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脳梗塞 #5-11 機械的血栓回収術


機械的血栓回収術の適応

 rt-PA静注療法を行ったが効果がない症例、またrt-PA 静注療法の適応はない(発症時刻から4.5時間を超える)が、脳梗塞になると予想される部分から、救済できる部分〔ミスマッチ部分:MRIなどの画像にて診断〕があれば、血栓回収術が適応となります。適応を守らないと、重篤な出血性梗塞を起こします。基本的に、rt-PA静注療法が、治療の第1選択となり、rt-PA静脈療法後に続けて行うのが機械的血栓回収療法です。

DWIとASLのミスマッチ

 血栓回収術は、脳主幹動脈閉塞をともなう急性期脳梗塞に対して施行される力テーテル治療です。わが国では2010年に治療機器が承認され、急速に治療件数が増加しています。世界的にもこの10年ほどでエビデンスが確立し、適応時間は発症から8時間とされていますが、最大24時間まで適応になります。

血栓回収術前(左)と血栓回収術後(右)

機械的血栓回収術の流れ

①シース留置
 大腿動脈(鼠径部)を穿刺し、シースを留置します。

シース留置

②閉塞部位の確認
 バルーンのついたガイディングカテーテルを閉塞動脈の近位部に誘導し、閉塞動脈を造影します。

③マイクロシステム誘導
 マイクロガイドワイヤーを用いてマイクロカテーテルを閉塞部の遠位まで誘導します。

マイクロシステム誘導

④治療システム展開
 吸引カテーテル、ステントレトリーバー、吸引力テーテルとステントレトリーバーの組み合わせ(コンバインテクニック)などを用いて治療を行います。

⑤血栓回収
 吸引力テーテルは血栓の近位部まで誘導し、力テーテルの手元部分を吸引用のボンプやシリンジに接続し、吸引をかけながら血栓を回収します。ステントレトリーバーは血栓の遠位側まで誘導したマイク口カテーテルの中に、細長く収納されたステント型の血栓回収機器を挿入し、閉塞部位の遠位側から近位側で血栓を含む形で展開して、ステントレトリーバーごと血栓を絡め取り回収します。コンバインテクニックは、ガイディングカテーテルのバルーンをふくらませ、血栓の近位部に吸引力テーテルを誘導し、ステントレトリーバーで血栓を絡めさらに吸引をかけながらステントレトリーバーごと血栓を回収します。 

⑥再開通確認造影
 血栓を回収後、バルーン付きガイディングカテーテルより造影し、閉塞が解除され、すべての血管が再開通していること、合併症が起こっていないことを確認します。
 回収後には造影を行い、不十分な再開通などがある場合は複数回治療を試みることもあります有効再開通が得られた場合には、頚部血管、穿刺部の造影を行い、再開通の程度や血管穿孔や解離が起こっていないかなど、合併症の有無を確認します。止血処置を行って手術終了となります。

 血栓の回収ができない、部分再開通の場合、再度同じ手技を繰り返します。しかし、血栓が硬い、血管の蛇行が強いなどにより、再開通が得られないときもあります。6回以上の手技では、治療成績に差はないという報告があります。長時間の血管閉塞で脳梗塞が完成すると、治療を断念します。

 機械的血栓回収術の評価は、TICIグレードで表します。2bと3は、有効な血管再開通です。治療による有効再開率(2b+3)は、約90%ぐらいです。原因は、血栓の性状、閉塞した血管の走行、全身血管の状態、2次血栓の形成、手技の問題などがあります考えられます。

modified TICI (mTICl)グレード
0: 再灌流なし
1 :閉塞血管部位より遠位に順行性の血流を認めるが、末梢灌流がほとんどないかゆっくり灌流
2a :閉塞血管支配領域の半分以下の順行性再灌流
2b :閉塞血管支配領域の半分以上の順行性再灌流
3 :末梢までの完全な順行性灌流

治療開始前のポイント(治療までの時間短縮)

治療方針決定

 rt-PA静注療法併用による機械的血栓回収術か、機械的血栓回収術単独かを決定します。発症から4.5時間以上経過した症例、NIHSSが高い症例は、rt-PAが適応にならず、最初から機械的血栓回収術を行うことがあります。
rt-PA投与終了まで待機せず、同時並行で血栓回収療法の準備を進めます。rt-PA投与中でもDSA室に搬入して、血栓回収術を開始します。

治療中のポイント(脳血管撮影室にて)

術中の血圧管理

 術中操作による血管穿孔から頭蓋内出血が起こると、降圧療法が必要になります。局所麻酔下のため、頭蓋内出血が起こると、激しい体動、嘔吐、血圧上昇などの徴候が現れるため、鎮静薬、吸引、降圧薬、ヘパリンの桔抗薬などが必要となります。

アレルギー(造影剤、局所麻酔薬)

 局所麻酔薬や造影剤にて即時型アレルギー反応が発生することがあります。治療中はドレープで身体全体が覆われているので、体表の観察は困難です。バイタルサイン(脈拍や血圧)の変動や自覚症状などに注意します。抗ヒスタミン薬やステロイドの静脈注射などを行い、重症な場合はアドレナリンの筋肉内注射を行います。 

嘔吐、誤嚥

 血栓回収術の適応となる主幹脳動脈閉塞では、しばしば悪心・嘔吐をともないます。さらに、治療中には、造影剤などの薬剤や治療の機械的刺激で悪心・嘔吐が誘発されます。血栓回収術施行時は患者を仰臥位で頭部を正中で固定して行うため、嘔吐があると、誤嚥や酸素飽和度低下をきたします。頻脈や酸素飽和度の低下などのバイタルサインの変化にも注意します。

血管解離、血管穿孔

 大口径の吸引カテーテルを誘導する際に血管解離を引き起こすことがあります。解離部分が自然に修復されることもありますが、解離が進行して狭窄、閉塞してしまう場合にはバルーンで血管形成を追加したり、ステント留置を行ったりすることがあります。血管解離に気付かずにワイヤー、カテーテルを進めた場合やステントレトリーバーで過度に血管に負荷がかかった場合には血管穿孔につながる場合もあります。

血管解離
血管穿孔

術後管理のポイント

神経学的所見
 血栓回収術後には、出血性病変や再塞栓などにより神経所見が増悪することがあります。術中全身ヘパリン化をしているため、止血能は低下しており、出血傾向が強くなり、出血性病変には注意が必要です。また、再灌流性障害や出血性合併症の初期症状として、頭痛が出現することもあるため、頭痛にも注意が必要です。神経学的所見が増悪する、新規の症状が出現する、頭痛増強時は画像検査が必要となる可能性が高いため、Drコールをします。

血圧管理が重要

 経静脈的血栓溶解療法、血栓回収術を含めた超急性期脳梗塞治療は、劇的な血行動態の変化をもたらしますが、血圧高値が続く場合には、再灌流性障害や微細な出血が増悪する危険性が高くなります。そのため、有効再開通が得られた血栓回収術後は降圧療法を行うことが多いです。

穿刺部や同側足背動脈のチェック

 血栓回収術などの脳血管内治療においては、動脈穿刺によるシース留置が必須です。穿刺部トラブルは脳血管内治療で頻度の高い合併症です。穿刺部の腫脹、痛み、出血がないかを定期的に確認します。腫脹があり、痛みを訴える場合には、出血している可能性が高いため、すぐにDrコールをします。Drが来るまでは、圧迫止血を行います。
 また、穿刺時の血管解離によって急性閉塞が起きることがあります。足背動脈が触知できないときは、急性閉塞を疑います。術前に足背動脈の触知を行って、術後は足背動脈の触知の程度を確認します。

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