葵ひかり

小説を書いてる人

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海の向こうへ

 寄せては返す波が、防波堤に当たって音を鳴らす。  昼前に投げた小さいワインの瓶は、未だに海の上を漂っている。  瓶にくくったビニール紐の端を握って、体操座りをして、私はただ待っている。  ――……マナちゃんは、海の向こうへ行ってしまったんや。  十年前。小学一年生の夏の暮れ。お線香の匂いが漂う畳の部屋で、裏のおじいちゃんが、私の背中をさすりながら言った。縁側から見える空は青く、雲ひとつなかった。大きな台風が過ぎ去ったあとだった。 「ママ。海の向こうにおるなら迎えに来て