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ロンドン時間

父の海外赴任に連れられ、中学3年間をドイツで過ごした。

最初の夏休みに小学校の同級生から郵便が届いた。
イギリスに夏期留学をするのでロンドンで会わないか、という内容だ。

約束の前日にヒースロー空港に降り立った僕は、ガイドブックと腕時計を頼りに観光バスの停留所を探した。
1時間以上遅れて到着したバスで市内をめぐり、最後に大英博物館に向かうと、閉館時間前なのに門が閉ざされていた。

用心深くなった僕は、翌日には1時間前行動を徹底し、無事に友人と会って食事を済ませ、ドイツに戻った。

それから10年近く経って、大学の卒業旅行で再びヒースローに降り立った僕は、突然、13歳の自分の勘違いに気づいた。
当時の僕は、ドイツとイギリスに1時間の時差があることを知らなかったのだ。

ずれていたのは僕の方だった。

安らかな気持ちが胸一杯にこみ上げてきて、僕はしばらく空港の柱時計の前から動くことができなかった。

#旅する日本語 #麗らか

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野崎かおる
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