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解剖 #1-6 中脳
脳幹は大脳と脊髄を連結し、大脳に近い部分から、中脳、橋、延髄の3つに区分されます。脳幹は小脳の前に位置し、小脳と連絡を取り合い、間脳(視床、視床下部)とも機能的な連携をします。脳幹には第3脳神経から第12脳神経の神経核が存在します。
中脳の構造
中脳は脳幹の最上部をなす長さ約2㎝の組織で、上方の大脳と下方の橋、後方の小脳に囲まれて位置します。
中脳の側腹面は大脳脚とそれに挟まれた脚間窩で構成され、上方には乳頭体と下垂体、視索が位置し、脚間窩からは動眼神経が出ます。腹側面には上丘と下丘があり、下丘の直下から滑車神経が出ます。
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中脳の上丘レベルでの水平断は以下の図の様な構造になります。
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大脳脚は、錐体路などの通路です。錐体路には、皮質延髄路、皮質脊髄路、皮質橋路などの投射線維があります。障害されると顔面麻痺を含む運動麻痺が起こります。錐体路は延髄の錐体交叉で交叉するため、対側の随意筋を支配するため、麻痺症状は障害とは反対側に出現します。
黒質は、随意運動における筋緊張の調節に働きます。障害されるとパーキンソン病を発症し、筋緊張亢進や振戦などの症が発生します。を引き起こします。赤核は、小脳と脊髄を中継し、運動の調整に関わります。
黒質・赤核・網様体および動眼神経核・滑車神経核からなる領域を中脳被蓋といいます。中脳被蓋の障害では、動眼神経麻痺を伴うことがあります。
上丘は、主に視覚刺救に対する頭や眼の位置変換(目で追うなど)など反射的運動の中枢として働きます。
内側毛帯は精細触覚の伝導路です。精細触覚とは、触られた部位や物体の性質がわかるような精密な触覚を指します。たとえば、ハサミを持つと目をつぶっていても「これはハサミだ」とわかるといった感覚です。神経交叉をするため、内側毛帯の障害は反対側の感覚障害を起こします。脊髄毛帯は温痛覚や粗大触覚の伝導路で、脊髄視床路に当たります。内側毛帯と同様に神経交叉をするため、反対側の感覚障害を起こします
内側縦束は、垂直注視や対光反射を行う視蓋前域や前庭神経核と動眼神経核(III)・滑車神経核(Ⅳ)・外転神経核(Ⅵ)との連絡路です。この部位の障害は眼球運動調節や前庭動眼反射の障害を引き起こします。また、動眼神経核と動眼神経があるので、障害によって動眼神経核の麻痺が出現します。
中脳の下丘レベルでの水平断は以下の図の様な構造になります。
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下丘は聴覚伝導路の中継核です。突然音がするとそちらを向く反射は、下丘が関与します。下丘レベルには滑車神経核と滑車神経があります。滑車神経核が障害されると、滑車神経麻痺を起こします。滑車神経は中脳の背側にまわって交叉したのちに中脳を出るため、滑車神経麻痺は対側の眼球に運動障害が発生します。
上小脳脚交叉は、小脳から赤核や視床に向かう線維が通ります。このうち上小脳脚を通る線維の一部は中脳で交叉しますが、この部を上小脳脚交叉とよび、下丘レベルに位置します。交叉するのは、姿勢保持などに関係する錐体外路系の伝導路です。
中脳を栄養する血管
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脳底動脈には3対の主要な血管以外に、穿通枝が分岐しており、橋動脈とよばれます。橋動脈は脳底動脈を3等分すると均等に分布しています。上1/3は外上方に走行し、橋・中脳に向かいます。中1/3は水平方向に、また下1/3 は外下方に走行し、橋延髄以降部に向かいます。
脳底動脈は、脳幹の前を上行し、もっとも上方(中脳の前)で、左右の後大脳動脈に分かれます。
後大脳動脈は、近位部(脳底動脈の近く)で、後交通動脈によって内頚動脈とつながります。その後、中脳を囲むように後方に走り、後頭葉内側や側頭葉下面を栄養します。また、近位部(脳底動脈の近く)では、視床や中脳に穿通枝という細い血管を出して栄養します。
上小脳動脈は、後大脳動脈のすぐ下(中脳と橋との境界部)で脳底動脈から分岐します。その後、動眼神経の下を橋上部を取り囲むように後方へ走り、中脳、小脳虫部上部、小脳半球上面に分布します
中脳の障害
中脳は動眼神経や滑車神経の核が存在します。また、上位運動ニューロンが下行したり、感覚系の2次ニューロンが上行したりするなど、神経線維の通り路です。中脳が障害されると、神経核や神経線維の障害が起こり、症状が出現します。
1.Weber症候群(中脳腹側症候群)
障害部位と同側の症状として、動眼神経麻痺が出現します。反対側の症状として、痙性片麻痺が出現します。顔面神経、舌下神経の麻痺は核上性になり、顔面を含む片麻痺が反対側に出現します。黒質まで障害が及ぶと、パーキンソン症状(rigidity、pill-rolling tremorなど)が出現します。
原因は、後大脳動脈、後脈絡叢動脈脚間枝の閉塞によるものです。
2.Benedikt症候群(赤核症候群)
Benedikt症候群は、赤核と、これを貫く動眼神経髄内部分のみが傷害されることで発生し、中脳底部は保存されています。そのため、障害部位と同側の症状として、動眼神経麻痺が出現します。さらに、赤核の障害によって、四肢の不随意運動が生じ、上下肢末端に強い舞踏様運動、アテトーゼ、振戦などが出現します。
また、大脳脚の一部まで障害が及ぶと半側不完全麻痺が生じ、交叉後の上小脳脚の部分まで及ぶと反対側の運動失調が加わり、内側毛帯まで及ぶと反対側の深部感覚の低下が加わります。この症状は、Benedikt症候群の典型的な症状ではありません。
原因は、脳底動脈、後大脳動脈脚間枝の閉塞などによるものです。
3.Parinaud症候群
症状として、上方注視麻痺と輻輳麻痺が出現します。上方注視麻痺は、上方注視に関与する上丘、視蓋前野の障害によって、輻輳とは、近くのものを見ると眼が内側によっていく現象、いわゆる「より目」の状態のことを指します。輻輳麻痺は、この運動がうまくいかない状態です。輻輳に関する視蓋前野の障害によって発生します。対光反射の経路が視蓋前野を通るため、対光反射(一)となることもあります。
原因として、松果体部腫瘍などによる四丘体圧迫によって生じます。上小脳動脈閉塞による橋上部外側、中脳下部両方の傷害によって起こることがあります。
眼球の共同運動
両方の眼球を同じ方向に同時に動かすことを共同運動と言いますが、水平性のものと垂直性のものとがあります。
側方注視運動は、PPRFとMLFが関与します。MLF(内側縦束:medial longitudinal fasciculus)は中脳から頸髄にわたって存在して、3つの眼球運動神経核(Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ)だけでなく、注視運動に関与する脳神経核(Ⅴ、Ⅶ、Ⅷ、Ⅺ、Ⅻ)の間で密接に連絡し、外転神経核と対側の動眼神経核を連絡します。
側方注視の皮質中枢は、前頭葉の前頭眼野(ブロードマン第8野)にあります。ここからの遠心路は錐体路とともに内包の膝部、大脳脚を下降して、脳幹の動眼神経核と外転神経核の間で交叉して、対側の側方注視中枢(PPRF)に到達します。PPRF(傍正中橋網様体:Paramedian pontine reticular formation)は、橋下部背側部にあります。ここは同側の外転神経核に連絡し、MLFを通って対側の動眼神経核にインパルスを送り、それぞれ外直筋、内直筋を刺激して収縮させ、水平共同注視運動(側方注視)をします。
垂直注視運動はriMLF(内側縦束吻側間質核、rostral interstitial nucleus of MLF)が関与します。MLFの吻側(口側)で中脳・間脳接合部に、riMLFという垂直方向の注視中枢があります。riMLFの皮質中枢は前頭眼野(第8野)に、反射運動は後頭葉にあるとされています。前頭眼野からの経路は錐体路とともに内包を通り中脳で交叉します。前頭眼野以外にも、前頭葉補足眼野、頭頂眼野という3つの眼球運動制御野があり、四丘体の上丘に線維を送っています。したがって上丘も注視運動に関与します。上方視に関して、上丘が障害を受けると、上方注視障害(パリノー徴候Parinaud sign)がみられます。
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