脳神経外科のドレーン管理 13‐3
脳室ドレナージの管理と看護のポイント
脳室ドレナージとは
ドレーン先端部が側脳室の前角に留置されているドレナージのことです。
1、対象疾患と挿入方法
対象となる疾患はくも膜下出血、脳出血(脳室穿破)、脳室炎、急性水頭症などです。手術によって挿入しますが、開頭しなくても挿入することができます。
2、脳室ドレナージの回路
開放式ドレナージ回路を使用します。
刺入部の管理
脳室ドレーン挿入中は、刺入部を観察し、感染徴候(発赤や腫張など)やドレ-ンの挿入の長さを確認します。刺入部から出血や髄液漏が発生することがありますので、固定用フィルムや寝衣が濡れていないかも確認します。
ルートの管理
脳室ドレナージを開放している場合は設定圧の確認と髄液の拍動の有無を観察します。設定圧が変わっている場合は、患者が体動によって頭位が変わってしまった可能性があるので、設定圧を修正します。髄液の拍動がない場合は、まずはルートのすべてのクランプが開放されているかを確認します。 クランプが閉鎖されている場合は、開放します。すべてのクランプが開放されているのにも関わらず、髄液の拍動がない場合は、①閉塞した、②ドレナージチューブが屈曲、捻転している、可能性があります。閉塞している場合は、安易にミルキングをしてはいけません。ミルキングによって脳組織を損傷させてしまったり、ドレナージチューブ内に血腫を引き込んでしまうことがあります。Drコールをして、医師にフラッシュをしてもらいます。ドレナージチューブの屈曲、捻転の場合は、フィルムや固定テープをはがして、屈曲、捻転を直します。
バッグ内の排液量を確認・記録し、バッグのエアフィルターが濡れて目詰まりしていないかにも注意します。排液バッグはいっぱいにならないようにします。回路全体を観察していくときに、ルートが床に触れていないか、破損がないか、下敷きになったりベッド柵などに挟まったりしていないかにも注意します。
体位変換や移動のときはかならず脳室ドレナージのクランプが閉鎖されていることを確認します。
安静指示への対応
脳室ドレナージ中は、設定圧が変化しないように安静にします。患者の病態・状態に応じてギャッチアップできる場合とできない場合があるため、医師への確認が必要です。
体位交換時は、ドレナージのクランプが閉鎖されていること以外に、ルートが引っ張られていないか、体の下敷きになったりベッド柵に引っかかったりしていないかなど、ドレーンの事故抜去に十分注意しながら体位を整えます。
移送時にはルートを短くまとめて一つの袋に入れ、バラバラにならないようにします。このとき、エアフィルターが汚染されないようにフィルター部分のクランプは必ず閉鎖します。移送中もドレーンが引っ張られていたり、ベッドから落ちたりしないように注意します。移送後は、体位を整えたあとに0点設定を行い、クランプを開放忘れがないようにします。
排液の特徴と危険なサイン
1、排液の特徴
正常であれば、髄液の色調は無色透明です。クモ膜下出血や脳出血による脳室穿破を起こした場合の、脳室ドレナージから流出する髄液は血性で、その色調は時間経過と共に血性から淡血性➜キサントクロミ一➜無色透明と変化します。また、髄膜炎や脳炎など感染の疑いがあると髄液の混濁、白濁があります。
2、危険なサイン
1)色調の変化
突然血性髄液が排出されたときには、動脈瘤の破裂、脳出血など頭蓋内で新たな出血が生じたことが想定されます。それぞれの疾患に特徴的な症状や神経学的所見を観察します。脳室内に貯留していた血腫が体位変換などによってドレナージされ、血性度が増すこともあります。
2)排液量の変化
正常なくも膜下腔の容積は150mlで、1日の髄液生産量は500mlになります。1時間の髄液生産量は500ml÷24時間=20mlになりますので、1時間に20mL以上排液すると、オーバードレナージになる可能性があります。排液量が多い場合は、ドレナージの設定圧を確認します。ドレナージ回路は、頭蓋内圧が設定圧を超えたときに髄液が排出される仕組みになっています。設定圧より低い圧で管理されていた場合、オーバードレナージになる危険性があります。設定圧を再確認したあとに、低髄圧症状が出現するなどの患者の状態変化を確認し、必要に応じて医師へ報告します。
ドリップチャンバー上部のエアフィルターが髄液や血液で汚染され、フィルターの目詰まりを起こすことで、設定圧が低くなり、オーバードレナージの危険性が生じます。
排液量が少ない場合は、ドレナージが適切に行えていない可能性があり、ルートの閉塞や髄液漏れがないかを注意して観察します。これらの変化を早期に発見するために、前日までの排液量や指示の目標排液量などを把握し、個々の患者の状態をアセスメントすることが大切です。
3)拍動の消失
髄液漏れが原因と考えられるときは、回路全体を観察するとともに、クランプの開け忘れがないかを確認します。ドレナージ回路に問題がなければ、医師とともに刺入部を観察し、刺入部からの髄液漏れがあれば再縫合などの処置を行います。
患者の体動や不穏行動、また不十分な固定によっても拍動が消失します。この場合、ドレーン刺入部や回路全体をまず確認します。ねじれや屈曲があれば固定方法を変更し、圧迫を解除します。
また、ドレーン内の浮遊物により回路が閉塞することや、ドレーンの破損によりエアが混入することで、ドレナージ不良が生じることも考えられます。 この場合は、感染予防のために、ただちに破損部位より患者側のクランプを閉鎖し、医師へ報告してドレナージ回路全体を交換します。
4)感染
ドレナージチューブの長期留置や、回路内に流出した髄液の逆流で感染をきたし、髄膜炎や脳炎が生じる危険性を高めます。発熱や髄液の混濁、項部硬直など感染が疑われる症状がある場合は、医師へ報告し、回路全体を交換する、髄液培養の提出などを行います。
5)ドレーンの事故抜去
脳室ドレナージが必要な患者は、意識レベルが低下している場合があり、事故抜去に注意します。患者の目線より頭側にドレーンを設置したり、ドレーンを設置している支柱台を患者から遠ざけたりするなど、患者の目の届かないところにドレーンを配置します。必要に応じて、抑制や鎮静を行います。
固定が不十分であったり、移動時にドレーンが引っ掛かったり引っ張られてしまうことも事故抜去につながります。固定の際にかならずループを作るなどの工夫が必要です。移動や体位変換の際には、ルート位置の確認やほかの管類と絡まっていないかなどの確認も必要です。
脳槽ドレナージの管理と看護のポイント
脳槽ドレナージとは
脳槽ドレナージは、くも膜下出血などによってくも膜下腔に血液が貯留した際に、その血液(血性髄液)を排除するために行われます。くも膜下腔の血腫が脳血管れん縮を引き起こすといわれています。くも膜下腔に貯留した血腫を排出することで、脳血管れん縮を予防するため、脳槽ドレナージが行われます。
1、脳槽ドレーンの留置部
脳槽とは、くも膜下腔にある髄液が貯留している空間です。脳底槽は、シルビウス裂の一番深部にある脳槽で、ここには内頚動脈や視神経といった重要構造物があります。脳底槽は脳槽のなかでもかなり大きく、大量の髄液が貯留している場所です。
脳槽ドレナージの多くは、くも膜下出血の手術の際に留置されます。破裂した脳動脈瘤をクリッピングした後、ドレナージチューブの先端が脳底槽にくるようにシルビウス裂を通して留置します。留置後は脳室ドレナージと同様にドレナージチューブを頭蓋外へ誘導し、開放式ドレナージ回路に接続します。
2、脳槽ドレーンの留置期間
くも膜下出血による脳血管れん縮は、発症から約14日の間に発生します。そのため、脳槽ドレナージも約2週間程度、頭蓋内に留置されます。血腫の量や排液の性状によって脳槽ドレーンの抜去時期は決定されます。脳槽ドレーンが留置されている期間は頭蓋内外が交通しているので、つねに感染の危険が伴うことに留意します。
刺入部とルートの管理
管理方法は脳室ドレナージと同じです。
スパイナルドレナージの管理と看護のポイント
スパイナルドレナージとは
1、対象疾患
くも膜下出血、術後髄液漏の予防および治療が対象になります。
2、スパイナルドレナージの回路
スパイナルドレナージの回路は、開放式ドレナージを使用します。ドレーンチューブは、第3・4腰椎間、または第4・5腰椎間でくも膜下腔に10cmほど挿入され留置します。液面は呼吸性の拍動であり、拍動が弱いまたはないのが特徴です。
刺入部の管理
スパイナルドレナージからの髄液漏れと抜去予防のため、刺入部縫合しチューブを固定します。
ルートの管理
スパイナルドレナージのチューブは細く、ドレ一ンが引っ張られたり圧力がかかるとちぎれやすいという特徴があります。腰部から背中を通り、肩からドレーンを出すような形で固定しますが、マットと身体でこすれてしまいます。抜けないようにテープでしっかりと固定します。
抜去後の注意点
スパイナルドレナージ抜去後は30分~1時間の安静が必要になります。頭位を高くすると、重力によって脳脊髄液が頭部から腰部へと下がり、スパイナルドレナージ刺入痕から脳脊髄液が漏れ、低髄液圧が発生することがあるためです。