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1.脳梗塞の定義

 何らかの原因で脳に分布する血管がつまってしまい、血液が流れなくなることによって 酸素不足・栄養不足におちいった脳の細胞(神経細胞)が死んでしまう病気

2.脳梗塞の発生機序

 臨床でみる脳梗塞の主な成因は、血栓性塞栓性の2つになります。

 血栓性とは、動脈硬化により損傷を受けた動脈壁に脂肪や血小板が付着して、アテローム硬化として徐々に血管内腔を狭窄し、最終的に閉塞に至るタイプです。
 塞栓性とは、閉塞した動脈部位より心臓に近いどこかで血栓など塞栓物が生成され、血流にのって末梢の動脈を閉塞させるタイプです。

他に下記の成因があります。

・血行力学性
・動脈炎(結核、梅毒、側頭動脈炎、結節性多発動脈炎、SLE、大動脈炎症候群など)
・血液疾患(血栓性血小板減少性紫斑病、DIC、真性多血症)
・経口避妊薬内服(血栓を生じやすくさせる:エストロゲン、プロケステロン合剤など)
・解離性大動脈瘤
・低血圧
・脳動脈撮影の合併症
・線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia :FMD)
・トルソー症候群


①血栓性

 血栓性の原因となるのは動脈のアテローム硬化です。アテロームとは、動脈内膜の肥厚と脂質の蓄積などから生じる、動脈内の限局性の隆起性病変のことです。

 下記の図は、総頚動脈から外頚動脈と内頚動脈が分岐し、内頚動脈の起始部付近にアテローム硬化が生じた状態を表しています。

内頚動脈 アテローム硬化

 アテローム硬化が発生してから、どのように脳梗塞が発症するのか説明します。頚動脈のアテローム硬化から脳梗塞になるまでの過程は、血栓性と塞栓性に分けられます。

 アテローム硬化が伸展し動脈の内腔が狭窄や閉塞する場合や、血小板が粘着することで作られた“壁在血栓”によって動脈を閉塞させて脳梗塞を発症します。

アテローム硬化の進展
壁在血栓

 アテローム硬化は比較的ゆっくりと拡大、進展をしながら動脈の狭窄や閉塞を引き起こします。徐々に狭窄が起こるため、動脈は将来的な閉塞に備えて側副血行路を発達させるなどの準備ができます。側副血行路が発達していると、アテローム硬化による動脈の完全閉塞が発生して本来の脳血流が途絶えても、側副血行路からの血流によって酸素と栄養の供給を維持することで、脳梗塞の発症や症状の出現を防ぎます。

 脳血栓は、どの太さの動脈が閉塞するのかによって、2つに分かれます。
 動脈硬化の初期段階は内頚動脈起始部付近など心臓に近い太い動脈にアテローム硬化が生じます。時間の経過で、さらに末梢の動脈までアテローム硬化が進みます。血栓が皮質枝動脈(内頚動脈や前・中・後大脳動脈など比較的太い動脈)に起こるのか、それとも穿通枝動脈(脳実質のなかに入り、吻合血管をもたない動脈)に起こるのかによって大きく2つに分けます。前者をアテローム血栓性脳梗塞といい、後者をラクナ梗塞といいます。


②塞栓性

 塞栓とは、閉塞血管部位とは違う場所で生じた栓子が、その部位で突然血流を阻止する場合をいいます。脳動脈の塞栓を起こす原因として多いのは、心臓内で生じた血栓です。弁膜症や心房細動の左房壁、心筋梗塞の左室壁に発生する血栓などが血流にのって脳の動脈にまでたどり着き、動脈を塞ぐことで脳梗塞を発症します。不整脈などによって心臓内に血栓が生じ、その血栓が血流にのって脳動脈までたどりついて脳動脈を塞ぐことで生じる脳梗塞を、心原性脳塞栓症といいます。塞栓物によって詰まった動脈にとっては、全く予期していない状況で、突然に発症することになります。突然発症のため、側副血行路が形成されていないので、閉塞動脈の灌流域に合致した脳梗塞巣が出現します。

 アテローム硬化によっても塞栓性は発生します。アテローム硬化の一部やアテローム硬化に付着した血栓が剥がれて栓子となり、塞栓として末梢の動脈を詰まらせることによって発生します。“A to A(エートゥーエー)”と呼ばれ、末梢に飛んでいった栓子がより下流の動脈で詰まり、血流を遮断させ、神経症状の出現や脳梗塞を発症します。

頸動脈 血栓栓子
頸動脈 アテローム栓子

 血栓による塞栓によって動脈の血流が途絶えることで、一過性に症状が出現し、時間をおいてその症状が消失する事があり、このような状態をTIA(てぃーあいえー:一過性脳虚血発作)といいます。動脈の血流を途絶えさせていた血栓が溶解し、血流が再開することで症状が改善します。TIAの発症は、アテローム硬化による塞栓が発生しやすい状態を示しており、脳梗塞が起こる前兆として重要な病態になります。


③血行力学性

 脳に血流を送る頚動脈が狭窄をきたしている状態で、血圧低下や心停止などによる循環血液量の低下を起こすと、脳組織への血流量が減少するため、脳梗塞が発生します。これを血行力学的に発生した脳梗塞といい、主に分水嶺梗塞(border-zone infarct)の形をとります。
 前・中・後大脳動脈の灌流域の境界にあたる部分を、分水嶺(border zone)とよびます。これらの領域では全脳血流の低下時に局所脳血流が最も高度に減少し、梗塞に陥りやすいのが特徴的です。

分水嶺脳梗塞

④ESUS:(塞栓源不明脳塞栓症 Embolic Stroke of Undetermined Source)

 脳梗塞の原因は、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞と心原性脳梗塞に大きく分類されますが、臨床では原因疾患が不明なことも少なくありません。塞栓源不明の脳梗塞はESUSと呼ばれ、2014年に提唱されました。潜因性脳梗塞の原因の多くは、様々な検査でも塞栓源疾患の検出ができない脳塞栓症と考えられ、ESUSは「病巣より近位側の動脈狭窄や塞栓源心疾患を持たない、非ラクナ型脳梗塞」のことを指します。

 ESUSの原因としては、①がん関連血栓症、②低リスク心内塞栓源、③潜在性発作性心房細動、④動脈原性塞栓、⑤奇異性塞栓症などがあります。


⑤トルソー症候群

 癌が原因の脳梗塞です。癌細胞は、血液が固まりやすくなる物質や、組織を障害する物質を分泌します。それによって心臓の弁や血管の中で血栓ができやす<なり、その血栓が脳に流れて詰まり、脳梗塞を発症します。
 癌に関連した脳梗塞は、婦人科系や消化器系、肺癌でよ<起こり、通常の抗凝固薬(ワーファリン、DOAC)が効きにくく、再発のリスクが高いといえます。ヘパリンがある程度は有効なので、点滴投与をします。しかし、癌自体が制御できないとすぐに再発してしまうことが多いのが特徴です。

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