天災よりも人間の方が恐ろしい。韓国のパニックスリラー『コンクリート・ユートピア』
2024年1月5日公開の韓国映画『コンクリート・ユートピア』を試写で鑑賞。
新春早々、人間同士が奪い合い、争い合う、人心を惑わす映画を全国公開するクロックワークスさん、流石です。
韓国ソウルを襲った未曽有の大災害。その中で奇跡的に倒壊を免れたマンションの住人は、救いを求めて集まってきた外部の人々を追い出して籠城。
マンション内の意見をまとめ、規律を作るための代表者を選ぼうという話になり、影が薄く自信なさげな902号室の住人ヨンタク(イ・ビョンホン)を選出する。それからのヨンタクはリーダーシップを発揮し、住人たちを上手くまとめ、まさに被災地の中の楽園(ユートピア)を作ったかのように見えるが…
――と、いうお話。韓国映画なので、これで「良かったヨカッタ」で収まるわけがない。むしろここからが本番。
マンションの自警団が外を見廻り、食料が残ってる店から強奪まがいのことをやりはじめたり、一度は追い出された人が再びマンションに戻ってきてひと悶着あったりと、事件は続く。小さな波紋はやがて大きな波となり、人間関係を揺るがして行くわけです。当初は善人に見えたヨンタクは、次第に独裁者のようになって、人間関係に歪みが生じて行く。
この映画を観て、フランク・ダラボン監督の『ミスト』(2008年)を思い出しました。身を守るためにスーパーの中に籠城した人々の仲間割れやエゴが描かれる映画で、『ミスト』では霧から逃げるためなのですが…有事の時に一番恐ろしいのは人心で、他人を蹴落としてでも自分の居場所を守りたいという、徹底した個人主義の主張です。
隣の奴が死のうとも、自分が良い思いが出来れば良い。誰かの代わりに成りすまして得をしたい。韓国映画ではこうした人間のエゴ、身勝手さが描かれた作品が多いような気がします。『パラサイト 半地下の家族』(2019年)とか。
マンションの602号室に住むミンソン(パク・ソジュン)と、その妻ミョンファ(パク・ボヨン)という若夫婦がこの映画のキーパーソンで、住人をまとめて行くヨンタクに心酔するミンソンと、事態の危なさを一歩引いて見ているミョンファという人物像が、映画後半の畳みかけに上手く効いてくる。
そして映画の進行に合わせて顔つきが変わって行くイ・ビョンホンの芝居も注目。
本作はデザスター映画としての側面もあり、ソウルの街が壊滅して行くビジュアルと、荒廃した街の様子などは一見の価値がある。阪神大震災や東北の震災のような災害に見舞われたことのない国から、こういう映画が産まれたことにまず驚く。
そしてサスペンス映画であり、デストピア映画でもある。なぜサスペンス映画の要素があるのか、に関してはヨンタクの身の上に絡んでいるのだが、それは本編を観てのお楽しみ。非常に胸糞の悪い話なのではありますが、うっすらと人の心が照らす灯りのような希望も感じさせ、130分の長尺を飽きさせません。実にスクリーン映えする映画なので、劇場での鑑賞がお薦め。
コンクリート・ユートピア 原題:콘크리트 유토피아
監督、脚本:オム・テファ
撮影:チョ・ヒョンレ
美術:チョ・ファソン
編集:ハン・ミヨン
出演:イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン、キム・ソニョン、パク・ジフ、キム・ドユン
2023年 韓国/130 分/ビスタ/5.1ch/
字幕翻訳:根本理恵
配給:クロックワークス
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