庄司浩平

こんにちは。フィクションの短編を載せています。 俳優、モデルをしております。日々の通…

庄司浩平

こんにちは。フィクションの短編を載せています。 俳優、モデルをしております。日々の通り過ぎて行く機微を文字に託せたらと思います。 Instagram→ https://www.instagram.com/shoji_kohei_official/

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【短編】大人の時間

 駅で人が倒れていた。40代か50代かの男性。身なりはみすぼらしくもなく小綺麗でもない。横になった人間を当然のようにスルーする人ばかりの現代社会、私と30代ごろのサラリーマンだろう男性一人がその人を介抱する。 「大丈夫ですか」  私が言った。 「ええ、いや、はいすいません」  意識はあるようだ。足元がおぼつかない男性はモゴモゴとそう言って、なんとか座りの姿勢になった。 「ご無理せず。すぐそこに椅子があるので、そこまでいきましょうか」  サラリーマン男はそう言って、地べたに座っ

    • 【短編】Woman in the mirror

         植野知里の家族は3つ上の兄の慧斗と母の知慧の3人家族だった。父は、小さい頃に出て行った。理由は知らない。知慧曰く、どうしようもない人だったと。慧斗曰く、父は英雄であったと。知里は知ろうともしなかった。知る必要がなかった、知慧は一生懸命働いて、子ども2人にこの社会を生きる術を、できるだけ教えた。そしてそれは、客観的にうまくいった。慧斗は中学でも高校でも優秀な成績だった。器用なタイプではなかったけど、人一倍努力しようとしたし、その努力をちゃんと形に出来る人間でもあった。知里

      • 【短編】明日にいきたくないんですけど

        「あなたの居場所はどこですか」 そう聞かれて、答えられなかった。何にも持ってないから、と自分を卑下してみたり、でも心の中では何か人と違うはずと思って、結局は何一つ持っていなかったあのとき。今はどうだろうか。あの時から何が変わったんだろう。知ってることは増えた。けど同じように色んなことを忘れた。経験したことのないことをたくさんした。その代わり、経験していなかった頃の気持ちをどこかに置いてきた。  私はどこに行けばいいんだろう。どこにいればいいんだろう。呼吸の仕方を忘れたとか、

        • 【短編】額縁の外側

             今日は午後を無駄に使い尽くした。カーペットを探していた僕はインテリア屋さんを訪れた。なぜカーペットを買いたかったかといえば、部屋の雰囲気を明るくしたかったからである。床の色は、部屋のトーン全体に関わってくる、とテレビで観た。嘘つけやいと思ったが、仕事から帰ってくると毎回物寂しい空気を家から感じるのは、長いこと付き合っている相手がいないこととか一生懸命働いてる割には貯金がなかなか貯まらないこと以上に部屋の色彩バランスが関係してるのではという素晴らしい発見に至ったのだ。して

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        【短編】大人の時間

          【短編】いつも通りの弁当に

             すっかり真っ暗になった街は、短い間隔で設置された街灯と面白みのないラインナップの自販機によって照らされている。家まであと5分。いつもは疲れた体を半自動的に動かして無意識で玄関を上がっているが、今日は心も体もいつも通りではなかった。普段寄ることのないコンビニに無性に入りたくなり、この後夕飯があるのはわかっているのにカップ麺を買った。  外に出て、駐車場のブロックに腰掛ける。2分待って、もう開ける。シーフード味のスープは、どうして僕の目頭を熱くさせた。いつもより、しょっぱい

          【短編】いつも通りの弁当に

          【短編】忘るる年や、いかに

             よく使い込まれたグラブ、バットがアップになった。早朝、街頭ビジョンが映している。約10年前の映像だろうか、まだまだ初々しい彼の笑顔は、スライディングでついたであろう土がその爽やかさを倍増させている。  当時、高校野球の大スターであった彼は今、日本野球界の生ける伝説となって、世界の舞台でその剛腕を見せつけている。30代を目前にした彼は、唯一持っていない世界チャンピオンの座を掴むべく、さらなるチャレンジをすることを決断した。莫大な契約、圧倒的な期待。彼はこれまで以上に大きな

          【短編】忘るる年や、いかに

          【短編】明日の起きがけの一杯を酒にしようと思う

          ——————ワインに対して「飲みやすい」は褒め言葉じゃないと思う。                                僕 *    今日の飲み会は断った。同僚は朝から張り切って仕事を進め、なんとか定時から少し溢れるくらいの時間に退社していた。僕もお誘いを受けていたが、「明日が早いので」と嘘をついた。優しい嘘はついても良いと思う。誰も傷つけていないのだ。学生のころみたいに、なぜか何回も身内に不幸が起こる愚かな真似はしていない。  明日の予定も空けた。友人に珍し

          【短編】明日の起きがけの一杯を酒にしようと思う

          【短編】或る男の或る1日

          2023年、暑さでゆらゆら見える、コンビニエンスストアーでのことだ。 曲がり角からやってきたその男は、まるで狩りの前の獣のように揺れながら歩いていた。手に持った心許ないビニール袋が、かえって男の弱い部分を浮き彫りにしているようだった(ただ、中身が何なのかは僕からは見えなかった。それか、何も入っていなかった可能性もある)。 「おい、何をやっているんだ」 彼は水平線のように細めたまなこをこちらに向けながら、そう言った。「何をやってる」 僕は立ち上がりながら、なんと言うべきか

          【短編】或る男の或る1日

          【短編】深更の操り人形

          「やっぱ金かかってる作品の方がおもしれーよ絶対」 「絶対とは言わないけど、まぁ大概そうだわな」 「そりゃそうだろうよ。いや、別に金無いことが悪いってわけじゃないけどさ、舞台挨拶とかで監督とか製作陣が“資金無いなりに、頭使って頑張りました!!役者の芝居も素晴らしい!!”みたいな事言い出すとめっちゃ冷めるんだよね。いやそれは周りがいうことであって自分から言うことじゃねーぞって」 「不景気だから」 「おー便利な時代になったな、なんかあれば“不景気”か“多様性”って言うんだろ。そうす

          【短編】深更の操り人形

          【短編】ラストシーン

             つい3日前退勤中のわたしの元に、病院に行ってくれた弟から連絡があった。 「母さん、K-POPアイドルのライブ見たいからやっぱり死ぬのやめるってよ」  一週間前には、さっさとあの世に行って早逝した韓流スターに会いにいくんだと三途の川方面にアクセル全開な気持ちでいたが、乙女心はまったくきまぐれオレンジロードである。彼女の体調を見なくてはならない病院のスタッフさんに感謝と申し訳なさが少し込み上げてくる。  そんな矢先だった。今日正午過ぎ、母が亡くなったと、電話があった。

          【短編】ラストシーン

          【短編】わたしはただ、ブラックコーヒーが似合う人になりたいのだ

             子供の頃、朝起きてまだ布団に潜りながら、よく焼けた食パンの匂いとまだ飲めないコーヒーの香りを嗅ぐのが好きだった。とは言っても、わたし自身はパンは焼き色があまり付いていないのが好きで、その匂いの正体はもっぱらお父さんのものだった。せっかく自分の布団から出てきたのに、和室に敷かれたままのお母さんの布団に再度飛び込んで、朝食を急かされるのがルーティン。まだ高い位置にあるテーブルには、ちょうど良い焼き色のパンとプライベートブランドのチョコクリーム、ヨーグルトとバナナがあった。

          【短編】わたしはただ、ブラックコーヒーが似合う人になりたいのだ

          【短編】出会いは突然

          『俺は白シャツに黒いブルゾンジャケット羽織ってます、パンツはちょっとワイド気味でこれも黒です。身軽で来たかったのでバッグとかは特にないですね』 『了解です!わたしはブルーのニットと細身のブラックのパンツです!あ、あと紺色のキャップ被ってます』 『ありがとうございます( ̄^ ̄)ゞでは駅の東口に待ち合わせで!』    桜も散り、だんだんと暑くなってきた春の陽気。とはいえまだまだ日によっては寒くなる日も多く、今日はあいにくの曇り模様だ。2ヶ月ほど前に友達に半強制的にインストー

          【短編】出会いは突然

          【短編】ミラノ・ブルース

             湿気のない太陽の照りつけが肌を焼く。さっきからツンと鼻を刺すような臭いがする。ほぼ全裸で地面に横たわる人。男か女かもわからないその生き物は、生きているというより”死んでいない”と言った方が正確だった。赤信号を次々と渡る群れにおいてかれまいと、大きなライフルを持った警察を横目に歩く。  薄汚れた建物。小便とたばこの吸い殻が混ざった異臭。砂糖の含有量が頭を抱えたくなるエスプレッソ。ミサンガを体に当ててくる陽気な黒人たち。汚いし、変なことがいくらでもある。  それでも——それ

          【短編】ミラノ・ブルース

          【オーディオVer.短編】10時2時

          短編『10時2時』のオーディオバージョンです。 約12分の音源になります。 今回は少し環境音を入れてみました。より臨場感をもって楽しんで頂けると思います。 是非感想、コメントお待ちしております。よろしくどうぞ。

          【オーディオVer.短編】10時2時

          【オーディオVer.短編】10時2時

          【短編】薄靄の住民

             6時38分に上野駅に到着、そのあと5分待って山手線に乗車。私は、スマホの乗換案内アプリの表示を覚えて、またSNSの画面に戻る。帰宅ラッシュの時間はいつもこうだ。帰りのタイムラインは頭に入っているものの、軽微な遅延やその他の要因で使う路線が変わったりするので、乗り換え駅に着く少し前に毎回確認している。今日はホームドア点検とかで、約2分から3分の遅れだ。 “———お客様にはご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ございません。まもなく上野、上野———”  相変わらず律儀すぎるアナ

          【短編】薄靄の住民

          【短編】旅人

          「次何歌うー?…あ、これにしよ」 また合唱曲。この前も、その前も合唱曲だった。下着だけ着た彼女は、ボロいソファに寄りかかりポチポチとリモコンで新たな曲を入れている。この前来た時に歌ったお気に入り。まだベッドの上にいる僕は仕方なくマイクを握り直す。  3600円。駅チカにあるラブホテルの、平日フリータイムの価格。僕は一人暮らしだったからわざわざ行く必要もなかったけど、単純に行ってみたくて安めのところを選んだ。そうしたら、想像より楽しかった。雰囲気を変えられることも勿論だが、一番

          【短編】旅人