
「休めない農業」の正体
今回のテーマ「休めない農業」の正体
休みたい、でも休めない農業者の現実についてのお話です。
先日、女性農業経営者育成講座の事業計画発表会に出席させていただきました。
そこでは、受講生が今後のビジョンや売上拡大について発表していたのですが、
ある女性がこう語ったのです。
「私の目標は、主人と2泊3日の休みを取ることです。」
家事と育児と農作業に追われ、1日も休めない日々。
ご夫婦にとって「たった3日間」の休みが大きな目標になっているという現実があります。
これは決して珍しい話ではなく、多くの農業者が「休みを取れない」と感じています。
しかし、そもそも本当に「農業はそんなに休めないもの」なのだろうか?
休みが取れないのは“忙しい”からではない
農業は本当に休めない仕事なのか?
私自身、会社員と農業の両方を経験しているが、休みに関して言えば会社員の方が不自由です。
なぜなら、会社員の休みは会社から与えられるものだが、農業者は自分で働く時間や休みを組み立てることができるからです。
では、なぜ農業者は「休めない」と嘆くのか?
理由はいくつかあるが、特に大きなものは 「不安」 ではないだろか。
例えば
休んでいる間に 病害虫 や 鳥獣害 で作物に影響が出るのではないだろうか?
休んでいる間に予期せぬ天候不順やイレギュラーが起きるのではないだろうか?
仕事に追われるようになると取り戻すのに数週間かかってしまう
周囲の農業者が働いている中、自分だけ休むことへの 罪悪感。などなど。
これらの不安要素は確かにあるが、遠隔モニタリング技術やスマート農業の進化で、以前より管理はしやすくなっている。また、従業員を雇えば休めるようになるのではないか?また、農業は農繁期と農閑期があるのでオフシーズンに休めるからいいよねという声が大半かもしれません。
しかしそれは価値観、規模、コストとの兼ね合いがあるのでまた別の機会に解説します。
今回は日常生活で 「休めない」 農業の結論は
「いいものを作らなければならない」という終わりなき追求が、
農業者を休ませないから ではないか?という論点でお話します。
【「いいもの」の定義とは?】
農業者はよく「いいものを作ってください」と言われます。
しかし、「いいもの」とは何なのか? これを明確にしなければ、 永遠に休むことはできません。
形の良いもの?
色が美しいもの?
糖度が高いもの?
味が濃厚なもの?
こうした要素を追求するあまり、農業者は 「もっと、もっと」 と努力を重ねます。
しかし、市場にはすでに高品質な農産物が溢れています。
それでも「もっと良いものを作らなければ」と思い続けてしまうのは、 「いいもの」の定義が固定されていないからだと思うのです。
実は、「いいもの」とは 立場によって異なります。
例えば
市場では供給のタイミングが安定しているもの
出荷部会では規格が統一されているもの
バイヤーからは価格が安定し、供給量が確保できるもの
販売者からは高く売れるもの
消費者からはストーリー性や付加価値のあるもの
つまり、農業者が考える「いいもの」と、実際に求められる「いいもの」には ズレがあるのです。
特に市場出荷では、その時々のニーズによって 「いいもの」の基準が変わるため、際限がありません。
得てして「いいもの」を追及する「職人型農家」に多いのがこういった背景があるからだと思います。
実は「おいしいもの」も同じなのです
「おいしいものを作ろう!」も、農業者が時間を費やす大きな理由の一つです。
しかし、「おいしい」とは主観的なもの であり、科学的な要素だけで決まるものではありません。
糖度が高ければおいしい? → 必ずしもそうとは限らない
調理方法によって変わる → 加熱や冷却で味の感じ方は変わる
食べるシチュエーションの影響 → 旅先で食べると何でもおいしく感じる
「おいしい」は、 ストーリーや体験と結びついているため、
ただ品質を追求するのではなく、 食べ方の提案やストーリーを加えることで「おいしい体験」をデザインすることができるのです。
マーケティング視点で「いいもの」を考える
農業者が「いいもの」を追求する際に大切なのは、 「誰にとっての良さなのか?」を明確にすることが大事です。
✔ 「いいもの」は人によって違うと理解する
→ 自分の農産物のターゲットを明確にし、その人にとっての「いいもの」を作る。
✔ 100点を目指すより、80点で価値をつける
→ 完璧を求めるあまり休めなくなるより、「適正な品質 × 付加価値」で差別化する方が持続可能。
✔ 時間を奪われる「終わりなき追求」から抜け出す
→ 「いいものを作ることがすべて」という考えを捨て、「市場が求める適切な品質を提供する」ことにフォーカスする。
休みが取れないのは、「いいもの」の呪縛のせい
「いいものを作ること」は大切です。
しかし、それが 誰にとっての「いいもの」なのかを明確にしなければ、農業者は終わりなき品質追求に時間を奪われ、休むことができません。
だからこそ、マーケティング視点を持ち、
「自分がどの市場・消費者にとっての『いいもの』を作るのか」を意識することが、 生産性向上にもつながり、農業者がもっと自由に働くためのカギになると思っています。
「いいものを作るために、もっと働かなければ」から、
「適正な価値を提供し、しっかり休む」へ。
私もこの「きづき」によって楽な農業に切り替えることができました。
この意識の転換が、農業者の未来を明るくし、農業界が明るく照らされることを願っています。
関連動画はこちらでご覧いただけます
https://youtu.be/0WWZBPPAfuA