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脳梗塞 #5-3 ラクナ梗塞


1)ラクナ梗塞の定義

 大脳深部や脳幹等を灌流する穿通枝動脈の支配領域に限定する、脳梗塞層の大きさが15mm以下の小梗塞のことです。

右視床 ラクナ梗塞

2)原因

 脳の細動脈硬化やアテローム硬化によって、穿通枝動脈が閉塞することで生じます。
 細動脈硬化は、直径200μm以下の穿通枝動脈の末梢部に脂肪硝子変性(リピヒアリノーシス)を生じる病態で、梗塞巣の大きさは通常5mm以下の小さいものとなります。細動脈硬化の危険因子は加齢や高血圧があります。
 アテローム硬化は、直径400~900μmの穿通枝近位部に微小粥腫(マイクロアテローマ)をきたすことにより生じ、梗塞の大きさは通常5~15mmとなります。アテローム硬化の危険因子はアテローム血栓性脳梗塞と同様で、加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などがあります。

3)臨床的特徴

 被殻・橋・視床・尾状核・内包・放線冠などが好発部位で、症状が比較的軽く、予後がよいのが特徴です。症状は、構音障害、片麻痺、感覚障害などを呈しますが無症状の場合もあります。無症状のラクナ梗塞は無症候性ラクナ梗塞と呼ばれ、定期検査などで発見されます。ラクナ梗塞では皮質梗塞が発生することはないため、意識障害が出現することはほとんどありません。

4)治療

 アテローム血栓性梗塞の治療に準じますが、血圧をコントロールすることが重要となります。

①急性期治療

 穿通枝動脈における動脈硬化性変化の原因はマイクロアテローマで、マイクロアテローマによって細くなった脳動脈内で血小板が活性化され、血小板主体の血栓が生じることにより血管が閉塞します。このため、治療には、抗血小板薬(オザグレルナトリウム、アスビリン、クロビドグレル、シロスタゾールなど)が有効となります。

 発症24時間以内のラクナ梗塞に対する治療として脳保護療法(工ダラボン)が追加されます。注意点はアテローム血栓性脳梗塞に使用する場合と同じです。

 急性期治療として水分管理、血圧管理、血糖管理が重要である事は他の脳梗塞病型と同じです。

②再発予防

 ラクナ梗塞と脳出血は、どちらも発症までに高血圧症と強く関連し、穿通枝動脈が原因血管となります。そのため、ラクナ梗塞患者は脳出血発症リスクも高<なります。脳梗塞と脳出血の両方を予防するためには、厳密な血圧管理(降圧目標130/80mmHg未満)が必要になります。

 再発予防に抗血小板薬が用いられますが、脳出血発症リスクを考慮して選択されます。シロスタゾールは、アスピリンと比べて出血リスクの低い抗血小板薬とされています。
 出血リスクが高いかを評価するのは、MRIのT2*にて評価します。

MRI T2*

③安静

 急性期で安静は必要ではありません。急性期の脳梗塞で安静が必要なのは、脳循環血液量を維持するためです。例えばアテローム血栓性脳梗塞で皮質枝動脈が高度狭窄している場合、身体を挙上し起立性低血圧などが発生する事で、脳循環血液量が減少し、脳梗塞の拡大や神経症状の増悪が起きる可能性があります。一方で、ラクナ梗塞は穿通枝動脈のアテローム硬化などが原因で発生しますが、穿通枝動脈が末梢の動脈ですでにその穿通枝動脈の灌流域が脳梗塞になっています。そのため、万が一脳循環血液量が減少しても、その穿通枝動脈の灌流域の脳梗塞が拡大する事や神経症状が出現する事はありません。
 ですから、ラクナ梗塞の場合、安静は必要がありません。但し、皮質枝動脈の狭窄やめまいや立ちくらみなどの症状がある場合は注意が必要になります。

5)進行するラクナ梗塞

 入院治療開始後も運動麻痺が進行するラクナ梗塞をBAD(ビーエーディー:branch atheromatous disease)といいます。原因は、皮質動脈から穿通枝分岐部に形成された動脈硬化(アテローム)で、穿通枝を根元で閉塞する事で起こります。1本の穿通枝が閉塞して生じる点はラクナ梗塞と同じですが、穿通枝の病変(リポヒアノーシス)ではなく、穿通枝が脳皮質動脈から分岐する部分(穿通枝入口部)でアテローム性病変によって閉塞する点がラクナ梗塞と異なります。アテロームプラークが原因でアテローム血栓性脳梗塞と類似していますが、脳主幹動脈に50%以上の狭窄を有するアテローム血栓性脳梗塞と異なり、BAD型梗塞のアテローム性病変は脳主幹動脈に狭窄をきたすものではありません。
 臨床でBADと診断されることの多い部位は、放線冠、内包、橋になります。

BADの診断基準

①大脳の場合は、梗塞巣が水平断で3スライス以上に及ぶもの
②橋の場合は、梗塞巣が橋腹側に接しているもの
③主幹動脈の高度狭窄(50%以上)または閉塞、明らかな塞栓源を認めない

MRI DWI 1枚目
MRI DWI 2枚目
MRI DWI 3枚目

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