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ゴッドハンドをもつ農家の苗づくり

今日は寒かったのでビニールハウスで種まき。子供じゃないんだから雪がちらつくのを喜ぶなんてできないし、そんななかを決死の覚悟で農作業するのは正直キツいです。アラフィフで体をいたわりたい軟弱者はハウスに逃げ込むにかぎります。「今日は休みっ!」と開き直って部屋でぬくぬく過ごすよりは真面目ですよね?

とはいえハウス内は寒かった。太陽が一切出なかったので温まらないんですね。外よりは快適、着込めば大丈夫、と自分に言い聞かせて種まきをしてました。

そんな葛藤をしながら、ふと思ったことを今回は共有したい。育苗についてのテクニックではないですが、本質に迫るような話なので頭に入れておくと育苗管理がしやすくなるかもしれませんよ。

春野菜のスタート

うちは野菜セット農家です。多品目栽培でいろんな種類の野菜を育てて、毎週10種類くらいの野菜を詰め合わせたボックスを消費者へ直接お届けする。そんな農業をやっています。

これは定期購入してもらうことを基本にしているので、年中いつでも野菜をお届けできることが生産者にとっても消費者にとっても大切なんだけど、とはいえ野菜の種類が揃いにくい3月だけは出荷をお休みしています。

畑の状況でいえば、冬の間に畑にある野菜は2月末で出荷を終える、4月からの野菜は出荷の数か月前から畑へ作付けをしていく。そんな感じでしょうか。年度が変わる4月から、心機一転して春の柔らかい野菜たちをお届けするんですが、そのためには今くらいの真冬の厳寒期に小松菜やらチンゲン菜やらの種を播かなきゃいけません。

ただ、外は雪が舞う季節なので畑に直接種をまいてもなかなか育たないことはすぐに分かりますよね。だからビニールハウス内の暖かい環境であらかじめ苗をつくっておいて、もう少し暖かくなった3月頃にできた苗を植えようと。ほかにも苗を作る理由はありますが、ふつうは畑に直播きすることが多い小松菜やチンゲン菜などをわざわざ手間をかけて苗づくりしています。

露地栽培は親の気持ち

この苗づくりがけっこう大変なんですよ。ふだんは露地栽培といってビニールハウスなどの施設を使わずにお天道様のもとで自然任せの栽培をしているんですが、ハウスで育てるのって露地栽培とは全然違う難しさがあります。

露地で管理できるのは一部だけ、ビニールや不織布などをかけて温度を上げたり、雨任せだと心もとないので潅水をしたり、マルチングによって地温をすこし上げたり下げたり。

資材を使うことで少しは自然に抗うこともできますが、真冬にトマトを育てたりイチゴを収穫したりするのは露地ではほぼ無理ですね。

与えられている気候環境や土壌条件を受け入れながら、作物がどう育ってほしいかを考えて栽培環境を整えたら・・・あとは見守るしかできないです。環境要因がすべて思い通りになるわけじゃないし、むしろ思い通りになんかならないことのほうが多い。なんとなく子育てに似ている気がします。

施設栽培は神様の気持ち

一方で施設栽培は(苗づくりと含めて)やっぱり露地とは違うなと思いますね。温度も水も光も管理しようと思ったらかなりのことができます。もちろんコストを考えないといけないですが、真冬なのにハウスの中に真夏を作り出すことだってできます。トマトもイチゴも真冬に育てられるわけです。

とにかく環境制御の幅が広いし、細かくコントロールすることも可能。逆に言うと、ある程度管理してあげないと育たないし下手なことをすると枯れてしまう可能性もあります。ハウス内に雨は降ってこないし、暖房を切れば一気に真冬ですから。

植物工場は環境制御の最たるものですが、作物がしっかりと育つように環境を整える手法が露地とはぜんぜん違いますね。露地栽培が作物に対して教育権を持っているのだとすると、施設栽培では作物の教育権はもとより生存権すら人が握ってるわけで、なんだか恐れ多い感じすらします。それが神様っぽいよね、という話。

育苗って大変、施設栽培ってすごい

人間が神様だなんて傲慢なやつだ!と思うかもしれないけれど、そういう支配力やら万能感やら言いたいわけではありません。

そうじゃなくて、生存権を握るようなコントロールをしていることは恐れ多いことだし、ぞんざいに扱っちゃいけないなと。気持ちが引き締まった、育苗ってやっぱり大変だなと改めて思ったわけです。

ということなので、育苗は神様になったくらいの気持ちでやります。少なくとも僕は。そこにいる生き物の生殺与奪を握っている責任を感じながら、丁寧な仕事を心がけたいと。

そして、施設栽培をして神経をすり減らしている農家の皆さんを尊敬します。テキトー主義の僕にはできそうにありませんから。露地で放任するくらいが丁度いいというか性に合ってます。


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