あのときダブルチーズバーガーで兄貴が怒った理由が、いまになってわかった話。
あの日、兄貴がダブルチーズバーガーでブチ切れした理由が今になってわかったので書きます。
ダブルチーズバーガーでブチ切れた兄貴
「そういうんじゃ……ない!!!」
テレビの中で独特のフォームを繰り出しダブチを掲げるキムタクを見て、思い出したことがある。
小さい頃、夏休みのある日。兄貴がダブルチーズバーガーでブチ切れた話だ。
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最初に兄貴の名誉のためにも、我が家のマックの立ち位置を説明しておく。
そう、子どもの頃、
マックは特別なたべものだった。
わたしが生まれたのは伊豆諸島の最南端、八丈島。走る車はシナガワナンバー、テレビは首都圏放送というシティ派のド田舎だ。これが厄介なんです。ほんと。
テレビで流れるチェーン店や東京にあるごはんのほとんどは、島にはない。
パラッパッパッパー
アンラービ イッ!
と聞くたびに、歯がゆい思いを噛み締める。
たまに地元のパン屋さんで買ってもらうハンバーガーを、ちょっと違う……と思いながら食べる。やっぱり違う。美味しいけど、これじゃない。食べるけど。
手に入らない憧れは、ちょっとした呪いだ。
そして、子どもには自力で解けない呪い。
解けるチャンスは、年に数日だけ。
来たるべき日のために
呪いが解ける日。それは夏休みやお正月、年に数回親戚で集まるその数日。
そこが唯一の呪いチャンス。ここぞとばかりにアピール出来るか。それ次第だった。
語尾がマックになるくらいの3姉弟波状攻撃はさも大変だったと思うけど、こちらも必死だったから許してほしい。シャナクの代償はお安い。
じいちゃん家の広いリビングが人でいっぱいになる。だいたいは我が家が先にじいちゃん家に先に着いて待っていると、カーテンから見える庭にいとこの車が入ってくる。
(今思えば、一番遠方だった我が家に合わせて遊びに来てくれていたのだと思う)
たくさん人が集まると、ファミレスに行ったり、ごはんを取ったりするから、その日は狙い通りにお昼にマックになった。しめしめ。ふふふ。大興奮の島勢の民。
「ダブルチーズバーガーが食べたい!!」
満を持して兄貴が叫ぶ。
落ち着いて考えると、ダブルチーズバーガーってすごい。名前からしてすごい。
ダブルで、チーズで、バーガーだ。
なんでも倍になってると、めちゃくちゃすごそうな気がする。チラシのうえで燦然と輝くチーズとパティの双子盛り。
注文をまとめていた伯母さんが、
ちょっと考えてから、
「ダブルチーズバーガーよりチーズバーガー2個のほうが安くなるし2個だよ。」
当時、チーズバーガーが値下げしていた。期間限定だったかそういうものだったのかは覚えてない。(記憶が正しければ、ハンバーガーと同じ値段だった気がする)
ここで冒頭のセリフだ。
「そういうんじゃ……ない!!!」
多分思い出が誇張されてると思うけど、記憶通りに書き直すと、
「んもぁぁおそぉぉぅううういんじじゃゃー………、、、、、なイ!!!!!!!」
↑くらいの破壊力はあった気がする。
うちは三人姉弟で、だんご3兄弟で言うところの間に挟まれ長男の兄貴は、真っ直ぐな分ちょっと不器用だ。真っ直ぐで、やさしくて、融通が効きにくい。怒りっぽい。
そんな兄貴だから、当時のわたしは「2個ならチーズバーガーでよくない……?」くらいの気持ちで、ちょっと呆れていた。
しかし、兄貴はめちゃくちゃ怒り、押して押して押して参る。そのまま押し通してダブルチーズバーガーをゲットしていた。満足そうに頬張るのは、どこか勝ち誇ったような笑みを讃えていた。(めちゃくちゃ涙のあとが顔についていたけど)
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キムタクを流し見ながら、あの日兄貴はなんであんなに怒ったんだろうと思った。
子どものスキ、大人のものさし
息子くんが生まれてわかったことがある。
子どものスキと大人のいいものにはマリアナ海溝くらいの隔たりがあるってことだ。
たとえば、先日も息子くんとトミカを買いに行ったとき。行く前は「ニアだね!ニアー!!」とウキウキ浮足立っておもちゃ売り場に駆け込むと満面の笑みでエースを持ってきた。なんで?ニアは?(※ニアもエースもきかんしゃトーマスのキャラクタです)
他にも絶対に一回で興味なくなりそうなおもちゃとか、すぐ飽きそうなシールとか、一口でいらないってなりそうなおいしくなさそうなお菓子とか。
「それじゃなくない?……」と思う瞬間。
その時、わたしは彼のスキに対して、大人のものさしをあてている。
そして、大人のものさしじゃ、子どものスキは測れない。
でも、ついつい当ててしまう。
もったいなくない?
こっちのほうがいいんじゃない?
これのほうが楽しくない?
わかってる。
ほんとは、損したっていい。おトクよりも満足のほうが大事だ。わかってる。転ばぬ先の杖よりもバンソウコウの貼り方。
ぐっとこらえて、彼のほしいに答えるべきなんだよね。
わかってる。大人のものさしは、古いものさしで、どんなものさしを一人ひとりの想いは測れない。
ああ、そうか。
だから兄貴はブチ切れたんだな。
数十年経ってわかる。
怒ってくれてよかった。
今になって、あの日ダブルチーズバーガーを勝ち取った兄貴のことを、ちょっとかっこいいと思った。
わたしは、どちらかといえば言われたままに「そうかもな」と受け止める子だったから、わからなかった。
でも、ほしいやスキにちゃんと答えてもらえたらうれしい。違うときは「ちがう!」って言えるのも、大切だ。
ゆずれないスキを持つって、大事だ。
だから、もしこれから先ダブルチーズバーガー食べたいっていったら、何故か2つ買ってくるようなクールな大人でありたい。
スキに向き合って、子どものほしいに答えられる。懐の深い大人でありたいです。
(でも、やっぱりそれ……じゃなくない?)