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女性同士の愛を歌う時代:ビリーアイリッシュから「なるみや」まで

海外では、著名なアーティストが女性同士のセックスや性について、積極的に歌われる時代になりました。ビリー・アイリッシュやクィアのポップアーティストであるキング・プリンセス(ミカエラ・ストラウス)、セイント・ヴィンセントなど、海外では多くの女性アーティストによる女性との愛を歌った曲が人気です。

日本でも宇多田ヒカルさんがノンバイナリーであることを公表したほか、女性アーティストが19歳時点で作成したレズビアンをテーマにした歌がSNSを中心に人気を集めるなど、注目のアーティストが続々と登場しています。この記事ではポップミュージックでレズビアンソングが歌われている現状についてお伝えします。

ビリー・アイリッシュ「Lunch」

大手メディアのガーディアンが、2024年6月にビリー・アイリッシュの新曲「Lunch」について「女性同士のセックスについて率直に歌う最新のアーティスト」として紹介しました

Lunchのサビでは以下の様に歌っています。

「I could eat that girl for lunch
Yeah, she dances on my tongue
Tastes like she might be the one
(編集部訳)
『あの子をランチで食べてしまいたい
そう、舌の上でたっぷり味わって
運命の人を堪能したい』」

歌詞では「食べてしまいたい」といったように、直接的な表現で女性同士の性的な視線を歌っています。

ガーディアン誌でも紹介されているように、海外ではセイント・ヴィンセントの新曲Fleaでは性的な欲望や衝動を象徴的に表現している歌詞が盛り込まれていたり、バイセクシュアルのR&Bシンガー、ビクトリア・モネが2024年の野外音楽フェスティバルのコーチェラでマイクを装着型のディルドの様に配置し、彼女のバイセクシュアルなアイデンティティや性的な表現の自由をアピールしたりしています。

この様に、表現の世界でより性が受け入れられている様になっていることをについて、オーストラリアのポップスター、ピーチPRC(本名シェイリー・カーノウ)は「レズビアンポップのルネサンスが起こっているのが嬉しい」と語っているほど、世界ではポップソングがレズビアンに向かった変化が起きています。

ピーチPRCによると、過去のレズビアンポップはシンガーソングライターによるもので、自身の経験や感情を率直に表現することが多かったのが、現在はダンサブルでポップな要素を持つ歌が増えて来ているとして、表現の幅にまさに「ルネサンス」が起こっているというのです。

一方で、キング・プリンセスが2018年に『Pussy Is God』をリリースした際は、「今とは違う風景」で「女性がプッシーについて話しているのはあまり見られなかった」ことだと指摘します。自身もシングルをリリースする際には不適切な楽曲だと見なされると恐れていたそうです。そのため、現在のレズビアンポップのルネサンスは今、起こっていると言えるのかもしれません。実際にガーディアン誌によると、過去10年ほどでクィア女性による曲が徐々に増えてきているということです。

日本のポップソングにおけるジェンダー|山本リンダから宇多田ヒカル、なるみや

日本ではレズビアンやLGBTQに関してランキングに入るようなポップソングは多くないという印象があるかもしれません。

しかしそうした中でも、2021年に自身がノンバイナリーだと明らかにした宇多田ヒカルさんが2016年に発表した「ともだち with 小袋成彬」が、同性愛者の同性愛者ではない人に向けた曲として知られています。

ノンバイナリーとは性のあり方が男性か女性という性別二元論にとらわれない人のことを指します。英語圏では主に「ノンバイナリー」の他に「ジェンダークィア」といった言葉が使われ、日本語圏では主に「Xジェンダー」が用いられています。

ただ、日本では歌謡曲の黄金時代であった70年代、ポリアモリーを歌ったと想定される楽曲がすでに大ヒットしていました。

『どうにもとまらない歌謡曲』(晶文社、2002年)の著作を持つ立教大学教授の舌津智之氏は、昭和のスターである山本リンダの大ヒット曲「どうにもとまらない」がバイセクシャル・ソングの可能性を指摘しています

相手の性別がどうあれ、複数の人間を同時に愛することは、今日的な価値観に照らすとき、ひとつの生き方として尊重されねばならない。思えば、これはまさに、山本リンダの主張である。「港で誰かに声かけて/広場で誰かとひと踊り」したあと、「木かげで誰かとキス」さえする〈どうにもとまらない〉
(Imidas「70年代歌謡曲から見える新しい『愛のカタチ』」より引用)

特に重要な指摘は、こうした時代に「女性の恋の自由を主題としてきた」という点です。

ジュディ・オングさんが1979年に発表して大ヒットした「魅せられて」でも「好きな男の腕の中でも/ちがう男の夢を見る」という歌詞が登場し、ポリアモリーを想像させる歌になっています。

当時はこうした女性の性を語ることは軽蔑の対象ともなりかねませんでしたが、歌謡曲の中で社会的な批判として盛り込まれてきたのでしょう。こうした歌がヒットしてきた日本社会は、バイセクシャルやLGBTQに関して多くの人が興味を示してきたと言えるかもしれません。

現在の日本のポップソングは?

一方で、現在の若者世代ではTikTokやYouTubeを中心に、レズビアンソングが話題となっています。

楽曲発表時に19歳(記事執筆時は20歳)の「なるみや」さんが2023年に発表した「可愛いあの子が気にゐらない」はTikTok動画でも人気で、2023年10月のTikTok Weekly Top 20でも2週連続でランクインしました。10〜20代の若者に急速に支持を広げているアーティストです。

あぁ その髪の
ふと香る甘美に魅せられて
ほら、もうとっくに手遅れです、
もう どっくん、どっくん、です

こうした歌詞からは片思いの同性愛の女子高生の思いが読み取れます。
しかし、ビリー・アイリッシュや海外のレズビアンポップとは異なり、セックスに関する描写などはなく、若者の恋愛模様を描いたものです。前述の宇多田ヒカルさんの楽曲に関しても届かない恋として歌われる様に、直接的な性的な関係を表すポップソングは日本には少ないのかもしれません。

クィアアーティストが注目

一方で、クィア性を打ち出した楽曲やプロモーションビデオで注目を集める若者も出てきています。Vogue Japanで取り上げられたり、青山テルマさんとのコラボ楽曲で注目される「Aisho Nakajima」さんのGangbang(1人が中心となって複数の人々と連続的あるいは同時に行なう性行為を示す言葉)では、男同士、女同士、様々な人がキスをするプロモーションビデオではクィア性が強く打ち出されています。

さらに、新潟県出身で、現在はイギリスで活動するRINA SAWAYAMAさんはクィアとして度々メディアに取り上げられています。2018年に楽曲「Cherry」でパンセクシュアルであることを公表し、2020年には、LGBTQコミュニティに捧げた「Chosen Family」を発表しました。Chosen Familyはエルトン・ジョンとデュエットしたスペシャルバージョンも話題となりました。

RINA SAWAYAMAさんは2024年3月に開かれたグッチの春夏コレクションローンチパーティで、特別パフォーマンスを披露するなど、国内外で注目を集めています。そんなRINA SAWAYAMAさんは2022年8月に来日し、同性婚が認められていない日本社会に対して次のようなスピーチを行いました。

私がここで同性婚をしようとしたら、出来ないのです。なぜかというと、日本では禁止されています。G7の国の中でも唯一、そのprotection、LGBTQの差別禁止(を定める法律)がない国。同性婚のprotectionがない国です。私は日本人であることを誇りに思っていますが、これはすごい恥ずかしいということです。私と、私の友だち、choosen familyを受け入れて平等な権利を与えられるべきだと、平等な権利を持つべきだと思う人たちは、皆さん私たちと私たちのために闘ってください。LGBTの人は人間です。LGBTの人は日本人です。愛は愛。家族は家族です。一緒に闘ってください。よろしくお願いします。(引用:https://front-row.jp/_ct/17564836)

バイセクシャルに関する楽曲が歌われ、レズビアンを思わせる歌詞が若者と人気となっている今、今後もクィアアーティストの動向が世の中により受け入れられていくことでしょう。

国内外のアーティストによるジェンダーや性に関する発言が増えていくことで、日本のエンターテイメントだけでなく、社会的な影響も広がっていくことが期待できそうです。

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