脳梗塞 #5-10 rt-PA静注血栓溶解療法
脳はつねに活動しているため、大量のブドウ糖と酸素を消費します。しかし、脳はグリコーゲンや脂肪などのエネルギーや酸素を備蓄する機能を持っていません。そのため、血管内の血液からグリア細胞を介して神経細胞に大量のエネルギー源であるブドウ糖と酸素を供給しています。もし脳血管がつまって、エネルギー供給がなくなると短時間で脳の活動が停止し、その後急速に細胞が破綻して壊死を起こし、脳梗塞に至ります。脳の細胞はほかの臓器と違って、自分で再生し修復する力は乏しく、脳梗塞になった部位に応じて、片麻痺や失語、失認などの後遺症を残します。
凝固系・線溶系
出血したときは、血中の血小板が傷ついた血管壁に張り付いて応急止血をします。次に多くの凝固因子が働き、最終的に活性化されたトロンビンが血液内にあるフィブリノーゲンをフィブリンに変えてフィブリン血栓を作り止血をします。この機能を凝固系と言います。しかし、とめどもなく凝固が行われ、大きな血栓ができてしまうと血流そのものを留めてしまうため、凝固系をとどめる機能もあります。凝固の結果、フィブリンが形成されると、このフィブリンを処理しようとする生理的な反応が起こります。フィブリンのことを線維素というので、フィブリンを溶解することを線維素溶解、線溶系といいます。プラスミンがフィブリンを分解するのが線溶系の中心です。プラスミンはプラスミノーゲンからできる蛋白分解酵素で、プラスミノーゲンはプラスミノーゲンアクチベーターによって活性化されてプラスミンになります。プラスミンがフィブリン血栓をバラバラにします。
アルテプラーゼ(rt-PA)血栓溶解療法
アルテプラーゼ(rt-PA)の作用機序
プラスミンは心原性脳塞栓症のみならず、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞など、すべての脳梗塞にに対して血栓を急速に溶かし、薬剤として遺伝子組み換え組織プラスミノーゲン・アクチべーター(rt-PA)、アルテプラーゼを投与します。血栓の表面だけではなく中までrt-PAは潜り込んで、血栓を溶解しバラバラにして、閉塞血管を再開通させ、梗塞中心部の周辺にあるペナンブラ領域に血流を送ります。
ペナンブラとは、虚血に状態に陥っているが、まだ壊死をしていない脳組織のことです。動脈が閉塞すると、その動脈が灌流する領域の中心部の脳細胞はすでに壊死しています。しかしその周辺は側副血行路によって血流が乏しくても生き残っています。もし血流が再開すれば助かり、再開しなければ壊死してしまいます。
Door-to-Needle 搬送からrt-PA静注療法まで
この治療は、動脈を閉塞させた原因となる血栓を溶かすことで、動脈を再開通させ、ペナンブラ領域の脳細胞が死んでしまうことを防ぐ治療です。しかし、この治療は同時に血が止まらなくなるので、脳梗塞部位や全身で大出血を起こして、生命を奪うこともあるリスクのある治療です。また、rt-PAは時間が大切になります。血流が途絶えた後、時間の経過とともにペナンブラの領域は縮小してしまうため、血流低下部位と脳梗塞部位が一致してしまうと適応がありません。さらに、ペナンブラ領域が脳梗塞になった後に、血流が再開しても、出血を起こしてしまうため、時間が経ちすぎてしまうと投与ができません、血栓溶解療法が適応になる時間は、発症4.5時間以内になります。
発症時刻とは
発症時間というのは、発見者が病状に気付いた発見時間ではなく、患者が神経症状をはじめて示した時間であり、発症時間が不明の場合、症状がない時刻をもって発症時刻とします。睡眠時発症および発症時間不明の脳梗塞に対して、MRIを行います。FLAIR法で高信号域を認めないがDWI拡散強調画像ではすでに高信号域の部分は、脳血管が閉塞し続けた場合梗塞になります。しかし、血管閉塞を解除つまり再灌流すれば救援できるペナンブラとされます。すべての臨床力テゴリーの脳梗塞が適応であり、発症4.5時間以内に治療すること、また発症4.5時間以内であっても治療開始が早いほど良好な転帰が期待でき、来院後60分以内に治療を開始することが望まれます。
救急隊からのホットライン~rt-PA静注療法まで
救急隊からのホットライン~患者到着まで
救急隊から発症早期の脳卒中超急性期受け入れ連絡を受けた場合、症状や発症時間からrt-PA静注療法や血管内治療の適応を推測します。関係部署と情報共有します。
患者到着後~rt-PA 静注療法開始まで
患者到着後、心電図モニター・Sp02装着し、患者確認、意識レベル、血圧・脈拍・呼吸・体温のバイタルチェックに加えて、病歴と神経症状(眼球位置と瞳孔サイズ、顔面、上肢、言語、発症時間)を確認します。あわせて、家族または救急隊に発症状況、いつ(とくに発症時間または最終健全確認時間)の問診、状況(どこで何をしているときの発症か)、どのような症状で改善、不変・悪化しているかどうか、また抗血栓薬の内服を含めたお薬手帳や既往歴、とくに高血圧や心臓病、不整脈、糖尿病の有無、手術や出血を含めた既往歴、治療にあたり体重を確認します。
すぐにMRI検査を実施します。検査中、医師が画像(DWI)をチェックし、rt-PA適応の判断をします。医師にアルテプラーゼ静注療法チェックリストとNIHSS評価シートを記入してもらい、治療適応にとなったら、本人(家族)へ体重、既往(特に腎疾患)、アレルギーの有無を確認します。インフォームドコンセントで可能な限り本人および家人に同意をとります。慎重投与条件をまったく有さない絶対適応症例で、すぐさま同意を得ることが困難な場合は、本チェックリストを照らし合わせながら医師1名以上および看護スタッフまたは薬剤師1名以上、合計2名以上のブリーフィングのうえ、あらかじめ各施設の倫理委員会の承認を得ていれば投与できます。
救急外来帰室前に胸部レントゲンを撮影します。
帰室後は、上肢に、静脈ルートを2本確保し、同時に検体採血と末梢血、クレアチニン、血糖、PTーINRを測定します。12誘導心電図をとり、rt-PA開始前に膀胱留置カテーテルを留置します。
rt-PAとしてアルテプラーゼ0.6mg/kgを静脈投与するので体重値が重要になります。チェックリストの禁忌項目が1つでもあればrt-PA投与は行いませんが、慎重投与の項目は基本的には複数該当しても投与します。禁忌にならないが、慎重投与が3項目以上の場合は、血管内治療が有利な症例や内頚動脈や中大脳動脈水平部閉塞、脳底動脈閉塞で神経学的に中等度から重症の場合(NIHSSスコア8~10以上)、rt-PAをスキップして血管内治療を迅速に行うことが考慮されています。
適応となれば、シリンジポンプの準備、アルテプラーゼ(グルトパ)の溶解を添付文書どおり行います。添付の溶解液注入針を使用し、添付溶解液で溶解します。溶解時、瞬時白く泡立つがすぐに無色澄明になる。泡立ちが著明となるため優しくバイアルを振ります。10%早送り(手押しで30秒以上かけて)、残り90%を1時間で持続投与します。投与前に血圧が185/110mmHg以上続く場合はニ力ルジピンなどの降圧薬を持続静注し180/105mmHg以下となるようにします。
ラジカットの投与を医師へ確認します。
rt-PA静注療法後24時間の看護
神経症状の観察
rt-PA静注療法後の合併症、出血性変化を早期に発見するために、NIHSSは、rt-PA投与中15分ごと、投与後1~7時間まで30分ごと、投与後7~24時間まで60分ごとの評価します。NIHSSスコア2ないし4以上増加の場合症状進行と判断し、脳梗塞再発や進展、もしくは出血性変化が予想されます。意識レベル低下やけいれん、瞳孔左右差出現、血圧急上昇、頭痛や嘔吐などの変化の場合も緊急頭部CTを行います。
血圧モニタリング
rt-PA静注療法後の過度の血圧上昇は出血性変化につながります。血圧高値に対して早期に降圧療法を開始、安定的に調整することが必要なため、経静脈的降圧薬のスライディングスケール治療が安全です。rt-PA投与2時間後まで15分ごと、投与2~8時間まで30分ごと、投与8時間以降は60分ごとの測定となります。降圧薬は、ニ力ルジピン、塩酸ジルチアゼム、ニトログリセリンのいずれかをシリンジポンプで適宜ボーラス投与後、静脈内持続投与して目標血圧180/l05mmHg未満、もし出血性変化があれば140/90mmHg未満まで下げます。
出血傾向
ヘパリン、DOAC、アルガトロバン、オザグレル、そのほかのアスピリンなどの抗血小板薬の投与は、rt-PA投与中・投与終了後24時間以内は原則禁忌です。エダラボン(ラジカット)はrt-PA投与中も併用可能であり、できるだけ早く開始し30分で滴下します。
脳卒中重症例の急性期において、消化管潰瘍予防のためH2受容体拾抗薬やプロトンポンプ阻害薬を投与します。そのほか、動脈穿刺、尿道力テーテル、経鼻胃管の挿入はなるべく遅らせます。