恵まれた手札
「そんなイケメンで背も高くて、沢山セフレがいるんでしょ」
と女は尋ねてきた。
女は僕の顔を真っ直ぐと見つめていた。瞳は幾分潤んでいる様に見えた。
僕が無言で見つめ返すと、女は左の薬指で唇を触った。
僕は自分のルックスについて考えた。
身長について考えた。
年収、生まれ育ちについて考えた。
フラットに考えれば、考えるほど、僕は恵まれていた。手札にはジョーカーがあったし、エースも何枚かあった。
「もっと上手くやれたはずなのに、お前は何故その程度なんだ?」
もう1人の僕が、胸の内から大きくノックをする音が聞こえた。
死を連想する様な焦燥感が、僕の身体を焼いた。
その熱さは、僕の判断を曇らせた。最悪のタイミングで、エースを切った。僕は幾許かの自己肯定感を得て、沢山の何かを失った。
僕は営業用のスマイルを貼り付けて、
「そんなことないよ」
と言った。
役になりきる事で、僕の心は心地よく麻痺して行った。
僕はまたもや、悪手を打とうとしている。