脳梗塞 #5-5 一過性脳虚血発作(TIA)
1)定義および診断基準
局所のまたは網膜の虚血に起因する神経機能障害の一過性の症状があり、急性梗塞の所見がないもの。神経機能障害のエピソードは、長くても24時間以内に消失すること。
典型的な症状は片麻痺、感覚障害、言語障害などで、一過性(多くは数分から数10分以内に消失)に出現します。―過性に生じる単眼の視力消失は、一過性黒内障と呼ばれます。内頚動脈から分岐する眼動脈への血流が途絶することがげんいんであり、一過性に視界が真っ暗になる発作です。
TIAが臨床的に重大な意義をもつのは、以下の2つの理由からです。
①脳梗塞に移行しやすい。また、脳梗塞を発症する前駆症状として重要であり、警告サインになります。TIAと診断された人の約20%が6か月以内に脳梗塞を起こすといわれています。
②TIAの段階で治療を開始すれば、ある程度将来発生する可能性のある脳梗塞を予防することができます。
2)発症機序
TIAの発症には、アテローム硬化および血栓が大きく関与しています。
①微小栓子による塞栓
頭蓋外の動脈、特に内頚動脈起始部のアテローム硬化部分に付着した壁在血栓の遊離や、アテロームそのものが破れることで、その内容物が血流にのって末梢に流れ、脳内の小動脈に塞栓を起こす場合です。TIAの大部分の原因はこの微小栓子です。
ポイントは、TIAの発病をみた際には、その背景に内頚動脈起始部のアテローム硬化があるという点です。これを放置すると、病変はさらに進行して脳に近い動脈まで広がり、やがてアテローム血栓性梗塞を引き起こすことになります。
②脳血管不全
脳動脈に狭窄または閉塞があり、正常状態では狭窄部分あるいは側副血行を通じてかろうじて血流が保たれている場合、起立性低血圧や脱水などによる脳灌流圧の急激な下降、高度の不整脈、低酸素血症などが起こると、局所の乏血をきたして中枢神経症状が現れることがあります。血行力学性のTIAが発生します。この場合、血圧などの回復により症状は消失し、乏血が改善します。
3)脳卒中発症リスク
TIAから脳梗塞へ移行する頻度は20~30%とされ、脳梗塞に準じた治療が行われます。『ABCD2スコア』は、脳卒中リスクをスコア化したものです。年齢、血圧、臨床症状、持続時間、糖尿病の有無などで点数化を行い、合計点数6~7点では1年以内の脳卒中発症リスクが高いとされます。
4)症状
TIAの症状については、内頚動脈系TIAと椎骨脳底動脈系TIAで病像が異なりれます。内頚動脈系とは前方循環のことで、前大脳動脈と中大脳動脈の灌流域の症状を呈します。椎骨脳底動脈系とは、椎骨動脈と脳底動脈が灌流する脳幹や小脳の症状を呈します。