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011 ビデオ酔い その1

そもそも、こんな言葉があるのだろうか?
という素朴な疑問さえありますが、
この10年くらい、良く見るので書いておこうかと。
前回原因を列挙しましたが、それを紐解きます。 

意図と違う

1.カメラワークが視聴者の意図と違う
ボールを投げる時、いちど後ろに腕を振り上げてから前に投げますよね。
カメラワークでは一番やってはいけない動作でして。
画面の4辺は同速同方向ルールがあるので、振り上げてはダメ(笑)。
視聴者は無意識でも結構そういうの気付くものです。
 
カメラが
チョット右方向へ動いた後に左にパンする
ズームインの途中で止りまたズームする
みたいな感じです。
 
視聴者が最初の挙動で
「あ、右へパンするのね、と思ったら左かい!」
ズームインがいったん終わったのに
「またズームするんかい!」
みたいな動きがあると気持ち悪くなります。
 
ベテランのカメラマンでも起こり得る状況です。
それは被写体の動きがカメラマンの予想と違った場合です。
修正がきかない、やむを得ない時は、動き始める前ならいったん動きを止める。
動いた方向が違ってたら動いてから早いタイミングで止るしかない。
ズームを止めてしまったら、時間を置き次のチャンスまで待つしかない。
下手に騒ぐから気持ち悪い動きになってしまう・・・
そうならないようにカメラワークは身体に沁み着かせておきます。 

不穏な動き

4辺が同方向速度     行先変更ズームイン

ズームの途中で行き先変更もヤバい。
左:画面の4辺が同方向速度で富士山に寄っていけば良い。
右:河口湖大橋にズームインと見せかけて途中から富士山に行先変更するような予想外のカメラワークがNG。
もしかするとビデオ酔いの一番多い原因かも。
これは、ケツを想定していないところに問題がある。

長周期

2.ふにゃふにゃ動き
ブルブル手ブレではなく、意味無くゆっくり動くような感じ。
カメラの意図が視聴者に伝わらないのにあたかも意図があるかのようにダラダラ動く。
周期の長い地震のようなイメージと言えば良いのかな?
手ブレ防止機能でデジタル揺れになってることもあり気を付けたいところです。
※三脚に乗せてる時は手振れ防止機能はOffにしてますよね?(為念)
 まっ、Offにしないと構図取れないけど・・・

動きに追いつかない

3.被写体の動きに追いつけない
これ結構あるあるかも。
通常「空いている方向に〇〇がある」と考えます。
従って、動いている時前方に空きが無いとぶつかりそうで気持ち悪いのです。
動いてなくてもアップで顔の向いてる方向が空いてないのと同じです。
ところが、

追う・追われる

ところが、こういうこともあるのでややこしい。
人以外の生きものでも、物でも向いている方向、進む方向に空間があるかどうかはとても重要。
空いている方向に意識がある。
これを私は「意識線」として三十数年提唱しています。
※「目線」とは意味が異なります。
 
YouTubeの追う・追われるでは、
追う:意識線と目線は同じ、前方(追われてる人に意識がある)
追われる:目線は左ですが、意識線は後方すなわち右側(追いかけて来る人に意識がある)
構図で「追う・追われる」の状況を表現できます。

では次に、二人の会話での意識線を考えてみます。

イマジナリーライン

映像理論の最初に学ぶことです。
会話軸(劇場での演者と観客などにも存在)や対話軸とも言います。
カメラは会話軸を越えてはいけないという憲法です。

会話軸と意識線

一番上が状況です。
左側の4カットが正しい流れ。
何の違和感も無くすんなり状況が入ってきます。
しかし、右側の流れはとても不自然です。
この不自然さがビデオ酔いの原因です。
 
詳細に見ていきます。
1では医師の右側に空間があるので医師の意識線は右側にあります。
従って、医師の右側に次のカットの関連材料が必要です。
例えば右側に立っている看護師が重要な役割を担うなど。
 
2では患者の左側に意識があります。
患者の母親が左側にいるなど意識の向く人、物が必要になります。
当然次のカットはその母親となります。
 
3ではカメラがイマジナリーラインを越えています。
視聴者は1とは別の医師が2の患者の後ろに立っているような印象を与えます。
昭和のサスペンスのように「医師の背景に重要なモノが見えてる」みたいな。
 
4で元に戻る?
これでは支離滅裂な流れになります。
 
では、こういうドラマがなぜ成り立つのか?
という疑問が生じます。

この答えは簡単で、推しの俳優Aが演じてる医師と同じく俳優Bが演じている患者の会話だからです。
役柄の医師と患者ではなく、あくまでも俳優AとBの会話だからです。
初めて見るロシア映画で名前を知らない俳優〇〇ビッチと〇〇スキーとが森の中で似たような姿での会話だったとしたらどっちがどっちか分からないわけです。
○○ビッチの後ろに妙な空間があれば、ヒグマ登場ですね(笑)

位置関係を崩さないのは映像理論の初歩の初歩。
正しい構図、正しいカッティングの中、あえて医師の後ろに空間を空けて背景に映る薬に注目させるというテクニックが使えるようになります。
昨今、ただ映っていれば良いというのは気がかりなことです。
俳優頼みのドラマってのも考えものです。

振り向く

振り返りがある場合の意識線

このように「振り向く前」を伴うと方向が逆になる場合があります。
 
医師がカルテを見て振り返ると患者がいる
という場合は医師の目線と反対方向に意識線を置けば、空間は目線と逆になります。
ただ、原則としては目線と意識線は同一方向。
壁に向かって待ち合わせしている人がいないのと同じです。
後方に空間があるのはそれなりの大きな理由が必要です。
このへんはディレクター的になるのでまた別の機会に詳述します。

大切なところでチョット長くなってしまったので後編は来週にします。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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