2010年代後半に起こったロンドンシーン その3 レーベルカラー
Sports TeamのHolm Front
Holm FrontはSports Teamのレーベルで、初めはたぶん自分たちのレコードを中心にって感じだったんだろうけどユニバーサルとの契約が決まってから自分たちが良いと思ったバンドを出してシーンを引っ張りあげようとする方向に明確に舵を切ったような感じがする。AlexとShameのCharlie Steenがロンドンのシーンについて一晩語り明かしたエピソードが示すように、Shameと同じくらいSports Teamも自分たちの立ち位置に自覚的でShameとはまた違ったやり方でシーンを盛り上げようと試みた。
ここで重要なのはSports Teamはウィンドミル系のバンドじゃないというところ(ケンブリッジからウエスト・ロンドンへ)。外からウィンドミルのシーンを眺めて称賛しどこが足りないのかと見極めて、それとは違う流れを作り出すリーダーたらんとした。Shameを中心としたウィンドミル系の流れはそこに集った仲間とコミュニティを形成しその広がりと共にシーンも大きくなるというある種内向きでそして自然なものだったけど、Sports Teamは最初から円の外側を見ていて発生したこの現象を一過性のブームで終わらせないように動いていた。内向きなシーンをいかに外に向けてアピールするか、それは自分たちが大きくなって音楽シーンの流れを変えること、Sports Teamには野心があった。ここがShameらウィンドミル系のバンドとSports Teamの一番の違いだったんじゃないかと思う。
ギターバンドを再びクールな存在にする、その為の手段としてレーベル(Holm Front)はある。ウィンドミルの外にいるバンドをシーンの中に引っ張り込んでそれをシーンの燃料とする。もちろん価値観が共有された良いバンドでなければ燃料たり得ないけれどSports Teamの審美眼はそれをキチンと選び取る。
そんなSports Teamが選択したレーベルのリリース第一弾はケンブリッジ時代から知っている後輩Ugly。Uglyを第一弾に持って来た時点でもう勝負は決決まった。初手にして最高。もちろん引っ張って来れたのはその縁があってのことだろうけど、縁があったから出したんじゃないってことは音を聞けば一発でわかる。
そしてSports Teamはその後スコットランドのWolt Discoを出し、オランダ遠征で発見したPersonal Trainerをイングランドに持ち帰った。新しいバンドの新しい音楽、レーベルの姿勢は毎週のように更新されるSpotifyのプレイリストを通して表明されて、ファンはSports Teamコミュニティを通して意見を伝える(このコミュニティの詳しい話は前に書いた記事を読んで欲しい)。こうした形で透明性が保たれるからこそ、大きくなることがインディ的な裏切りとならずにシーンの良さを保ったままその輪を広げていることが出来ているんじゃないかと思う。
だからこそSports Teamにとってはきっとここから先が重要、メディアや大手レーベルが求めたからではないシーンの広がり、ブームで終わらせないためのその一翼をSports Teamは担っている。
Sports Team
Pavementが好きでThe Strokesの影響を受けThe Family Catを偏愛する、ケンブリッジ大学で結成されそこからスタートしたSports Teamは気がつけばブリットポップを感じさせるBlurみたいなスケールの大きいバンドになっていた。レディ・ガガに勝手に挑んだ1stアルバムの戦いは記憶に新しく、今もなおエンターテインメントを提供し続けている(なぜだかビールを造っていた)。思うに今のバンドはストーリーとユーモアが足りていない、インタビューでのその言葉通りにSports Teamは活動しMargateへのバスツアーからWhatsAppを通してのコミュニティ作りまで仲間と共に集まるべき場所を作り続けた。バンドとファン、そしてファンとファンとを結びつけるコミュニティは出来事を思い出として共有し全てを価値あるものに変えていく(少なくともそのように思えるものに)。音楽はその中心にあり、ライブには熱狂が形となって現れた。俺たちの仲間の代表がステージにいる、Sports Teamとはもはやコミュニティそのものなのだ。
だからたぶん「なんでM5をアルバムに入れないんだ?ライブで一番盛り上がる曲だろ?」「わかってないな、一番良い曲はアルバムに入れないものなんだ」的な議論で盛り上がってもいたはず。Sports Teamのこうしたファンベースの作り方はシーンにおいても非常に興味深かった。
Ugly
Uglyに感じるロマン。最初にSwitchのビデオを見たときにBabyshamblesだって思った、あの日のピート・ドハーティがそこにいるって(エディ・スリマンもそれがわかって、だからショーに起用したって勝手に思った)。詩的な表現で輝きと腐敗が包まれて、未来が担保になった若さがそこに存在して……。
Uglyはきらめいているけれど決して駆け抜けることはない。そこにはある種の閉塞感があって、音楽はそこから抜け出すために存在するんじゃないかって感じがする。閉塞感に抗うための音楽。
Sports TeamのHolm Frontから出した7インチの曲は宗教的な比喩が多用され、伝統的な吟遊詩人のスタイルで言葉数多めに朗々と物語が語られた。UglyはSports Teamがケンブリッジ時代に出演していたライブハウスに通っていたらしくその縁もあってHolm Frontからリリースする運びになった。元々のドラマーであったCharlie Wayne(学校のクラスメイトだったらしい)はBlack Country, New Roadの活動に専念するために脱退、新しいドラマーの他にトランペット奏者とキーボードプレイヤーを加えて現在は6人組として活動している。
UglyはGoat Girlが好きらしいけどそれもなんだかわかる。共通するのは詩的な心と閉塞感、イングランドの伝統的なスタイルに則った、The Libertinesにあったあの感じ。
Walt Disco
突き詰められる美意識、スコットランドのWalt Disco。80年代のニューウェーブ/ゴスをベースにそこに現代的な価値観を付与して混ぜる。そのスタイルは間違いなくHMLTDの影響があったはずで、こういう音楽をSports Teamがリリースするあたりに何やら意味を感じる(ロンドンでの最初のライブがSports Teamのツアーのサポートで出演したElectric Ballroomだったらしい)。
Walt Discoはマジで美意識をとことん追い求めるみたいな感じなんだけど、どこかユーモアもあってそんなところが好き(なんかこうちょっとした隙があるみたいな感じの)。自分たちが影響を受けたスタイルを突き詰め時に物語を帯びた何かを演じているようなそんな感じがする魅力。
Nice Swan Records
Pip BlomやSports Team、Dead Prettiesをリリースし初期のロンドンシーンを引っ張ってきたNice Swan Records、一時期ちょっと停滞したかなって感もあったけれど FUR, Hotel Lux, Courtingと最近また勢いづいて来た感がある(アルバムは違ったけどSilverbacksもリリースしてたし)。
こうやって並べてみるとNice Swanはストレートなギターロックを好んでいるっていうのがわかる。レーベルオーナーのAlex Edwardsはソニーやユニバーサルなど大手のレーベルで働いていたらしくBlossomsと契約を結んだのもこの人らしい。そう考えるとSports TeamのユニバーサルもNice Swanからのルートだったのかなって気がしてきた。この人は大のリバプールファンでアンフィードにいる写真をよくインスタにポストしているけれど、レーベルのロゴはどう見てもスワンズ(Swansea City)。
Hotel Lux
初期は硬派で最近はもっとポップに、中期のThe Kinksを尖らせたみたいなイングリッシュネス溢れる曲を作っているポーツマス出身Hotel Lux(さぁ声を合わせて唄おう)。Hotel LuxはShame, SorryのあのラインでSports Teamとも仲が良い。ようはロンドンシーンの割と初期から活動しているバンドってことなんだけど、その中でHotel Luxだけがアルバムを出していない。そろそろかなってタイミングはあったけどなかなか出ずに気がつけば第二章に入ってた。ついにその時がと常に思ってはいるけどいまだ発表はなし(でも待ってる)。
こういう言い方をするのもあれだけど、雰囲気としては理想のジャイアン・バンドって感じでイモ臭い。だがそれが良い、フットボールを愛するこれこそがイングランドって感じの雰囲気で好き(それぞれポーツマスとフラムとレディングとリバプールのファン)。ついでに言うと、エディ・スリマンがHotel Luxを推してるのを見てマジで凄いって思った。それはつまり格好良さの価値観がいくつもあるってことだから。
Fur
それっぽい雰囲気を出しすぎていてもはや現代のバンドとは思えないFur。なんかもう70年代前半のバンドそのものって感じに思えてきた。ノスタルジックで、でもやっぱり曲が良くて、聞く度にいいって感じになるやつ。知らなかったらたぶん2018年の曲だって思わないな。
それゆえにシーンでちょっと浮いた感じになっている気もするけれど、でもやっぱりいいものはいい。
Courting
Nice Swanがサインした最新バンド、リバプールのCourting。これはNice Swanだわって感じの若さあふれるストレートなギターミュージック。勢いだけでつっぱしるって感じじゃなくてそこはちゃんと歌心があってって感じのやつ。
Footballってタイトルのそのものズバリの曲もあるけれどやっぱりフットボール文化の影響がかなりあるなって思う(それはHotel Luxもそう)。なぜならフットボールを観るということは唄うってことだから。フットボールは常に唄と共にあって、荒々しくも歌心があるってそんなバンドのイングリッシュネスはマジでこういうところから来ているんじゃないかって思う。
立ち位置的にもThe LibertinesよりもむしろThe Viewを感じるCourting。
Dead Pretties
Dead Prettiesが解散した時は悲しかったな。ShameやGoat Girl、Sorryと並んでサウスロンドン・シーンの中心バンドになってもおかしくなかったのに。1年と少し、あっという間に解散してしまった。
Dead Prettiesはノース・ロンドンはトッテナム、セブンシスターズ出身の三人組。それでなのかSorryと特に仲が良かった(Sorryは色んなところを繋いでいる)。ぶち切れたようなパンキッシュなギターミュージックをやっていて本当に魅力的だったのに(ちなみに上のビデオはHolly Whitakerが監督している)。
メンバーのうちBen Firthは現在FEETでドラムを叩いていて、残りの二人Jacob SlaterとOscar Browneもそれぞれソロで活動しそうな雰囲気があるのでそれに期待。特にOscarがSoundCloud上で公開しているchokingは初期のRadioheadみたいな雰囲気がある名曲だからどうにか本当になって欲しい。
Permanent Creeps
Permanent Creepsはロンドンのシーンの中でもパンクに寄っているレーベル/プロモーター。汗と煙の匂いのするある種のギャングみたいなバンドが多いような気がするそんな集団(マガジンを出してたりイベントを企画したりもしている)。Fat White Familyの影響がより強く出ているみたいな……っていうかこのビデオを見ればどんな感じか一発で分かる。
ビデオを見るだけで地下感がめっちゃしてくる。パンクでアンダーグラウンド、集団の確かな色がここにある。
DITZ
ソリッドでエッジが立っていて独特の色気があってDITZはいけてる。曲によって色んなジャンルの要素があるけれど共通しているのはどれも暗くて色気があること。ブライトンのバンドでPermanent Creepsからリリースされた曲はどれも良くてマジで雰囲気がある。
Peeping Drexels
覆面を被って唄うPeeping Drexelsはストリートの不良みたいな魅力がある。Fat White Familyの影響を強く受けたみたいな感じのパンクで、アンダーグラウンド感があるのがとても良い(ナイフを振り回すんじゃなくてひたすら研いでいるみたいなそんな感じがする)。
ちなみにThe GoofのジャケはSorryのジャケも作っていたSpit TeaseのものでSpit TeaseはSlow Danceの遊び仲間、こんな風にやっぱりこのシーンはどこかで繋がっている。
Honkies
Fat White Family直系のサウス・ロンドン・バンドHonkies。もっとカントリーに寄せてロカビリーとかパブロックの要素を加えた感じで格好いい。一時期SorryのLincoln Barretがドラムを叩いていたりもした。
Peeping Drexelsよりもさらに地下感があって邪悪でヤバそう。そういうところがやっぱり魅力。それはFat Whiteにしてもそうなんだけどそういう部分になんだか惹かれる。
Italia 90
パンクに寄ったポストパンク、みんながJoy Divisionに行く中Warsawに向かったみたいな、もっと汗の匂いがするあるいは怒りを内包して何かに噛みつくみたいな。Italia 90はブライトン出身で全員が幼なじみ。ウィンドミルにもよく出ているらしい。というかPermanent Creeps系のバンドはみんなそう。前にSports Teamがサウス・ロンドンはパンクのシーンだって言っていたけどそれはこういうところから来ているんだろうな。サウス・ロンドンのパンクの側面、それを強く感じさせる。
Guru
ブライトンの硬質ポストパンクバンドGuru、尖ってはいるものの誰も近づけないほどキレてはいない。でもポップになり過ぎることもない、そちらにはいかないという意思にさじ加減、こういうところがPermanent Creepsっぽいなと思う(これがもっとポップに寄ったらYALA!だった)。レーベルカラーっていうのは確かにあってそれがシーンを彩る。Guruはでもやっぱり曲が良いなって思う。
YALA! Records
MaccabeesのFelix White主宰のYALA! Records、Permanent CreepがパンクよりならYALA! Recordsはレーベルカラーとしてエッジが立ちつつもポップなバンドを押し出している気がする。それはTalk ShowとかEgyptian Blueとかのイメージからきているんだろうけど、他にもWillie J HealeyだったりThe Magic Gangやwhenyoung、FEETを出していたり、なんていうかそういう感じっていうのが強く出ている。よくスタジオ・ライブの映像がYouTubeに上がっていて、そのスタジオがとても良い。そういう部分も含めて見せ方が凄く上手いと思う。これは絶対レーベルとしてのイメージを意識してやっているはず。YALA! Records関連のバンドを集めてフェスとかツアーをやったらかなりいい感じになりそうってくらいにレーベルカラーがしっかりしている。
Talk Show
Talk Showはイキりまくっているところがいい。イキリまくるフロント3人ににこやかにドラムを叩くお姉さん(最後に加入、こんな感じで怒られないか不安になるほどにこやか。でもそれがいいアクセントになっている)。Talk Showはサウス・ロンドンシーンの形が出来た後に少し遅れてやって来たって感じなんだけど曲がいいんだよね。Shameをグッとポップにしたみたいな感じで、これ以上いくとやり過ぎになるってとこで止まってエッジを立てるその加減や塩梅が絶妙。
Egyptian Blue
Egyptian Blueもまさにそう。ポップだけどポップになりすぎない絶妙なバランス、でも色味があってカラフルって感じで。もっと暗くてドーンと来るのも素晴らしいんだけど、合間にこういう感じなのを聞くとめっちゃ良く聞こえる。YALA! Recordsはこの辺りを狙って確実に仕留めてきてるなってそんな印象がある。
そしてやっぱりこういうスタジオ・ライブの映像を自前で用意できるのが強みだな。このプロモーションはめっちゃ良いと思う。やっぱりバンドはライブ(もしくはビデオ)を見せてなんぼってところがある。ルックス、雰囲気、人柄、音楽と合わさったそういうものが憧れや親しみ、共感を呼ぶ。そしたらもうどうでもいい存在じゃなくなるから、気になってもっと情報を集めたくなるし話題にするし音楽を聞く。こういうのが能動的じゃなくて受動的に、ぼーとしている時に流れてきたら最高だなって思う。Speedy WundergroundのPierre Hallが今の若いバンドは適切なプロモーションを受けられていないと思うみたいなことを言っていたけど、そういう意味でも場所や機会を作るのが重要なんだろうな。
Egyptian Blueもブライトン出身で何気にブライトンのバンドも多い。DITZとかThe Magic GangとかPorridge RadioもそうだしGuruもそう。ブリストル(IDLESが中心になって築いているというコミュニティがあるらしい)とかリーズとかブライトンとかロンドンの以外の地域も確実に盛り上がっているのを感じる。
とはいえ今はロンドンの話、次で振り返りは最後、当時はわからなかったけどこの事を言っていたのかと今ならわかることもある。