以前、「AIを使うともっと小説が上手くなる」にて、ChatGPTで出力した内容を小説に直接難しいと述べました。
しかし、それはあくまでChatGPTのGPT-3.5の話です。それからChatGPTも進化し、文章力が向上したGPT-4が公開されましたのですが、その向上っぷりが本当に衝撃的でした。GPT-3.5は文章の質が低く小説に使えるレベルではなかったのですが、GPT-4はとても綺麗な文章を書くのです。
そこで小説を出力させてみることにしました。
長文になると出力が途切れるので、通常は「続けて」と言って続きを出力してもらいます。ですが、作品が微妙なので打ち切りました。
文章自体はとても綺麗です。このレベルの綺麗な文章、人間でも相当推敲しないと実現できません。しかも誤字脱字は皆無なんです。文章の「精度」という点で言えば最高レベルですから、ビジネス等での文章ならChatGPTは最高に使えます。
とはいえ、いくら文章力が高くても、小説として面白いとは限りません。そして実際小説として面白くありません。
じゃあなぜ駄目なのかというと、そもそも小説らしい文章で書けていないことが問題だと感じました。要はただの「お話」であり、「小説」になっていないということです。
このマガジンを購読している人ならもう察しているかもしれませんが、それって人間の小説初心者と同じです。そして「お話」からの脱却はこのマガジンでめちゃくちゃ解説している内容でもあります。
となると一つの仮説に思い当たります。「このマガジンの内容を要約して指摘すればChatGPTも小説らしい文章を書くのでは?」と。
そこで試してみることにしました。指摘事項とともに小説のタイトルと冒頭を出力してもらって、多少なりとも「小説として」面白いものになるかをチェックします。
既にちょっと面白いですね。設定の説明ではなく描写から始まる、小説らしい書き出しです。
ですが書き出しにしてはインパクトが弱いですね。静かな導入も素敵なのですが、AIならもっと奇抜で、ケレン味があってほしいと願ってしまいます。
そのためいろいろ指摘をしてみました。
冒頭の一文ですぱっと切り込んでくれました。いいですね。ただ、そこからの文章はパッとしないので、さらに実験を重ねます。
いいですね。情緒を帯びています。
「微かな電子の味がする。この街では、AIが雨粒になって降るのだ」というフレーズ、かなりいいですね。AIに期待するものが詰まっています。意表をつく描写からパターのフレーズを放ち、小説の冒頭として秀逸です。
ではこの続きはどうかいうと、実は微妙です。最後まで書いてもらったので、全文を乗せてみます。
独特の雰囲気はあります。しかしながら時折わかりづらい文章を書いてしまうし、冒頭のような描写を維持できていません。描写する力はあるものの、どうしてもあらすじっぽくなってしまい、「お話」になってしまいます。
その原因は「時間の流れ」をコントロールできていないことに起因すると判断しました。全体的に、物語の時間よりも語りの時間が早くなりすぎているのです。もしそうなら、「時間の流れ」で書いた「情景法」にあたる書き方ができれば改善できます。
ただ、情景法の概念を説明するのは非常に難しいことです。そのため、翌知られた研究者と分野の名を挙げて、知識をインポートするような形で説明することにしました。「地の文はジェラール・ジュネットの物語論における『情景法』という書き方をメインにし、物語の時間と語りの時間を一致させる」と言った具合です。人間の初心者にこう言ってもまるで理解してもらえませんが、膨大な知識を持つChatGPTには、こんな風に言うとよく伝わります。
そんな具合であれこれ調整した結果、それなりに小説として成立するものが出来上がるようになってきました。
しかし、まだ「お話」の域を出ていません。小説の書き方をざっと伝えたので技術はあるのに、それが表に出てきません。
そこで違う角度からとあるフレーズを投げ掛けたところ、急にレベルアップした作品を出力してきました。それがこの作品です。
まだまだこなれない点がたくさんあります。ですが、ところどころ小説らしい文章になっており、「お話」を脱却しつつあります。
たとえばこの箇所です。より字下げと改行で小説らしい体裁に整えてみます。
かなり丁寧な描写で、この部分は小説執筆のレベルが劇的に向上しています。こういった文章を「お話」だと感じる人はいないでしょう。ここだけ切り出して見せれば、まさしく「小説の一節」としか言えません。
このレベルの描写を全文でできていないのが惜しい点です。しかしながら、指示の出し方を追及すればできそうだとも感じます。少なくとも、「このマガジンの内容を要約して指摘すればChatGPTも小説らしい文章を書くのでは?」という仮説は概ね正しそうだと判断しました。
こんな風に劇的にレベルを上げる指示を考えたのですが、出来上がった指示を見て思うことがありました。実はそれ、人間にこそ効果がありそうだと感じたのです。つまり、「同じ指示を人間の初心者に出したらもっと面白いものを書いてくれるんじゃないか?」という仮説が生じたのです。
どういうことかは、出来上がった指示を見ればわかると思います。以下が実際の指示です。