原作の名場面を再現したOVA『AMON デビルマン黙示録』
前回に引き続き、『デビルマン』のお話。
『AMON デビルマン黙示録』は、飯田つとむ監督が手がけたOVA『デビルマン 誕生編』(1987年)及び『デビルマン 妖鳥シレーヌ編』(1990年)の発売を経た後の2000年にリリースされた完全新作のOVA作品。製作元のSPE・ビジュアルワークスとは、現在のANIPLEXだ。スタジオライブのアニメーター、わたなべひろし氏が監督したOVA『夢で逢えたら』(1998年)で、絵コンテと演出を担当した竹下健一氏が初監督に抜擢され、1999年から製作開始。
永井豪の原作を再構築、プラス新要素のOVA
本編開始時にテロップで世界観の説明はあるが、『デビルマン』講談社KCコミックス第5巻のお話をアニメ化した内容なので、いきなり物語が佳境に入ってる感じでスタートする。飯田監督の『デビルマン』OVA2作品が世に出た後なので、最初から原作ファンをターゲットにしているのかも。『妖鳥シレーヌ編』のあと、バンダイビジュアルのOVAでは動きがなかった、原作アーマゲドン編のチラ見せ企画かなぁ、ぐらいに当時は思っていた作品だ。飛鳥了がテレビ放送で「不動明は悪魔と合体した男だ」と明かし、世間では民間人らの悪魔狩りが始まっている混乱の世界。
牧村家が襲撃される様子と美樹の惨殺は割と序盤で描かれる。失意の明の中で、ずっと眠っていたはずの悪魔アモン(不動明と合体したデーモンの勇者)が目覚め、自我を取り戻して暴れるという内容である。原作でも過去のアニメ化作品でも、明と合体したデーモンがどんな姿なのかは分かっていないので、クリーチャーデザインとして本作に名を連ねている韮沢靖氏が、アモンのデザインを新規に起こしている。他の人間側のキャラクターデザインは神志那弘志氏。
アモンが目覚めて暴れまわる中、精神世界で不動明が変身するデビルマンとアモンは戦い、どちらが身体を支配するかという本作のシナリオは面白い。随所に原作の名シーンや台詞を散りばめて、豪ちゃんファンの心をくすぐる作りも結構。美樹の生首は早いうちに視聴者に見せてしまう。
これを早々とやってのけたことについて、監督の竹下氏は以下のように話している。
原作よりも活躍をするミーコ
悪魔と合体しながらも人間の心を失わず、デビルマン化した少女のミーコ。原作では悪魔特捜隊本部で実験材料にされている所を明に救出され、そのままフェードアウトするが、本作では明の部下のような立ち位置でデーモンの討伐に参加し、それなりに活躍している。声優は田中理恵さん。原作通りに溶解液でデーモンを溶かす場面が出てくる(原作はスケバングループの女生徒を溶かすが)。東映で2004年に公開された実写映画『デビルマン』にも登場するが、なぜか刀を武器に戦っていた。湯浅政明監督の『DEVILMAN crybaby』(2018年)のミーコは、容姿も役割も原作とは全然別もの。だが、牧村美樹にコンプレックスを抱く同級生として非常に良い役回りを演じる。その意味では、唯一原作通りのミーコが出てくる映像作品でもある。ラストバトルまで出番が続かないのはちょっと残念なのだが……
ミーコだけでなく、原作終盤のハイライトも独自アレンジで結構拾っている脚本が好印象。悪魔特捜隊本部で拷問部屋の惨状を目の当たりにした明ことデビルマンは、「俺は牧村家に災いの種を撒いてしまった」と悩む場面が原作にあるが、本作ではこれを夕暮れの教室という明のイメージシーンで見せている。原作同様の台詞で心情を吐露する明に、美樹が「違うよ」とでも言うように無言で首を振り、口づけで明の苦悩を赦すシーンは本当に最高だ。
原作の精神を尊重した内容…であるが故に、初見組はやや難解
本作はのっけから、飛鳥了が不動明の正体をテレビで公表するシーンがある。しかし冷静に観るとこのOVA、飛鳥了が何者なのか、不動明とどういう関係性の人なのか、手がかりを得る描写がないのだ。了が明の正体を明かして人間社会から居場所を奪うのは、近い将来に人間たちを滅ぼしたデーモンだけの世界が来た時、愛する不動明もデーモンの一員として生き残らせたかったから……なのだが、原作で了自身が語るその理念は全く触れられないまま終わってしまうので、彼の真意が分からず、天使の翼を持つサタンという唐突な正体の見せ方もあって、明を罠に嵌めた狡猾な策士という印象しか抱かれないだろう。もうこの辺は、原作既読組に向けた名場面の映像化に終わってしまってるのが勿体ない。どうして了が明を裏切るような行動を起こしたのか…が、サタンの恋心に結び付く最後の鍵なのだが。
監督のコメントにあるように、このOVAの趣旨は、原作で描かれなかった部分を埋めるためのものだそうで、その周辺の出来事は本作の目玉である勇者アモンの再来を見せるための副次的な事件だったのかも知れない。このOVAでしか観られない原作のアニメ化要素も多いだけに、色々と惜しいなと感じるのだが、一部は成功してるように思える。原作通りの外見でサイコジェニーが初登場するのも嬉しい。
『デビルマン』は『少年マガジン』での連載が終了してからも、様々な形で作者自身のスピンオフや新作が描かれてる漫画なのだが、中でも1980年に角川書店の雑誌『バラエティ』で発表された短編の無言劇(台詞が全く発せられない)を、このOVAの最後に持ってきたのは流石だと唸った。
美樹の首を埋葬した明が、背後でそれを見つめていた了と言葉も交わさずにすれ違って行く、決定的な2人の決別を現わすシーン。これは原作未読の人が当OVAを観ても、印象に残る場面だろう。最終戦争はこれからなのだ。
スタジオライブの制作ということで、原画には芦田豊雄氏を始め、パンチラOVAで有名な『AIKa』『ナジカ電撃作戦』の山内則康氏、近作『宇宙よりも遠い場所』のキャラデザで知られる吉松孝博氏など、ライブのアニメーターが多く参加しているので、作画マニア的な目で観ても楽しめるアニメだと思います。でもやっぱり、原作漫画を読んでいる人向けかなーって気がする。良いとか悪いとかの話ではなくて。
■企画:白川隆三、永井謙次
■総監修:芦田豊雄
■監督:竹下健一
■脚本:早坂律子
■脚本協力:佐藤大、志茂文彦
■絵コンテ :竹下健一、竹内浩志
■キャラクターデザイン:神志那弘志
■クリーチャーデザイン:韮沢靖
■作画監督:神志那弘志、竹内浩志
■美術監督:吉崎正樹
■色彩設計:江夏由結
■音響演出:はたしょうじ
■音楽:小林武史&MANGAHEAD
■アニメーション制作:スタジオライブ
©1999 永井豪/ダイナミック企画・SPEビジュアルワークス
次回のnoteは、またまた豪ちゃんの『デビルマン』映像化作品、飯田つとむ監督のOVA『デビルマン 誕生編/妖鳥シレーヌ編』について書くでガスよ。