さよなら、日劇。
2018年2月4日。
今日、日劇が閉館する。
前々からたびたび噂はあった。
『日劇が閉館するらしい』
でも、そんな噂を耳にするたびに、
「またまた」とか「まさかぁ」とか思っていたのに、気がついたら、
あっさり今日、
閉館日当日を迎えてしまった。
日劇の歴史は、昭和8年開館の日本劇場から始まり、今のマリオンでの開館からは34年、合わせて85年余りの長い間、有楽町で映画を上映してきた映画館。
ゴジラがマリオンを破壊するシーンや、
スターウォーズ公開時の盛り上がりなど、
映画シーンを語るうえで必ず登場する、
日本を代表する映画館のひとつだ。
小さい頃のわたしは、東京に出てくる時に映画館に連れて行ってもらうのを楽しみにしていた。
わたしの育った八丈島は、
東京の南にある伊豆七島の最南の島で、テレビの放送網は首都圏なのに、もちろん映画館なんてない。映画のCMが流れていても、飛行機に乗らないと観に行けない。
当時はネット配信もないから、
観逃すといつ観られるかわからなくて、観たい映画があるたびに悔しい思いをしていた。
だから、上京するたびに映画を観に行けるのがすごく嬉しかった。
見たこともないくらいでっかいスクリーンで。
学校よりもたくさんの人がいて。
みんなが同じシーンでドキドキしたり、ハラハラしたり。
観終わった後、ぞろぞろ映画館を出ながら「あそこはこう。ここはああいうこと」とか話してたり。
映画を観ることは年に何回もない、
一大イベントのひとつだった。
八丈島から上京すると、船でも飛行機でも浜松町に出ることが多い。
浜松町には島嶼会館という、伊豆諸島の人が泊まる施設があり、そこに一泊してから目的地に向かうことが多いからだ。
近くの映画館というと上野か有楽町になり、
日劇は話題作が多く上映していて、
よく観に行った思い出深い映画館だ。
最初は父母に連れられて、
夏休みや冬休みに家族で来て、
そのうちひとりで来るようになり、
時にはふたりでも行った。
わたしの映画人生の横に、
いつもいてくれた日劇。
最後に観たのは『ゴジラ』
1984年、有楽町マリオン完成の年に公開されたゴジラのフィルム上映。
当時の完成したばかりの有楽町マリオンをゴジラが破壊するシーンが、全然違う意味を持って響いてくる。
年季の入った映画ファンっぽいおじいさんも、
長年連れ添った感じの雰囲気がある銀座が似合う老夫婦も、
元サブカル女子っぽいOLさん風の方も、
フィナーレイベントに通っているだろう映画フリークの男性も、
きっと、みんなそれぞれに日劇への思いを持ってスクリーンを観ていたんだと思う。
ゴジラも終わって欲しくなかったのかな。
途中、新宿に核が来るシーンでフィルムが飛んだ。笑
そこで思わず拍手と笑いが起きて、すぐに次のシーンが始まった。
そして、沢口靖子さんいつ観ても綺麗でした。
エンドロールの後、
たくさんの拍手とともに
『ありがとうー!』の声があがった。
そして、わたしの最後の日劇のスクリーンが幕を閉じた。
久しぶりの、ほぼ満席の映画館で観たゴジラ。
劇場を出る列の中も、やっぱりみんな名残惜しくて、帰りたくないみたいだった。
上野セントラルがなくなり、
丸の内ルーブルがなくなり、
新宿ミラノ座がなくなり、
渋谷のシネクイントがなくなり、
今日、日劇がなくなる。
時代を代表するような映画を、
みんなで同じ時間と空間で観たという、
体験の共有が得られる場所。
それが映画館の素敵なところだけど、
そんな場所は、どんどんなくなっていく。
やっぱり、さみしいなと思う。
すごく、さみしい。
最後にここで観たゴジラを、
これから先、きっと何度も思い出す。
ありがとう、日劇。
さよなら。