【子ども向け短編】あたしの/ぼくのしらない
しゅじんこうのおなまえを、あなたのなまえにしてね!「〇〇」が、おなまえをいれるところです!とちゅう、きみのことを「あたし」か「ぼく」かでえらぶばめんがでてきます。キミにあったよびかたでよんでね。
お母さん、お父さんが読んでくれるときも、お子さんのおなまえを〇〇に当てはめてください。何歳でも、どの性別でも問題ありません。「お父さん・お母さん」の呼び名も、ご家族の状況に合わせて変更してください。
おはなし↓
あるおやすみのひ。〇〇とお父さんとお母さんは、おうちのおそうじをすることにしました。
みんな、あさからはりきっています。お父さんは、片手にぞうきんをもって〇〇にたずねます。
「ようし、〇〇も手伝ってくれるかな」
〇〇は元気にへんじをしました。
「うん!いっしょにがんばるぞぉ」
*
ふきふき。キュッキュ。おへやのすみずみまできれいにしていきます。お父さんは高いところ。たとえばカーテンをかけるところや、エアコン。お母さんは細かいところ。たとえばだいどころとか、れいぞうこの中。〇〇は、大人の目がとどかないところ。たとえばゆかや、クローゼットのおく。
「すごい〇〇、なんだかおへやがキラキラして見えるわ」
「えっへん」
「お父さんも、みならわなくっちゃな。よーし、まだまだがんばるぞ」
*
〇〇は、お父さんとお母さんといっしょにねるへやにきました。
「〇〇は、クローゼットの中をおねがい」
お母さんからたのまれた〇〇は、パカッとたて長のクローゼットをひらいていきます。
かっこいいスーツ。きれいなワンピース。いつか〇〇もこんなおようふくが着られるのかな。ちょっぴり大人になるのが楽しみになりました。
となりのたなをひらくと、なにやら気になる本が出てきました。1、2、3、4、5冊、もっとあります。
「なんだろう、これ」
〇〇はすわって、その本をひらいてみました。すると、たくさんのしゃしんがはってあります。
「あら、なつかしいわね。お父さん、ちょっとこっちきて」
後ろでおそうじをしていたお母さんも、よばれたお父さんも〇〇に並んですわります。
「お母さん、これなに?」
「これはね、アルバムって、言うのよ。みんなの思い出をしゃしんにして、そのじかんを切りとるの」
「なんで、じかんを切りとるのかな」
お父さんは、うでくみして考えます。
「うーん、大切なことを思いだしたいからかな。楽しいこと、うれしいことはいつまでも覚えていたいけど、それってむずかしいことなんだ。〇〇も、この前のお出かけのこと、ぜんぶは思い出せないだろう?」
「えっと、夜ごはん何食べたかわすれちゃった」
「そうでしょ。でもそれはわるいことじゃない。あたりまえのこと。にんげんはいろんなことをわすれてしまうんだ。だから、楽しい、うれしいなってことをしゃしんにしてとっておくんだ」
*
〇〇は、アルバムをめくっていきます。すると、見たことのない人がたくさんいました。
「これはなに?」
「これは、お父さんが高校生のとき。このときはまだ、お母さんとお父さんは出会ってなかったんだぞ」
「これはなに?」
「これは、お母さんがお父さんと大学でいっしょにおべんきょうしたとき。おっちょこちょいだけど、あたまがよくてかっこよかった」
「これはなに?」
「おしごとをはじめて、二人でドライブ。よぞらを見上げて、何じかんもおはなししたっけ。どうじにおなかがグーってなって、大わらいしたなぁ」
「これはなに?」
「とうとうけっこん!わたしのお父さん———〇〇のおじいちゃんが、すっごく泣いてたいへんだったんだから!」
*
お父さんとお母さんのはなしをきいて、〇〇はなみだがこぼれそうになりました。だから、二人にだきつきました。
「あらあら、どうしたの」
「わからない。わからないけど、アルバムに《あたし/ぼく》のしらないことがいっぱい」
〇〇のなみだが、ポロポロと二人のおようふくにしみこみます。お父さんとお母さんは、ギュッと〇〇をだきしめました。せなかをトントンとやさしくふれながら、お父さんは言います。
「そっかそっか。〇〇は、さびしかったんだね」
「ごめんね、〇〇。じゃあさ、つぎのページにめくってみて」
お母さんの言うことをきいて、〇〇はパラリとページをめくりました。すると、そこには赤ちゃんの〇〇がいました。
「《あたし/ぼく》がいる」
「うん」
「《あたし/ぼく》がいるよ、お父さん、お母さん」
「ははは、あたりまえじゃないか。〇〇との思い出は、ずっとずっとわすれたくないものなんだから」
「そうよ。ねえ〇〇。お母さんとお父さんは、なんでいっしょにいると思う?」
「なんでだろう」
「それはね、あなたに出会うため」
「《あたし/ぼく》に出会うため?」
「そうだ。もっとページをめくってごらん」
パラ、パラ。〇〇はおどろきました。〇〇が生まれてから、たくさんのしゃしんがそこにはあったのです。
「これでおわりじゃないぞぉ」
お父さんとお母さんは、さらにアルバムをひっぱり出してきました。
「これも、これも、そしてこれも!ぜーんぶ〇〇との思い出なのよ」
「すごい」
〇〇は、うれしくてとびはねました。〇〇が覚えていることから、もうわすれてしまったことまで。本当にたくさんの思い出が、アルバムにはあったのです。
「こんなに《あたし/ぼく》ばっかり。いいのかな」
「いいにきまってるさ」
「もちろんよ」
〇〇とお父さんとお母さんは、またギュッとだきしめ合います。
「でもね、これだけじゃない。これからの〇〇と、わたしたちかぞくの思い出はもっともっとふえるの。これからどんなみらいがまっているのかな。あなたも、お父さんも、お母さんもしらない、すてきなみらい。とても楽しみだわ」
「うん。《あたし/ぼく》も楽しみ」
「たくさんいろんなところに行こう。いっぱいあそぼう。そうやって、じかんがたったら、またこうやってみんなでアルバムをひらこう」
「うん、《あたし/ぼく》の“しらない”が、まだまだいっぱいまってる」