吉田 誠治『ものがたりの家/吉田誠治 美術設定集』
☆mediopos2618 2022.1.16
読みはじめると
登場人物に同化して
そのなかに入りこんでしまうような
魅力的な物語にはリアルな細部がある
そしてその世界が具体的には
いったいどんな世界なのかと
イメージはさまざまに広がってゆく
その世界が地図として
描かれていることもあり
その地図をたどりながら
登場人物とともに旅をしたりするが
登場人物の住んでいる家などを
登場人物の動きをアニメで観るように
具体的にイメージできるようになると
家の細部が気になったりもする
文字で書かれている物語が実際に
漫画やドラマ・アニメあるいはゲームになったとき
じぶんのイメージしていたのと違っていたりすると
がっかりしたりもするけれど
がっかりするということは
それほどに物語のイメージが
じぶんのなかで描かれていたということでもあり
そのとき物語はそれぞれのイメージ世界のなかで
まさに生きて展開されているのだといえる
本書は吉田誠治というイラストレーターが描いている
『ものがたりの家/吉田誠治 美術設定集』で
「ものがたりの家」はぜんぶで33軒
「物語の中に登場してもおかしくないような
個性的な「家」」の外観
そして建物内部のパースが
リアルなイラストで描かれ
登場人物の紹介から物語の設定や
家の構造説明なども書き込まれていて
物語をアニメで観ているようでもある
本書が興味深いのは
描かれているのは主人公の基本的な設定と
その住んでいる家だけだが
そこでどんな物語が展開されるのか
それは読者の想像力に委ねられているということだ
稚拙な絵やいい加減な設定だと
物語を先に進めてみようとは思えないだろうが
ここで描かれている物語は
虚構ながらどれもリアルに表現されている
文字だけではなかなかここまでリアルさを
イメージすることは難しいだろう
本書はそんな細部まで
イメージする力を育てるだけでなく
さらには表象できないテーマへと向かうべく
イメージを越えたイメージを
育てるきっかけにもなりそうだ
それはすでにイメージとはいえないけれど
イメージを超えるためには
まずイメージを持つ力が必要だからだ
思考を超えるためにはまず思考が必要であるように
※本書からは7つのシーンを画像で引用紹介してあるが
すべてすでに本の紹介用に画像として公開されている
■吉田 誠治『ものがたりの家/吉田誠治 美術設定集』
(パイインターナショナル 2020/7)
「絵本や小説をはじめ、子どもの頃から無数に触れてきた物語には、必ずといっていいほど印象的な建物が登場しました。
『ハックルベリー・フィンの冒険』の隠れ家、『アルプスの少女ハイジ』の山小屋、『モモ』に出てくるマイスター・ホラの「どこにもない家」など、短い文章や小さな挿絵を何度も読み返して、その物語の世界の細部まで夢見るように想像したものです。
この本では、そうした子どもの頃の興奮を思い出せるよう、物語の中に登場してもおかしくないような個性的な「家」についてご紹介しました。様々な国や時代を舞台に、幅広いジャンルの物語を想定して描いたので、ページをめくるたびに全く違う物語に出会えるようになっています。その家の主人がどうしてそこに住み、どんなものを食べ、どこで眠るのか、家ごとに全く違う物語が感じられるはずです。
そして、それは昔読んだあの本を思い出すような家かもしれませんし、今までに想像すらしなかったような不思議な家かもしれません。どんな物語を想像するのかは、この本を読むあなた次第です。素敵な物語とともに過ごしていただければ幸いです。」
(「悪戯好きな橋塔守」より)
「橋塔とは橋の入口などに造られた塔のことで、都市や城塞を守る門としての役目を持っている。ただ、どうもこの橋塔に住んでいるのは本来の番人ではなく、どこからか辿り着いた無法者のようだ。」
(「憂鬱な灯台守」より)
「ある嵐の翌日、灯台守は枯れ枝のような漂流物を拾う。その「何か」は人の大腿骨ほどの大きさで、嵐が近づくと青白く光るので、不思議に思った灯台守は嵐のたびにそれを見つめるようになる。とうとうその「何か」に答えるように、燈台の地下室から微かな呼び声が聞こえてくると、灯台守自身もこの20年間忘れていた記憶が甦る・・・・・・。」
(「水没した都市の少女」より)
「都市は水没したものの、人々が変わらぬ暮らしを続けている。日常の足は船に代わり、燃料も大きく制限されたが、それでもかつての暮らしを頑なに守ろうとする様は、人間のしたたかさをも感じさせる。」
(「カカオの木のツリーハウス」より)
「カカオの木に住み着いている小さな人々。彼らはカカオの実を食用にするだけでなく、有効成分を薬として利用したり、カカオバターを軟膏にしたり、木の枝や葉を建材や家具に利用したり、繊維を衣服にしたりと、生活のあらゆる分野に活用している。木からぶら下がった住居に暮らし、カカオの木の上で生まれ、一生のほぼ全てを樹上で過ごす。」
(「偏執的な植物学者の研究室」より)
「植物に癒やしを求める人々が多い中で、この植物学者はむしろただその探究心から植物に愛情を注いでいる。彼の研究所は植物に浸食され、植物のために全てが再構築されている。植物にとって快適な環境を求める気持ちは誰よりも強く、人間と植物の共生関係としては、もしかしたら最も幸せな形なのかもしれない。」
(「七人のこびとの家」より)
「グリム童話『白雪姫』に登場する七人のこびとたちのための家。こびと(ドワーフ)というと近年では職人的で屈強なイメージがあるものの、本来のドワーフは妖精としての位置付けに近く、森の奥や地下の穴に住み、陽気でいたずら好きというのが本来の性格である。そんな彼らが共同生活を営む家は、やはり冬ごもりに向きつつもどこか可愛らしく、彼らと同じ三角帽子風の屋根が似合う家が相応しい。」
(「炭鉱夫のエンジン小屋.」より)
「閉山によって使われなくなった小屋を再利用して住居にしたもの。元々は坑道に湧き出た地下水を排出するために、巨大な蒸気式ビーム・エンジンが置かれていた。ボイラーなどは再利用のために持ち脱され、残った建物部分を改修した上で、新たに家具を置いて生活している。」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?