・か。怖い怖い」
沢口 「腕輪のGPS反応は」
片山 「相変わらず。出てった時に外して、それっきりでしょうね」
沢口 「そう・・・じゃあ抑制剤も」
片山 「他の方法で投与してない限りは」
沢口 「・・・彼女は」
片山 「しばらく休ませてます。検査は身体に負担もかかりますから」
沢口 「何か新しい情報は?」
病院の検査着を着た未来が、助手の木下美月に付き添われてやってくる。
手にはウィダーインゼリーのような容器。
腕には機械的な腕輪が嵌められている。
未来 「出てくるわけないでしょ」
片山 「(助手に)おい、しばらくは動かすなと言っただろ」
木下 「すみません」
未来 「アタシが勝手に動いたの、怒らないであげて」
片山 「ブドウ糖の摂取は」
未来 「ったく五月蠅いなぁ」
片山 「お前なあ」
沢口 「やめなさい。で、今回も思い出すことはなかったの?」
未来 「何も」
片山 「脳波に乱れはありませんでしたので、嘘をついているという可能性は少ないかと」
未来 「だから嘘なんかつかないってば。そもそも赤城孝雄の研究ノート(レシピ)なんて本当にあったわけ」
沢口 「それは間違いないわ。彼は毎日研究結果をノートに付けてた」
未来 「でも、資料を全部燃やして自殺したんでしょ。だったら」
沢口 「失敗も成功も、次に繋がる大事な材料。例えそれがどれだけ危険なものでも、一度生んだものを無かったことにすることはできない。それが研究者の性。現に彼は、あなた(実験結果)を処分することが出来なかった」
未来 「・・・」
沢口 「あなたはここに来る前後の記憶が欠落している。いいえ、無意識のうちに封じ込めている。そこにきっとヒントがあるはずだわ」
片山 「記憶の底を探るのは、脳にも身体にも大きな負担をかける。お前の場合は特に。ブドウ糖の摂取と高濃度酸素の吸入はこちらの指示通り、必ずするように」
未来 「・・・はいはい」
片山 「それから先生、Eの血中のニコチン濃度が上がっていました」
沢口 「煙草はやめるようにあれほど・・・」
未来 「あいすみませんでした・・・ったく、チクんなよ」
片山 「何?」
沢口 「片山くん、データの整理よろしく」
沢口、去る。
片山 「・・・研究者の性か。俺はバケモノのレシピなんて出てこない方が幸せだと思うけどな」
未来 「バケモノって」
片山 「(未来が手にしている容器を指して)そうじゃないって言えるのか」
未来 「・・・」
片山 「赤城孝雄は確かにこの日生研始まって以来の天才だったろうよ。だが、自分の生み出したものがバケモノだということに絶望して自ら命を絶った。その後始末を押し付けられた側はたまったもんじゃない」
未来 「そうね、じゃあここ、辞めたら?」
片山 「たまったもんじゃないと言いながらもバケモノの観察を続けてしまう、これも研究者の性かもしれないな」
未来 「研究者ってみんな変態なのね」
木下、クスリと笑う。
片山 「おい、高濃度酸素室の準備を」
木下 「はい」
木下、去る。片山も去ろうとするその背中に
未来 「ねえ、もう一匹のバケモノはもうすでに暴走してるようだけど?」
片山 「・・・」
片山、去る。
一人残る未来。手にした容器を見つめる。
諦めているはずなのに、どす黒い感情が渦巻いてくる。
ぶつけようのない怒り、自分という存在への苦しみ、湧き上がる吸血衝動。
未来の内面をダンスで表現。
#5
渋谷のクラブ。踊る若者たち。前場のダンスから流れで。
片隅に坂崎の姿もある。
一人制服で入ってくるあおい。青森から出てきたばかり。垢抜けない。浮いている。
早速ナンパされる。上手くスルーできない。
間に入るギャル・ハルカとチヒロ。
ハルカ 「ちょいちょいちょいちょい」
男 「ん?」
チヒロ 「この子嫌がってんじゃん、やめなよ」
男 「あ?邪魔すんなよ」
ハルカ 「新ー」
新がやってくる。
男 「あ・・・」
新 「この店でそういうこと、禁止だから」
新の取り巻きの男が男を連れ出そうとする。
男、バタフライナイフを取り出す。客、驚いて距離を取る。
新、めんどくせえなとばかりにため息。
取り巻きを下がらせて一対一の形になる。
男、新に襲いかかるも一蹴。
まるで新には男の動きが読めているかのよう。
あおい 「すごい・・・」
新 「コイツつまみ出して」
周りにいた男たちが、男を連れていく。
新 「ごめんごめん!お詫びに奢るから好きなドリンクもらって!(DJに)ノリのいいのよろしくー」
盛り上がるフロア。
新 「大丈夫?」
あおい 「あ、はい・・・」
チヒロ 「ここでそんな恰好してたらナンパしてくださいって言ってるようなもんよ」
ハルカ 「見かけない制服ね。修学旅行?」
首を横に振るあおい。
チヒロ 「もしかして家出?」
あおい 「・・・うん」
ハルカ 「なんだウチらと一緒じゃん」
あおい 「え?」
チヒロ 「アタシ、チヒロ、こっちはハルカ、アンタは?」
あおい 「・・・あおい」
ハルカ 「ねえ、新」
新 「ん?」
ハルカ 「あおい、仲間に入れてあげていいよね」
新 「おまえらがいいんだったらいいんじゃない」
あおい 「え、あの、ちょっと・・・」
チヒロ 「行くとこないんでしょ。じゃあウチらと一緒に居たらいいじゃん」
ハルカ 「どうすんの?来るの?来ないの?」
あおい 「・・・行く」
ハルカ 「オッケー、よろしくー」
などとワイワイと。
DJの流すサウンドは盛り上がって・・・
#6
ReCreation社社長室。高見の取材をするさとみと前原。
高見の部下の加賀がそばに控えている。
さとみはデジカメで取材中の写真を撮ったりもしてる。
前原 「高見社長がこのReCreation社を起業されたきっかけは」
高見 「科学は実験室の中だけのものじゃない。人を幸せにするためにある。それが私の信念です。最先端の科学は社会を元気にする。バブル崩壊以降、日本人はすっかり元気を失ってます。私は、そんな日本社会に風穴を開けられるような企業に、と常々思ってます」
さとみ 「ですが・・・」
前原 「なるほど、それで日本生命科学研究所をご退所なさって起業された」
高見 「ええ。」
前原 「素晴らしいお志ですね」
さとみ 「ですが、御社が扱われている生命工学の分野にはまだまだ問題点も・・・」
前原 「おい・・・どうもすみません」
高見 「ああ、いや、お気遣いなく。仰る通り、生命工学の分野はまだ研究途上で、課題とされている点も多々あります。そのひとつに、生命倫理の問題があります。神の領域とされてきたところに人が踏み込む。確かに一歩間違えれば取り返しのつかないことにもなりかねない。だがその反面、例えば遺伝的な疾患を抱えている方たちには、救いになることは間違いない。救いを求める方たちの力になるのが科学だと、私は信じています」
前原 「確固たる信念に裏打ちされて、科学が人を幸せにする」
社員 「(ノックして)失礼いたします」
ReCreation社の社員が入ってきて、加賀に耳打ち。
加賀、頷き、社員を戻らせる。
加賀 「恐れ入りますが予定のお時間です。後も控えておりますのでそろそろ宜しいでしょうか」
前原 「あ!はい、お忙しいところお時間頂きまして・・・」
さとみ 「すみません、最後に一点だけよろしいでしょうか」
高見 「何でしょう」
さとみ 「御社の研究はデザイナーベイビーの実現を後押しするものだという懸念の声もありますが、高見社長はその点についていかがお考えでしょうか」
高見 「貴女、お子さんは?」
さとみ 「いません」
高見 「欲しいと思ってますか」
さとみ 「ええ、いずれ、もし機会に恵まれるならば」
高見 「そうですか。ならば将来、もしご自身が身ごもった際に、お腹の中のお子さんに遺伝性の疾患があると知ったらどうなさいますか。産みますか、堕胎しますか」
加賀 「社長」
高見 「疾患があるから胎児を堕ろす。それが倫理的に問題があることは誰もが承知です。だが、こと自分の子供の話となると・・・それでも産もうと思えるほど誰もが正しく強い訳ではありません。それに、この社会にはそれをサポートできるような環境も整っていない。きっと貴女は正論と本音の間で揺れ動くことになるでしょう。そして、どちらの道を選んだとしても、貴女は十字架を背負うことになる。桜井さん」
さとみ 「はい」
高見 「我々の研究は、明日の貴女を救うものなのかもしれない」
高見 「産むか堕ろすかの板挟みを作らないこと。その選択以前に疾患の原因自体を取り除くこと。これが弊社の研究です。どうかご理解を頂きたい」
さとみ 「・・・」
前原 「我々の研究は明日の貴女を救うかもしれない、社長、そのフレーズ頂きです。すごく響く言葉ですよ」
高見 「記事の方、楽しみにしてますよ」
前原 「ええ、それはもちろん!では、失礼いたします。ほら、行くぞ」
さとみ 「はい」
前原とさとみ、出てゆく。
高見 「明日の貴女を救う、か・・・」
加賀 「どうなさいました?」
高見 「いや、今の話はある男が言ってたことの受け売りだ。結果的にその男は、自分自身の明日をその手で潰すことになったがな」
**************
同社廊下。
退室したさとみと前原が歩いてくる。
前原 「おい、失礼なこと言うなって言っただろ」
さとみ 「生命工学に対する一般的なイメージを聞いただけじゃないですか」
前原 「大口の広告主なんだぞ、機嫌でも損ねられたら」
さとみ 「だからちゃんと取材してるんじゃないですか。広告主だからって中途半端な提灯記事出してたらそれこそ読者は読みもしませんよ」
前原 「・・・ったく、だからおまえ連れてくるの嫌だったんだよ。編集長も余計なことを・・・」
前から松本と坂崎がやってきてすれ違う。
さとみ 「え・・・あの人・・・」
前原 「おい、何してんだ、早く行くぞ」
さとみ、とっさにデジカメのシャッターを切る。
さとみ 「はい」
さとみ、前原の後を追う。
**************
同社社長室。
高見、加賀と松本、坂崎がいる。
松本 「急な訪問となって申し訳ない」
高見 「いえ。今日はどのような」
松本 「Nプロジェクトの進捗状況は」
高見 「今は特定層への感染力を高めたウィルス株を作成し、それぞれのワクチンの開発をしているところです」
松本 「なるほど。総裁選が9月になりそうな見通しです。与党内は既にそこに向けて動き出している。なにがしかの確信材料が欲しいと」
高見 「そうですか」
新 「だったらひとまず毒性をかなり抑えたやつで試してみたら」
と、新が入ってくる。
新 「それならちょっとした騒ぎで済むでしょ」
高見 「新、酒臭いぞ、また夜遊びか」
新 「加賀ちゃん、朝メシくんない?」
加賀、出てゆく。
松本 「久しぶりだな、新くん」
新 「ども」
松本 「君の最近の動向はここにいる坂崎警部から聞いているよ」
新 「いやはやお恥ずかしい」
松本 「若いのだから遊びたいのも無理はない。だが、もう少しプロジェクトの方にも力をかけて頂きたい」
高見 「申し訳ありません」
加賀、未来が飲んでいたのと同じ容器を持ってくる。
新 「どーも」
新、受け取る。
高見 「で、どう試す」
新 「ホームレスとかで試してみたらいいんじゃない。あーなんなら俺が散布しながらデータを取った方が手っ取り早いか」
松本 「君自身が感染してしまうということはないのか」
新 「俺は安全すよ。だって、このウィルスはV.A.M.Pの再現実験で生まれたんだから」
松本 「それがどう関係する」
新 「んー超大雑把に言うと、予防接種済みってことかな」
松本 「このウィルスは君には無害だと」
新 「試してはいないけど、理論的にはね」
新、容器を口にして飲む。
新 「・・・マズ。あ、ワクチン増産にうってつけのところあるじゃん。近いうちに当たってみますよ」
新、出てゆく。
松本 「・・・彼の言ってたこと、間違いはないのですか」
高見 「ええ、理論上は」
加賀 「遺伝子組み換え技術において、組み換えたい遺伝子を一旦ウィルスに組み込んで、それを対象の細胞に感染させ、細胞内に送り込む。これは一般的な手法です。この、遺伝子の運び屋となるウィルスをベクターと言います。ベクターとして使用する際、ウィルスのDNAからは有害物質を生成する遺伝子は抜き取っておきます。ですが、付け加えた遺伝子との兼ね合いで、稀に思わぬ形質が発生することがあります。それが今回使用するウィルスのオリジナル株です」
高見 「このウィルスはV.A.M.P、通称ヴァンプの再現実験において偶然生まれました。つまり、新はこのウィルスに非常に良く似た遺伝子をすでに持っているというわけです」
松本 「ならば今後も毒性を持つ別のウィルスが生まれる危険性も無くはない・・・」
高見 「ええ。そもそもV.A.M.P自体が、先天性遺伝子疾患を未然に防ぐ研究から偶然生まれたものですからね。とはいえ、先ほど加賀くんが申した通り、有害物質を生成する遺伝子は除去しておりますので、危険なウィルスが生まれてくることは極めて稀だと言えます」
松本 「なるほど。それから、彼がワクチンの増産にうってつけのところ、と言ってたが」
高見 「恐らく、日生研のことかと」
松本 「日生研か・・・」
高見 「何か」
松本 「いや。日生研は厚生省の管轄だ。党内の厚生族の議員には事前に働きかけをしておいた方がいいかもしれんな」
高見 「よろしくお願いします」
松本 「では、今日はこれで失礼する」
加賀 「お見送りに参ります」
松本 「いや、ここで結構。あまり目立つと良くない」
高見 「では、ここで失礼いたします」
松本、坂崎出てゆく。
高見 「・・・加賀くん、新亜細亜の李会長からの返事はどうなっている」
加賀 「はい、会長は、自分はもう一線を退いた身。判断は娘で現社長のリリアン・リー氏に委ねる、と」
高見 「娘か・・・」
加賀 「何かご懸念でも」
高見 「女は子供が絡むと道理よりも情を選びがちだ。リリアン氏もそうでなければいいが」
加賀 「社長、お言葉ですが、女も様々です」
高見 「(苦笑して)そうだな、失礼した。いずれにせよ、二十一世紀に向けて中国は欠かすことが出来ない市場(マーケット)だ。引き続きコンタクトを続けてくれ」
加賀 「かしこまりました」
**************
同社廊下。
歩いてくる松本と坂崎。
松本 「坂崎君、君をAに付けて1カ月になる。君から見て、彼はどう映っている」
坂崎 「事情は大方聞いておりましたが、正直、自分の目を疑うことの連続です。身体は脳の容れ物に過ぎない。何かの本で読んだ話をまざまざと見せつけられているような気がします」
松本 「身体は脳の容れ物か・・・確かにそうかもしれん。遺伝子操作の副産物として、脳の情報伝達速度が圧倒的に上がった。Aは、言わば人の手によって作られた天才だ。人の頭を機械に例えるなら、彼の脳はさしずめ最新式のスーパーコンピューターみたいなものだと、以前高見が自慢げに話していたよ」
坂崎 「それが二体いる、と」
松本 「ああ、コードネームAとE。アダムとイヴの頭文字を取ったのだそうだ」
坂崎 「神が最初に創った人間たちですか」
松本 「神にでもなったつもりなのだろうな。ただ・・・厄介なのは、彼の形質が遺伝する可能性があるということだ。彼らの繁殖は、一歩間違えば国家にとって多大な脅威となる。我々の手で厳重に管理しなくてはならない」
坂崎 「・・・はい」
#7
日本生命科学研究所。屋上。
ふらりとやってくる未来。(検査着ではなくなっている)
手すりにまで近づき、景色を眺める。
蝉の鳴き声、鳥のさえずりなどが聞こえる。のどかな西東京の初夏。
下を見る・・・が、飛び降りたりする気はない。
ポケットから煙草を取り出し、火をつける。
そこに助手の木下がやってくる。
木下 「あ」
未来 「あ・・・」
バツが悪そうに煙草の火を消そうとする未来。
木下 「あ、大丈夫ですよ。誰にも言いませんから」
未来 「・・・」
木下 「本当に、言わないんで」
未来 「・・・ありがとう」
未来、煙草を吸い続ける。
未来・木下「あ」
同時に話しかけてしまいまごつく二人。
木下 「あ、先にどうぞ」
未来 「いや、そっちこそ先に・・・どうぞ」
木下 「すみません。こんなところで何してるんですか・・・って、あ、煙草か。見ればわかる質問してしまった・・・」
未来 「なんとなく似てるんだよね」
木下 「え?」
未来 「懐かしい場所に」
木下 「この屋上が?」
未来 「・・・。そっちこそ、何しに来たの」
木下 「あ、私は・・・まあ反省というか、気分転換というか」
未来 「また片山に怒られたの?アイツねちっこいからなぁ」
木下 「そうなんですよ、ちゃんと説明してくれたらいいのに、説明もしないくせに怒るんだもん、なんなのあのモジャメガネ・・・あ」
未来、くすっと笑う。
木下、照れ笑い。
未来 「木下さん・・・だっけ?」
木下 「はい、木下美月です」
未来 「美月ちゃん。かわいいね」
木下 「そんな。あ、えと・・・」
未来 「未来って呼んでくれるかな。EとかAとか記号で呼ばれるの好きじゃないんだよね」
木下 「ですよね・・・。未来さんは強くてすごいなぁって、いつも思ってます」
未来 「強い?」
木下 「はい、片山さんにも負けてないし、それに自分の境遇にだって」
未来、微笑みながら煙草を吸う。
未来 「素敵な未来が来ますようにっていう意味で付けたんだって」
木下 「え?」
未来 「私の名前。私のお母さんが言ってた」
木下 「そうなんですね」
未来 「誰にとって、だったのかなぁってずっと思ってる」
木下 「え?」
未来 「私自身にとってなのか、私以外のみんなにとってなのか」
木下 「・・・」
未来 「なんてね」
沢口が入ってくる。
沢口 「どちらもよ」
木下 「あ・・・」
沢口 「あなた自身の未来も、人類の未来も、どちらもを願って赤城君が付けた」
未来 「・・・」
沢口 「喫煙は脳の活動に悪影響を及ぼすからやめなさいって言ったはずよ。木下さんも、どうして止めないの」
木下 「すみません」
未来 「美月ちゃん、またね」
未来、煙草を消して、立ち去る。
木下 「あ、未来さん・・・」
木下、追おうとする。
沢口 「待ちなさい」
木下 「でも・・・」
木下、追うのをやめる。
沢口 「あの子の脳については、片山君から聞いてるわね」
木下 「・・・はい、ひと通りは」
沢口 「あの子の脳細胞内の情報伝達速度は、少なく見積もって私たちの2倍、状況によってはそれ以上に達するわ」
木下 「はい」
沢口 「その代償として、あの子の脳は、通常のヒトの倍近い酸素とブドウ糖を消費するの」
木下 「はい、酸素の消費がV.A.M.Pの吸血衝動に繋がると・・・」
沢口 「・・・そう。呼吸によって取り込める酸素量は決まってる。でも、それを上回る酸素を身体が欲する。だから?」
木下 「だから・・・不足分を他人の血液に含まれる酸素の経口摂取で補う」
沢口 「喫煙は血中の酸素濃度を下げるわ。つまり、吸血衝動の引き金となるの」
木下 「あ・・・」
沢口 「いい?私たちにはあの子を救う義務があるの。以後、気をつけて」
木下 「かしこまりました・・・」
沢口 「分かったら仕事に戻りなさい」
木下 「はい、失礼します」
木下、頭を下げて去る。
#8
渋谷の街、裏通り。夜。足音。
息も荒く逃げてくる若い女性。
袋小路に追い詰められる。
追い詰めているのはハルカとチヒロ。
闇から現れる新。
女性 「・・・助けて!助け・・・」
女性の首筋に牙を立てる新。
女性は絶命する。
それを見張っている坂崎。
#9
警視庁渋谷署。朝。
帰ってくる陽子と飯嶋。
智子 「どうだった」
陽子 「今回も一緒。失血死。首元に裂傷」
智子 「よく教えてもらえたね」
陽子 「監察医務院の若い先生買収した」
智子 「え、マジで。どうやって」
陽子 「コンパで釣った」
智子 「はぁ?」
陽子 「東京都福祉保健局勤務、公務員、医者、三十代、次男、特技:司法解剖。後はよろしく」
智子 「ちょっと・・・最高じゃないの」
陽子 「でしょ」
飯嶋 「で、そっちは」
智子 「あ、はい、行方不明者でビンゴ。一週間前に家出で捜索願が出されてた女子高生」
飯嶋 「そうか・・・」
陽子 「ねえ、飯嶋さん、やっぱりおかしいですよ。これだけ類似した事件が続いてたら本庁が乗り出してくるのは分かりますけど、それにしたって捜査本部が立てられるのが普通でしょ」
飯嶋 「ああ・・・」
陽子 「あの人、誰なんですか」
飯嶋 「え?」
陽子 「だから、この前の円山町の時に来た本庁の人、顔見知りだったみたいだけど」
飯嶋 「ああ、坂崎大輔警部。警察学校時代の同期だ。今は本庁の公安部に配属」
陽子 「え、公安部?」
智子 「うわ、さすが公安。同期なのに片や警部で片や巡査部長って」
飯嶋 「うるせえ」
陽子 「でも、なんでこの事件が公安なんですか。普通刑事部でしょ」
飯嶋 「俺もこの前からずっとそれが引っかかってるんだけど・・・」
そこへさとみがやってくる。
さとみ 「おはようございます!あ、飯嶋刑事」
陽子 「あ、また来た」
さとみ 「山下さんもおはようございます」
陽子 「どうも」
智子 「誰?」
陽子 「週刊新流の記者」
智子 「ああ」
さとみ 「8件目ですよね」
飯嶋 「ノーコメント」
さとみ 「なんでですか、記事にすることで解決に繋がるかもしれません」
陽子 「だから、おたくは報道じゃないでしょ」
さとみ 「真実を突き止める気持ちに、報道も週刊誌も関係ありません」
飯嶋 「外されたんだよ」
さとみ 「え?」
飯嶋 「俺たちは一連の事件の捜査から外された。だから話せることもない」
陽子 「そういうこと。どうぞお引き取りを」
さとみ 「・・・もしかして、捜査を引き継いだのはこの前の円山町の現場に来られてた方ですか」
飯嶋 「だからノーコメント・・・」
さとみ 「私、あの人を見たんです」
飯嶋 「え?」
さとみ 「事件と直接関係あるかわかりませんが、別の取材でいったReCreation社の廊下で」
陽子 「ReCreation社?」
智子 「あ、最近社長がテレビによく出てるバイオベンチャー企業だ」
さとみ 「これ」
と、印刷した写真を見せる。
智子 「いや、後ろ姿。おまけにちょっとボケてる」
さとみ 「すれ違ってから急いで撮ったから」
飯嶋 「似ていると言われれば似ているかもしれないけど・・・」
陽子 「隣の男性は」
さとみ 「わかりませんけど、40代半ばくらいで、背が高くてやせ型、精悍な顔つき。スーツを着てましたが、会社員という雰囲気ではなかったかと」
智子 「どストライク」
飯嶋 「本人だとしても、なんで坂崎が・・・」
さとみの携帯に着信。
画面を見て、出ずに仕舞う。
智子 「いいの?」
さとみ 「大丈夫です、実家からなんで。どうせお見合いの話とか、そんなことだから。後でかけ直せば」
智子 「わかるー、ウチもよくかかってくる」
陽子 「桜井さん」
さとみ 「はい」
陽子 「あなたさっき、真実を突き止める気持ちに、報道も週刊誌も関係ないって言いましたよね。あれ、本気ですか」
さとみ 「・・・本気です。私、中学生の頃に親友が失踪したんです。結局行方不明のまま。人一人が居なくなることって、決して軽いことじゃない。その周りの、沢山の人たちはずっと心に抱え続けているんです。だから、真実を突き止めたい。そして伝えたい。そう思ってます」
陽子 「・・・坂崎警部は警視庁公安部の人間です」
飯嶋 「おい・・・」
さとみ 「公安・・・」
陽子 「私たちもなぜこの事件(ヤマ)に公安が絡んできてるのかわかりません。でも、通常なら捜査本部が立てられるはずなのに一向にその気配はないし、捜査も進んでいるようには思えない。おまけに坂崎警部がReCreation社に顔を出してるというのも気になります」
さとみ 「確かに」
陽子 「協定を結びましょ。あなたは真実を伝えたい。私はこれ以上被害者を出したくない。利害は一致します」
飯嶋 「おい、山下・・・」
陽子 「飯嶋さん、このまま引き下がるんですか。これは私たちの事件(ヤマ)でしょ」
飯嶋 「だが・・・」
陽子 「所轄の意地、見せてやりましょうよ」
飯嶋 「山下・・・」
智子 「(さとみに)これ、「踊る大捜査線」のセリフ。あの人憧れてるからこれ言うと大体落ちるのよ」
飯嶋 「・・・仕方ないなぁ(青島刑事意識して)」
智子 「ほらちょろい」
さとみ 「本当に大丈夫なんですか。警察官服務規程とか」
飯嶋 「なに、規則ってのは、破るためにあるんだよ。なんてな(和久さん風に)」
智子 「いや、ダメだろ」
陽子 「あくまでも、私たちは捜査を外された身です。なので、直接事件を追うことはできません。ですが、別件を捜査しながら事件に関係のありそうなことがあれば、桜井さんに共有します」
さとみ 「別件」
陽子 「行方不明者の捜索。直近で捜索願の出ている人、特に若い女性を。そこから何か手掛かりが無いかを探します」
さとみ 「なるほど」
陽子 「それなら立派に生活安全課の仕事です」
智子 「え、私まで巻き込まないでよ~」
陽子 「合コン、取り付けてあげたでしょ」
智子 「はぁい」
一同、笑う。
さとみ 「じゃあ私はReCreation社の周辺を洗ってみます。これ、私の連絡先です」
さとみ、名刺を渡し、一礼して去る。
(つづく)
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