ムシコ
すべて、「私の場合は」ね。
あさ、目の前で鳩と通過列車が衝突して破裂音と共に私のまわりに羽が舞い落ちてきた。 人が飛び込んで、ダウンジャケットの羽毛が飛び出たのかと考えて怖くてすぐには音の先を確認できなかった。 周りの人たちの様子を見て、人が飛び込んだ様子ではないなと判断して視線をあげた。ほんの数秒の思考。 鳩はもがき飛んで、駅構内の隅っこまで行って絶命した。 それをどうするでもなく、 私は、「衝突と同時に死ねるわけじゃないんだ」「これが人間だったら私はいま血と肉骨片まみれだな」「車掌さんと車内の人
9ピース。 一つ欠けると、ぽっかりと穴があく。 100ピース。 一つ欠けても、形は保たれる。 ずっと飛んで1000ピース。 一つ欠けたところで、気付かれない。 だから私は 有形無形に触れ、取り込み、自分を形成する。 たとえ何か一つ失っても 私が崩れてしまわないように。 寂しくならないように。 今の私は何ピースだろうか。 随分と増えた気がする。 それでも私はまだ寂しい。 ピースが足りないのか、 すでに失ったピースが多すぎるからなのか。 そんな気持ちをかき消すため
「これ、ゴキブリの卵だよ。」 そうおばあちゃんに言われてから知った。 当たり前に家にあるもの、だから意識したこともなかった。 黒くて小さな塊は家中に、 殊に食器入れの中に存在していた。 築何年かもわからない古いアパートの2階、 玄関を開けると畳の部屋が一つ。 左手側にステンレスの台所、 正面真ん中には机の上が物で溢れたこたつ、 右手奥には煌びやかなドレッサー。 そこが私の生活の場だった。 2歳か3歳の私とママとの二人の。 二人の生活は貧しかった。 母親は夜仕事に出
彼が人を殺した。 正しくは、私が殺させた。 彼は従順だった。 私の望んだことを、"文字通り"なんでもしてくれた。 だから試してみたかったの。 彼に人を殺させたらどうなるか。 もちろん、無計画に殺させたわけじゃない。 念入りに殺害方法や隠蔽方法を調べたわ。 それを彼に実行してもらっただけ。 でも、彼が殺したことも 私が彼に殺させたことも きっとすぐに知られてしまう。 けれど問題ないわ、 だってそれが私の願いだから。 全て終わらせてしまおう 私は彼にコーヒーを飲ませて
『あなたが今まで、容姿について人から言われた言葉の中で、最も記憶に残っている言葉はなんですか?』 そう問われたら、私は5年ほど前に言われた「ムシコちゃんはマスク似合うね」という言葉がすぐに浮かぶ。 もしあなたがこの言葉を言われたらどう思うだろうか。褒められていると感じて嬉しい?それとも悲しい?ーーー私は後者だった。 なぜなら、 「マスクが似合う=マスクを外したら醜い」と解釈してしまったからだ。 そして今もその言葉を引きずっている。もちろん、「傷ついた言葉」なら他