純子
人は名前のように成るとよくいったものだが、私は名前とは全く逆に生きてきてしまったと思えてならない。
「純子」お母さんが私を呼んでいる。
私の名前は純子。名前からはたいそう貞操のよい女の人をイメージされるかもしれないが、私は一般に言うやりマンである。前述した通り名前とは真逆である。
私がやりマンな理由もしくは言い訳をするなら、男の人に好かれるからだ。私の顔は、一般に言う美人に当てはまらない。目が少し離れている。けれども鼻の形はよい。口元は小さくて特徴はないが、前歯の真ん中がすきっ歯なのだ。聞いた話では、フランスでは前歯の真ん中がすきっ歯という特徴はチャーミングとされているとどこかで聞いたことがある。そんな歯をした女優を見たこともある。なので私は自分の歯がたいそう気に入っているのだ。そして、お餅のように肌は白くて柔らかい。足はまっすぐ伸び、太ももは程よく細く、膝の皿が綺麗に見えている。ファッションセンスは、程よくラフなバランスを好むが、身体の曲線がしっかりとあり、女性らしさを感じさせるらしい。
性格は、特に女性特有のかわいらしさを売りにはしていないが、ボーイッシュにサバサバとした性格を全面に出してもいない。時々ノリでぶりっ子の真似をしてみるが瞬時に地声に戻す事でユーモアを感じさせたりもできる。なので女友達もほどほどにいるのだ。そして、程よくみんな綺麗にしていて、流行を抑えたファッションをしているから不思議だ。類は友を呼ぶとはこのことだろうか。
さて、私はモテる。モテるからやりマンになれるのだ。モテる理由。それは、程よいからだろうか。程よく器量が悪く、程よく肉がついた身体が女を感じさせ、程よくとっつきやすい性格を持ち合わせているからではないだろうか。
そんな程よい私に、声をかけてくれる男性のうちの一人に、出版社に務める彼がいる。彼は、清潔感がある見た目をしており、いつもコンパクトなノートパソコンを持ち歩いている。出版社に努めていることに誇りを持っており、自分のことをモテると思っている。それは私も人のことは言えないのだが。
「君は足が綺麗だからスカートを履けばいい」と私に言ってくる。私は程よく合わせるかと思いきや、そこはあまのじゃくな性格が顔を出してきて、彼の前では、ラフなパンツ姿で会うことにしている。彼とのセックスの時、彼は私の足先まで愛無してくる。私の膝の皿の形が大のお気に入りらしく、膝からつま先まで愛無するのが好きなようだ。私は感じない。ため息は漏らすけれども、自分を見失うことはない。彼は、我を失って私の身体を愛し、自分の欲求が満たされた瞬間に果てていく。私は、果てた後の彼の頭をなでながら天井の模様を見ているだけで、私の愛情はどこにも存在していない。
セックスをする男性は数人いる。出版社の彼はまともな方だ。私をもてなしてくれるからだ。中には、我先にと食べ物を食べるみたいにセックスしていく男性もいる。
そんな彼たちの中で、私は一人好きな人がいる。正確にはお気に入りだ。彼は大学生で、バイトと就活の間で生活をしている。私のことを「純子さん」と呼んでくれる。彼は私にご飯を作ってくれる。「純子さんが食べたいものを作るよ」と言って、辛いものが苦手な私の味覚に合わせて料理をしてくれるのだ。今日はシチューが食べたかった。だからリクエストをして作ってもらった。ブロッコリーとゴロゴロのじゃがいもと胸肉が入ったなんの変哲もないシチューだが、彼が作ってくれると美味しくてお代わりをしてしまう。向き合ってシチューを食べていると、彼に対して愛着心が湧いてきて、昨日あった出来事やお笑い番組の話など次々と話してしまう。彼は、いつもそんな私のことを見つめながら、楽しそうに聞いてくれるもんだから、私は図に乗ってまた話してしまう。
私がやりマンな理由は、程よい私のポテンシャルなだけではなく、自分の価値を確かめたいという欲求が強いような気がする。誰かに必要とされていることで安心できるからじゃないかと思う。一人でいると安心できないのだ。別に幽霊が見える訳では無いが、子供の頃は一人でいると幽霊が現れそうで怖かった記憶がある。
シチューを食べ終わったあと、私達は一緒にお風呂に入る。浴槽に彼の身体にもたれてゆったりと浸かるのが気持ちいい。彼は私の乳房を愛無する。「純子さんの身体が好き」。彼は愛おしそうに私の身体を愛無していく。私の中心が熱くなっていく。彼は私の中に入ってきて、私の名前を呼ぶ。小さな波が何度も何度もやってくる。私は彼の首に絡まりながら、大きな波が押し寄せて来たときに、上手く乗れるように、何処か遠くに行ってしまうのが怖くて彼の首筋に捕まっている。大きな波がやってきた。私は高く跳ね上げられ、自分の力ではどうしようもできない場所に連れて行かれる。「待って」と言ってしまったが、待ってはくれなかった。その後も、波は立て続けに訪れ、私の意識は薄れていく。
気がつくと、裸の私は海辺に打ち上げられていた。
誰も居ない海辺に一人だけ。私は、怖くて震えてしまう。「誰かいませんか」。私は寂しくて泣いてしまう。「私を一人にしないで」。と何度も泣きながら叫んだ。
「純子さん」。私の名前を呼ぶ声が聞こえた。私は、彼の身体に繋がっている。彼は私の顔をなでながら「大丈夫」と聞いてくる。私は彼の首筋に覆いかぶさるように捕まって何も言わずに泣いた。
「純子さん、そんなに痛かったの、ごめん」と彼が心配そうに聞いてくる。「違うの」と私は答え、さらに彼の身体を抱きしめた。「安心したの」。
私はこうして、一人でいても怖いが、時々誰かと繋がっていても何処かに行ってしまって、結局は一人ぼっちになるときがある。こんな経験をいつもする訳では無いが、セックスをしていると孤独になるときがあるのだ。そんな経験談を、程よい私は、程よい女友達に相談してみようかと思っている今日此の頃です。
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