本質を探るトレーニング「多面的な視点で見つめ直す」(3/4)
今回は「多面的な視点で見つめ直す」というテーマです。
前回、写字者の例を書きました。写本は印刷技術が生まれる前の話なのですべてが手稿、80年代の映画「薔薇の名前」の世界です。今回も写本研究を例に話しを進めたいと思います。
近年のデジタル画像の技術の進歩に伴い、大きな出版プロジェクトだと、音楽写本研究でも曲の音符を消して五線譜だけにするなど、様々な方法で精密な検証がされています。
一研究者は、そこまでしないながらも、一つの写本を研究する時、素材は何を使ったのか?羊皮紙か紙か? 紙なら、紙すきの際ロゴの役目を果たす透かしは何か? どう綴じられているか? 曲を書きこむ準備段階で頁のレイアウトは?五線譜はどう準備されたか? 写字者は一人か、複数か? 果たして、最初から順序立てて書きこまれたか? インクの色は? 筆跡の癖は? など、曲の分析の前に、研究対象の写本をいくつもの視点で繰り返し眺めます。
それぞれの視点での気づきを並列データとして保管します。これらのデータは、言ってみれば外的データです。
次のステップで内的データ、つまり曲の分析に取り掛かります。そこでも、曲の情報(ジャンル・楽曲形式・歌詞の言語・作曲者名があるか無いか…など)を調査します。そして、レパートリーの並び方や、他の写本に同じ曲があるかなど、写本の外のデータとの比較もします。
そして最後に、すべてのフェーズのデータを垂直に見ていくことで、TPOが揃うように、データの濃淡が浮き上がってきて、仮説を立てることができます。
このプロセスは、まさに佐藤可士和さんのおっしゃる「視点を導入する」にあたると思います。