脳梗塞 #5-8 CEA(頚動脈内膜剥離術)
総頚動脈は頚部で外頚動脈と内頚動脈に分かれ、外頚動脈はおもに顔面の組織に血液を送り、内頚動脈は脳に血液を送ります。動脈硬化とは、動脈の壁の内部にコレステロールなどが沈着していくもので、全身のあらゆる血管に起こり、時に血管を詰まらせてしまい、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる疾患です。この動脈硬化による血管の狭窄は、頚部の内頚動脈に多く発生します。頚部の内頚動脈に発生した狭窄性病変は「頚部内頚動脈狭窄」と呼ばれ、脳梗塞の原因になります。
脳梗塞発症の予防法の1つが頚動脈内膜剥離術です。動脈の壁に沈着したコレステロールなどを、動脈を切開して内膜もろとも取り除く手術で、全身麻酔下で行われます。
総頚動脈周辺の解剖
総頚動脈は,右は腕頭動脈,左は大動脈から分枝する径約8mmの血管で、頚椎2~4レベルで内頚動脈と外頚動脈に分岐します。総頚動脈は内頚静脈や迷走神経と頚筋膜の頚動脈鞘に包まれます。総頚動脈の下部は胸鎖乳突筋によって覆われます。
総頚動脈分岐部の周辺には、舌下神経と舌咽神経が走行します。舌咽神経は頚動脈洞反射の刺激伝達経路として働きます。
そして、総頚動脈周辺は、内頚静脈、気道、食道、神経が走行します。
内頚動脈基部の膨らみを頚動脈洞といい,血圧変動を感受する圧受容器にとして働きます。血圧が上昇して洞の壁が伸展されると、頚動脈洞反射として血管拡張と心拍低下が起こります。
総頚動脈の分岐部には径1~2mmの頚動脈小体があります。血液の化学組成変化(酸素分圧低下、二酸化炭素分圧上昇、pHの低下)を感受する化学的受容器で、情報が呼吸中枢に送られ呼吸数の反射的増加を起こします。
手術概要
頚部の内頚動脈狭窄症に対する手術です。手術の目的は、頚部頚動脈狭窄症に対して、脳梗塞、一過性脳虚血発作や一過性黒内障の予防です。プラークによる狭窄が高度になると、脳血流そのものが低下して脳梗塞(脳血行力学的脳梗塞)になることもあり、手術適応になることもあります。手術手技は、全身麻酔下に頚動脈を露出した後、血流をー時的に遮断して頚動脈を切開しプラークを摘出します。プラーク摘出後は頚動脈の切開部を縫合して手術終了となります。
手術は、脳梗塞発症後の急性期ではなく、慢性期に行われることが多い治療です。
術中合併症
手術操作による脆弱プラークの破砕や壁在血栓の遊離による動脈原性脳塞栓症、頚動脈の一時的遮断による血行力学的脳虚血などが挙げられます。
手術の流れ
手術体位
頚部を対側(手術しない側)に回旋して、胸鎖乳突筋の走行に沿って皮膚を切開します。頚動脈の分岐部や狭窄部位の位置によって、皮膚切開線の位置を頭側や足側に調節します。
皮膚切開
総頚動脈・外頚動脈・内頚動脈をそれぞれ露出します。プラークは主に内頚動脈に存在しているため、術野内で可能な限り長く内頚動脈を露出します。内頚動脈露出の際、舌下神経を損傷しないように注意が必要です。舌下神経を損傷すると術後に舌が曲がったり、咀嚼時や嚥下時に障害をともなったりすることがあります。
血栓性合併症を予防するためにヘバリンを全身投与してから、外頚動脈→総頚動脈→内頚動脈の順に血流を遮断します。遮断中の脳血流を温存するために内シャントチューブを挿入する場合もあります。
プラーク摘出
頚動脈遮断後、血管を切開してプラークを摘出します。プラーク断端(特に頭側)がめくれ上がると血栓を形成して脳梗塞を合併する危険性があるため、滑らかにアテロームを切除します。
頚動脈縫合
血管内腔にプラークの残存がないことを確認し、血管を縫合し、頚動脈遮断解除とシャントチューブを抜去します。
十分な止血を確認した後、皮下・真皮を吸収糸で縫合し閉創します。創部を目立たないようにさせるため、表皮はステリーテープなどの被覆材で閉鎖します。
術後の注意点
術後出血
抗血小板薬を内服して手術を行うことが多く、また術中に全身ヘパリン投与も行うため、止血は非常に重要です。術中に十分な止血を行った場合でも、術後の血圧変動などで再出血を生じることがあります。頚動脈周辺は、頚静脈、気道、食道、神経が走行します。出血することにより、これらの器官、神経を圧迫し、様々な症状を引き起こします。特に気道が圧迫されると窒息を起こすため、注意が必要です。
頚部の創部出血の有無に注意し、ガーゼやドレーンからの出血がないか、創部が血腫で腫れていないかを観察します。創部出血を避けるために過度な頚部の回旋を行わないようにします。回旋予防のため、術後数日は頚部カラーを装着し、頚部の可動域制限を行います。
過灌流症候群
プラーク摘出により内頚動脈の狭窄が解除されるため、術後に脳血流が増加します。脳血流が増加しすぎると過灌流症候群を合併します。症状としては頭痛や不穏、けいれん発作があり、最悪出血を起こし、生命の危機的状況に陥る事があります。過灌流症候群の予防には厳重な血圧管理と適度な鎮静が有効とされています。
嗄声・嚥下障害
手術操作や術後腫脹の影響で、迷走神経(上喉頭神経を含む)、舌下神経、顔面神経下顎枝などの下位脳神経の障害を生じる場合があり、嗄声、舌偏位、口角下垂などの出現し、嚥下障害を合併することがあります。術後に患者が唾液や喀痰、食事でむせていないか、観察します。