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撮影現場を支えるおにぎり 『映画の朝ごはん』レビュー

邦画のDVDに収録されているメイキング映像で時折目にする、おにぎり2つと唐揚げが透明プラ容器に入ったお弁当。知る人ぞ知る”ポパイ”という弁当屋さんの物。ドラマや映画の撮影に欠かせない弁当にスポットを当てたドキュメンタリー映画『映画の朝ごはん』(11月10日公開)を試写で拝見しました。

この映画で初めて弁当屋さんの内側を知りましたが、ポパイのおにぎりって殆ど手作りだったんですねぇ!
コンビニを始め大手チェーンに卸してる物は、工場のラインで機械が製造しているのですが、ポパイは三角の木枠こそ使えど、ご飯をそこに入れる所から全て手作業。具材の詰め方や表面に塩をまぶす工程、手際よい作業風景を見られて驚きました。お米を研ぐのも炊くのも当然、お店の従業員なわけですが、ひとつの映画の現場に提供する弁当の数に対して炊くご飯の量にも驚き。

『映画の朝ごはん』には、当然こうした撮影現場もふんだんに出てきます

 ドキュメンタリーだけあって登場する映画人も大勢で、『回路』の黒沢清、『シン・ウルトラマン』の樋口真嗣、『楽園』の瀬々敬久、『リンダリンダリンダ』の山下敦弘、『ばるぼら』の磯見俊裕といった映画監督&美術監督から、俳優の内藤剛志、ほか多くの助監督、制作部の皆さんが、ポパイのおにぎりの素晴らしさを熱く語る。ナレーターは小泉今日子。ポパイの従業員は、社長含めて深夜とも夜明けともつかない3時から働いている姿が映し出される。

 もちろんこれは、ポパイのPR映画というわけではないので、撮影現場や邦画界の内情にも色々と触れていて、黒沢清さんと瀬々敬久さんの談話に出て来る「一般映画のロケバス集合場所は新宿西口スバルビルで、ピンク映画は一般映画と距離を取って向かいの安田生命ビル集合だった」というエピソードや(現在は開発でどちらのビルもなくなったので、西新宿の新宿郵便局前の集合が多いとか)、新型コロナが及ぼした映画界への影響など興味深い部分も多い。

11月10日(金)よりキネカ大森で公開

 んで、この映画、お弁当屋さんだけでなく制作進行スタッフにもカメラが密着して、映画製作の雑事を支える人の大変さも刻まれているのだが、個人的にはタイトル通りに映画の弁当にフォーカスして、もう少し編集で短く出来たんじゃないかなという感想もある。おそらくは様々な撮影現場と監督、スタッフへの取材を通して、記録VTRが切れなかったんじゃなかろうか。とはいえ映画全体は悪くない。というか滅法面白い。映画好きなら観ておいて損はないはず。ちなみにポパイはおにぎりしか作っていないわけではなく、もっと多種多様なお弁当があります。公式Twitter(@popeye_onigiri)に載っているチャーハンの弁当は、玉子がふわふわっぽくて旨そうだなー。


『映画の朝ごはん』スタッフ
監督・企画・撮影・編集:志子田 勇
音楽:yojik と wanda
製作:由里敬三 プロデューサー:飯塚信弘
録音:百々保之
整音:松本理沙
撮影協力:芦澤明子(J.S.C)
ポスター絵画:伊藤ゲン
制作統括:阿部浩二
制作協力:MOM&DAVID 2023 年/DCP/131 分/ドキュメンタリー
助成: AFF2
2023年11月10日公開
DCP/131分
(C)ジャンゴフィルム