見出し画像

私にとっての谷崎潤一郎作品

谷崎潤一郎作品を30代の時から読み、一気にハマってしまった。といっても有名どころの細雪は苦手な感じがして読まずにいる。

特に一番何度も愛読しているのは、新潮文庫の「刺青・秘密」である。妖しい感じがする朱色のブックカバー、梅の花がうっすらと描かれているデザイン。まさしく谷崎の妖しくそれでいて精巧な文体を表すかのようだ。タイトルの文字が白地なのも何ともいえず味わい深い。思わず手に取りたくなってしまう文庫のカバーだと思う。

この文庫の作品の中で何度も熟読しているのは、「刺青」と「二人の稚児」の二つだ。心の底から好きな谷崎作品で、夜の静寂の中何度もページを開いた。確かに言われている通り、一文が長いのと現代ではあまり使われない文章語や難読語も文章の中に散在している。
一度読んだだけでは文章が頭の中に入ってこない。しかし何度も読むたびに甘美な文体に酔いしれ、奥深い作品のテーマに惹かれていく。

「刺青」は蠱惑的で女性の魔性の美というもの、彫り物師の清吉によって「肥料」という画題を背中に墨を入れられていくまだ若い女の心の変化を精巧に描写している作品だ。女は幾人の男を虜にしたかのような年増に見える成熟した美を持っている。谷崎の描く悪女の先駆けだろうか。この作品は短いのですぐに読めてしまうのと、何か芸術的な作品に触れたい時はこの作品を読んでいる。

「二人の稚児」はもう何回も読みその度に清らかな心持ちになっている。瑠璃光丸という主人公の精神の真っ当さが私の心を何度も感動させる。煩悩や肉体の欲に負けなかった瑠璃光丸。大体の人間は意馬心猿な状態になるというのに。反対に欲に負けた千手丸はその後の人生はきっとふらふらと酔生夢死な一生だっただろう。私は妙に信仰深いところがあるが、来世というものがあるのなら現世で欲にまみれたり、煩悩に負け生活が破綻するぐらい快楽を追及したりと様々な害悪があるのだから、なるべく地道にコツコツと生活を営もうと思う。
現代はスマホで簡単に刺激が得られるが、その後のモヤモヤした感じやまた間違ったことを犯してしまうと取り返しがつかないことになる。

私はこの新潮文庫のこれらの作品を読み若干かも知れないが、人生観が変わった。この文庫には7作品収録されている。苦手な人は一切読みたくないだろう。だが私のように何度も愛読しているものもいるので、これからも谷崎潤一郎作品が後世に読み継がれてほしいなと願っている。