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[インタビュー] Lil Chop Record Shop

新しい音楽レーベルを意識するのはまず音楽が先で、いいなって思ったバンドの曲を出しているこのレーベルはどんなレーベルなんだろうと興味を持つのがほとんどだと思う。あぁこれもそうなんだ、これ好きだと繰り返しているうちに、いつしかそれが逆になりこのレーベルの出している音楽だからチェックしてみようかってそんな状態になるというのがよくある形なのではないだろうか。ジャンプっぽいとか、サンデーっぽいとか漫画雑誌になんとなくのカラーがあるのと同じように音楽レーベルにもカラーがあって、聞いている内にこういうバンドを集めたのはなんでだろうって理由が気になってくる。どうして今、こんなことをやっているのか?そういうことが気になるタイプの人間にとってはレーベルというのはある意味でバンド以上に話を聞いてみたくなる存在なのかもしれない。

今回話を聞いたロンドンの新興レーベル〈Lil Chop Record Shop〉もその例にもれず、これはめちゃくちゃいいなと思ったノッティンガムの新人バンド Otala が サインしたということから気になり始めた。ある時、レーベルオーナーがロンドンのレコードショップ Rough Trade East で働きならがら、それとは別にレーベルを立ち上げたのが〈Lil Chop〉だという話を聞いて、そこからさらに興味を持つようになった(めちゃくちゃ面白そう)。その時に縁があってのOtalaにインタビューをすることができたのだけど、いつかレーベルについても話を聞いてみたいなという思いがあった。

そうこうしているうちに先日そのレーベルオーナー Oliver Friend から「今度オーストラリアのsmol fishってバンドの曲を出すんだけど、どう?この曲良くない?」とメールが来た。そしてちょっとした疑問が頭に浮かんだ。「ロンドンのレーベルなのにロンドンのバンドが一つもなく、他の国のバンドの曲をたくさん扱っているのはどうしてなんだろう?」そんな風に不思議に思いメールをやり取りする中で、気になっていたRough Tradeで働きながらレーベルを始めたことについて話を聞かせてもらえないかと頼んだらすぐにOKの返事が。「でもRough Tradeは先週辞めちゃったんだよね。 今、smol fishと一緒にマンチェスターに向かう車の中にいるんだけど、こういうツアー・マネージャー的な仕事もあるしレーベルに専念しようと思って」とのことで、図らずともこのインタビューは新たなスタートを切ったレーベルについてのものになったのかもしれない。

元Rough Trade Eastのスタッフでレーベルのオーナー、さらにUKの外、オーストラリアからやってきた音楽業界の人でもあるOliver Friend。 そんな多くの視点を持つ彼にRough Trade で働いていた当時のことやロンドンの音楽事情について、そしてレーベルについての話を聞くのはやっぱりとてもおもしろかった。

Otalaはここに来て凄まじく良くなり(本当に凄くなった)、Soren Bryceについてもなにか動きがあるらしい〈Lil Chop Record Shop〉はこれから面白いことになるんじゃないかって今からちょっとワクワクしている。


Interview with Lil Chop Record Shop(Oliver Friend)

ーレーベルを運営しながら、先日まで Rough Tradeで働いていたと聞きました。今回はレコードショップの話とレーベルについての話の両方を聞かせてもらえたら嬉しいです。最初の質問です、あなた自身はどんな音楽を聞いて育ったのでしょうか?過去から現在までお気に入りの音楽を教えてください

記憶にある最初の思い出は『ザ・ベスト・オブ・サイモン&ガーファンクル』かな。あとはTalking Heads。今でも両方とも好きだけど、その後しばらくしてTalking Headsタイプの音楽の方により向かっていったって感じだね。
今は常に新しいサウンドを探し求めているわけだけど、それは祝福でもあるし呪いでもあるって感じだよね。最近のお気に入りはBeing Dead、Gwendoline、Lutalo、24Thankyou、Isiah Hull、leather.head、Dancer 、そしてもちろんこのレーベル(Lil Chop)の素晴らしいアーティストたちも。みんなそれぞれちょっとずつ異なっているけど、ラフトレードのショップの分類で言うとほとんどがオルタナティブ・モダンのカテゴリーに入ると思うよ。

Being Dead - Goodnight (Official Video)

GWENDOLINE - HÉROS NATIONAL (OFFICIAL)

24thankyou Jiraiya


ーRough Tradeで働いていたときはどんな感じだったのでしょか?何か印象的な出来事などがありましたら教えてください。

記憶に残るような夜がたくさんあったしそのほとんどが良い思い出だよ。その中で一番の思い出はShameのカラオケだね。Shameが自分たちの曲を演奏して観客みんなが唄ったんだ。それがめちゃくちゃ楽しくて。それと押し寄せる洪水みたいな人の波をかきわけてジェフ・ゴールドブラムを車の中に避難させたことは忘れないだろうね。僕のお気に入りのアーティストのDaughterが大きくなっていくのを見るのも本当に記憶に残る出来事だった。

ーお店に来るのはどんな人が多かった印象ですか?

本当のレコード・コレクターって感じの人がほとんどだったかな。

ー近年あったムーブメントとしてはなんといってもサウスロンドンのウィンドミルシーンと大きかったと思いますが、あなた自身はこのシーンをどんな風に見ていましたか?レコードショップの店員目線、レーベルオーナー目線の両方を教えてもらえると嬉しいです。

Rough Tradeは新しいアーティストをブレイクさせることよりもレコードを売ることにフォーカスをおいているから、ビジネスモデルとしてそういう面にはあまり目を向けていなかったと思う。
個人的には、このシーンはUKにしても世界的な面でもポストパンク/ノイズ・ロック/ アンダーグラウンド・ミュージックにとってここ10年余りで最もエキサイティングな出来事だったと思っている。インディ・レーベルとしてオーストラリアのアーティストと話していても、カナダやアメリカの業界の人にしてもみんなUKアンダーグランド・サウンドのベンチマークみたいにして使うんだ。もちろんEUにしても日本にしても同じで。この感覚を持っているバンドはみんな一度はウィンドミルでプレイしたいと思うはずだよ。この種のジャンルではそれを理解するのが重要だから。

ー そうしたウィンドミルのシーンから時間が経ち、ロンドン以外のバンドの台頭やフォークやダンスの方向に近づくなどまたサイクルが変わったように感じていますが、あなた自身は今現在の音楽シーンというものをどんな風に見ていますか?

シーンっていうのは常に変化を続けるものだよね。(ウィンドミルの)ブッカーのティムは常に新しくて興奮するような才能を探していて、たとえそれが完璧でなかったとしても、新しい才能を育成して次のシーンを始めようとしているんだ。音楽業界にそういう人たちがいるっていうのは本当に大事なことだよ。新しいバンドを手助けしたり少しでも良い方向に持っていけるような力を有している。そういう人はマジで本当の真の意味で音楽純粋主義者なんだ。

現在の音楽シーンとしては、アメリカでポップとカントリーが復活して大きくなっているって感じている。具体的に言うとWednesday とか。僕にとってはカントリー/ノイズ・ロックをクロスオーバーさせるみたいな存在で、みんながDry CleaningやWet Legを混ぜようとしているみたいな感じ。僕はジャンルが混ぜ合わされている状態っていうのが超好きで。Otalaなんかも、もう彼らがどんなジャンルかもわからないけど、ほんと大好きだし。

Wednesday - Quarry (Official Video)


ー ここからはレーベルについての話を聞かせてください。そもそも 〈Lil Chop〉 というレーベルを始めたきっかけはなんだったんですか?

昔から音楽が好きだったっていうのがあって学校でも音楽ビジネスについて学んでたんだ。10年くらい前にはオーストラリアで(演者として)ツアーに出ていたこともあるし。ある時にもうパフォーマーではいたくないって気がついたんだけど、音楽産業自体には関わっていたいって思いもあって。好きなバンドがバンド戦略的なものを必要としていたからその手助けをするみたいな感じの関わり方をしようって思ったんだ。最初はただアドバイスをするだけのつもりだったんだけど、 The Empty Threats のレコードを安くUKに送る方法が見つからなかったから、じゃあもうレーベルを立ち上げるかって。

ー〈Lil Chop Record Shop〉という名前はどうやって決めたんですか。

父がオーストラリアで金属屋根の会社を経営しているんだけど、その会社の社員が父のことを“Big Chop”って呼んでいたんだよ。それでその人たちが父の手伝いを始めた僕のことを ”Lil Chop” って呼んだんだ。音楽業界で活動するための名前をどうするかって悩んでた時に ”Lil Chop Record Shop” って響きは悪くないなって思ってそうしたんだ。もちろんいつかは実際にレコードショップを開きたい!

ー レーベルのポリシーや重要視していることはなんですか?

一つ、自身が熱望する素晴らしい音楽であること

二つ、会話や一緒にいて楽しめる/仕事がしやすいと感じる、素晴らしい人間であること

この二つのうち一つしかないと、価値がないってことがわかったんだ。(そんな相手と一緒にやろうとすると)喜びよりも負担の方が大きくなるから。

ー レコードショップで働いていたことは、レーベルの運営に何か影響を与えましたか?

100%。間違いなくレコードをプレスするってことに踏み切りやすくなった。それにレコードを人の目に触れさせるために、他の色んなレーベルがどんなことをしているのか知見を得ることが出来たしね。

ー 今現在(24年9月現在)はどのようなバンドを取り扱っているのでしょうか?取り扱っているバンドの紹介をお願いします。

The Empty Threats


これまで見た中で一番だってくらいに本当にライブが凄い!凄まじくドライブするし、フロントのStuも素晴らしい。ポストパンクの特別なエネルギーを持ってリリックにしても強烈で。『Monster Truck Mondays』は既にオーストラリアの歴史において重要なレコードになっている。今日、アルバム2のミックスを通して聞いたんだけど、ライブの感じにさらに近づいていたよ!

The Empty Threats 'Jason's Bad Trip' (Official Music Video)

Otala


僕は彼らのサウンドが発展していくのを見るのが大好きなんだ。Black Country, New Road / Black Midiのサウンドとよく似たところから始まって、今はNathan Ridley (Blue Bendy, Plantoid)と一緒にEP#2を作っている。はっきり言ってEP#2はマジで良いよ。よりジャズっぽくなって、ちょっとソフトになって、素晴らしいバランスのソングライティングで。オスカーの詩的な歌詞でより文学的にもなっていて。

Otala − Everything but the Hate



smol fish


UK/EUのブッキング・エージェントとしてスタートして、今年の4月から5月にかけてUKに招聘したんだ。The Great Escapeにも出演したしかなりうまく行ったよ。それでWomboのサポートの話が決まった時に、次のシングル“Get Over It”をリリースしないかって誘われたんだ。この曲は本当にいい曲だよ!次回のツアーのタイミングで何かプレスできないかと切に願っている。

smol fish – Get Over It (Official Music Video)

 Soren Bryce (Tummyache)


数年前から Tummyacheのシンガー/ソングライターのSorenを追っていて、Rough Tradeでのライブのブッキングをしたこともあるんだ。それで仲良くなってマネージメントの打ち合わせをしようって話してたんだ。連絡したらSorenはゴージャズなソロ・レコードを持っていて、これはプレスしなきゃだろってなったんだよ。

Soren Bryce - "Curdle" [official video]


その他としてはアテネのCommuterのディストリビュートとブッキングを少し手がけているところ。Tummyacheに関しては今週末にどんな風に手がけたら良いのかって話をもう少しするつもり。


ー 契約するバンドはどうやって探しているのでしょうか?発掘の仕方やコンタクトのやりかたについて教えてください。

Spotifyのアルゴリズムはかなり奇妙だけど、シーンやコミュニティ(主にアメリカのもの)を深く掘り下げて、何か素晴らしいものを見つけるまでラビット・ホールに落ち続けるんだ。それとロンドンで行われるフリーライブとか格安のライブに賭けることも多い。国外のバンドの場合は特に。そんな風に発見して、インスタグラムでメッセージを送って、どんな感じの人たちなのか、一緒に仕事が出来るかどうか判断するって感じかな。正直に言っちゃうと、ただのファンとして月に2、3回くらいはメッセージを送っちゃってる。

ー The Empty Threatsはオーストラリアのアデレード、smol fishは同じくオーストラリアのパースという街のバンドでイングランドのバンドではありません。Otalaにしてもロンドンではなくノッティンガムのバンドで、ロンドンのレーベルでありながらこのような陣容だというところに面白さを感じています。これはどのような狙いがあるのでしょうか?

どこの出身とか関係なく、素晴らしいバンドを誰かのもとに届けるのが好きなんだ。僕はもともとオーストラリアの出身だから、オーストラリアのバンドのUK/EUツアーをサポートしたいって考えがあって。UKで始めようと思った時にはどんな仕組みで動いているかわからなかったんだけど。オーストラリアとはブッキングのやり方が正反対だったから。オーストラリアはもっとDIYって感じでそれと比較するとUKはプロモーター重視って感じなんだよね。それと愛すべきいいバンドがUKのマーケットで成長する機会を与えられたり、そうすることで経験を積めたらっていう思いもある。

ー先日のWomboとsmol fishのUKツアーについてですが、アメリカのバンドとオーストラリアのバンドが一緒にUKツアーを回るというのは非常に珍しい気がします。このツアーはどういう風にして決まったのですか?ツアーについての話を聞かせてください。

これは僕から企画したものなんだ。 僕はWomboの大ファンなんだけど、Womboってライブもめっちゃいいんだよ。だから8日続けてライブが見られて最高だった。本当にプロフェッショルだったし。新曲もマジで良かったんだよ!Womboとsmol fishの組み合わせはかなりフィットしていると思ったし、smol fishのブリストル、ロンドンとブライトンでのライブは特にいいライブだった。smol fishはマンチェスターとかグラスゴーのリスナーがたくさんいたから、この二つの街に呼べたのも本当に良かったと思う。どのライブも素晴らしかったよ!Womboとブッキング・エージェントのGuillaume に大感謝だね!また一緒にツアーを回れたらって思ってる。


ー最近はSNSを通じて、海外の音楽の盛り上がりや受け止め方、あるいはシーンの一端を感じることができるような気がします。そういった部分について意識しているところはありますか?

それは本当にそうだよね。僕もそう思うし、UK/ロンドンにそうしたシーンを持ち込めたり、他のシーンにUKのアクトを持ち込めるってアイデアは素晴らしいよ。5年後、10年後、15年後くらいにマイクロシーンに行けたらいいなって期待しているし、似たようなことをやっている人たちと僕らは強固な関係を築けている。パースのsmol fishとかアデレードのEmpties (The Empty Threats)を通してさ。多くのシーンに対しての理解をより深めたいよね。シカゴのシーンはめちゃくちゃクールだし、アメリカの他の地方のシーンもいいし、オランダやフランスのマーケットの動きについてもっとよく理解したい。日本でいうとアンダーグランドのノイズ・ロックの動きにほんと興奮してて。もしチャットしてもいいよって人がいたらインスタグラムでメッセージをください 笑

ーありがとうございます。最後にレーベルの将来的な目標を教えてください。

レーベルの物理的なスペースを見つけたい。他のレーベルの本拠にもなるようなヴェニューを持ってそこでちょっとしたショーをやりたい。

バーやパブを5件ほどオープンした経験があったりするから、自分はホスピタリティの世界を理解できているって思うんだ。ライブに行くのも大好きだし、何か新しいことを聞くのも好き、コーヒーやビール、たくさんのレコードに囲まれたクリエイティブなコミュニティ・ハブを作れたら最高じゃんって、この10年ずっと思ってる。

当面の予定としては2025年に5~6枚のフィジカルをリリースしようと計画している。それで収支がうまくいったなら、26年、27年と続けていければって感じかな。このレーベルには本当に良い才能を持ったアーティストがいるから長い間一緒にやれたらいいなって願っている。そうじゃなければもっと飛躍できるような大きなレーベルに移籍する手助けができればいいなって。彼らはみんなビッグネームになるにふさわしいだけの才能を持っているから。


Lil Chop Record Shop Instagram: https://www.instagram.com/lilchoprecordshop/


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