結城りなのことを大好きになった日③【転】 (2024.10.7 #SASUKEアイドル予選会 現地観戦記)
(以下、グループ名・メンバー名については、全て敬称略で失礼します)
15分間とアナウンスされた休憩時間中、知り合いが何人かいる風見和香(私立恵比寿中学)の応援席を訪ねてみた。
体育館はバレーボールコート3面分ほどの広さがあり、大勢の「えびちゅうファミリー」が陣取っていたのは、結城りな応援席から見ると対角線のちょうど向こう側、それなりに距離があるというような位置関係だった。
風見和香のメンバーカラーが白のためか、一目でファンとわかるような派手なグッズは少なく、”ファミリー”の運動会を応援しているかのような、どこか穏やかな雰囲気が漂っていた。
少なくとも、このエリアには”ヤカラ”らしきファンはいなかった。
結城りなの応援目的で駆けつけた知り合いも、知人のえびちゅうファミリーと、このエリアで観戦していた。
そのため「呉越同舟」というよりは、「親戚同士が一緒に応援している」といった風情に感じられた。
休憩時間は、当初アナウンスされた時間では終わらず、5分延長された。その後、選手たちがアリーナに戻るまでをカウントすると、さらに10分を要した。
予選会が始まってから2時間半が経過し、再び緊張した表情で選手たちが登場したが、その中に結城りなの姿はなかった。
(「SASUKEアイドル予選会」の現地観戦記③です。今回はYouTubeで順次公開されている全6回<予選会>シリーズのうち、第3回から第6回前半までの観戦記となります)
前回の観戦記は、こちらからどうぞ↓
■沈黙の90分
第3種目は「無限ジャンプ対決」。
高さ45cmのバーが約1.7秒で1回転の速度で回り続け、両足で跳び越え続ける耐久勝負だ。
バーの高さは、アイドルたちの身長からすると、膝よりも少し下あたりに設定されていた。
この種目ではリズム感と持久力が求められるが、疲労が蓄積する中で集中力を保つことが勝敗の鍵となる。
競技は、事前抽選による2人1組で進行した。
結城りなの不在に関する説明は一切ないままに、競技が開始された。
1組目、岩本理瑚(僕の見たかった青空)が、いきなり圧倒的なパフォーマンスを見せる。ジャンプ回数が100回を優に超え、最終的には129回を記録。
限界まで挑んだ彼女はその場に倒れ込み、酸素吸入を受けるほどだった。
約4分間跳びつづけた彼女の姿に、賞賛とともに、なんとも言えないどよめきが起こっていた。3種目めも、どうやら過酷な競争になりそうだ。
スタッフと応援メンバーの八木仁愛に肩を担がれながら、岩本理瑚は一旦その場を去っていった。
一方、結城りなの応援エリアに腰を下ろしてた自分は、どこか遠くの出来事を見ているような感覚だった。
「これで青いTシャツの子が、これでかなり有利に立ったのかな」
「1組目だと、このあとの競技に費やす時間があるし、十分に体力回復して最終種目に臨めるんだな」
ともすると、冷徹にも聞こえる感想しか、脳内には起こらなかった。
気がつくと、すぐ周りの人間から声が消えていた。
ぼんやりと前を見つめながら、時折だれかが力ない拍手を送るのみ。
ただただ、目の前から読み取れることだけをぼんやりと処理していた。
いつの間にか、応援メンバーの芹澤もあはアリーナに戻って、けなげに他の選手の競技を軽く手をあげながら、応援している。もちろんその横には誰もいなかった。
その後も競技は続いたが、どの選手も岩本理瑚の記録には大きく及ばない様子だった。そのことは、ぼんやり把握していた。
目の前で、カウント100を超えて跳び続けていたアイドルの姿が見えた。
跳ぶごとに、左斜め前の応援席が沸き立っている。
「岩本を超えた!」
そんな実況アナウンサーの声も聞こえてきたが、それでも特になんの感情も動かなかった。
どうやら、いま跳んでいる選手がトップに立ったようだ。
伊藤実希(SKE48)という名前が、モニタに映し出された。
一人また一人と競技を終え、時間が経過しても、結城りなが戻ってくる様子はなかった。
いよいよ、スタンバイしている選手が、風見和香だけになった。
「ではいよいよ次が最終第6組ということになります」
どのくらいの時間、自分のまわりは無言のままだったであろう。そんな沈黙に、無情なアナウンスが耳に入ってくる。
「現在暫定トップのukkaの結城りなさんですが、先ほどの協議のあと、心拍数が高い状態が続いていますので、安静状態が必要とドクターの判断がありました」
「体力面を考慮して無限ジャンプ対決は棄権となります」
自分が、このとき瞬間的に何を思ったのかは正直覚えていない。
YouTubeの配信映像では、彼女が医務室で「第4種目に全力を注ぐため、トレーナーと相談して棄権を決めた」とコメントしているが、その場ではそれを知る術はなかった。
何よりも《心拍数》という言葉が胸に刺さり、不安がじわじわと広がっていく。それが深刻な事態でないよう、祈ることしかできない自分がもどかしかった。
ふと、目の前で懸命に動く選手たちを見ながら、「この状況から追いつくのは難しいかもしれない」という考えが、根拠もなく心をよぎる。それでも、その思い込みを振り払うように、無事を願う気持ちを強く抱いた。
そう考えると、優勝の望みはほぼ絶たれたのだろうという虚しさが、ひっそりと胸に広がった。
風見和香が、ひとりでバーの前にまっすぐに立っていた。
「りなちゃんの分まで。200回行くくらいがんばります」
優しさのこもった笑顔の宣言。
その言葉に、前の列に座っていた何人かが堰を切ったように、大声で風見和香への声援の声をあげる。
自分は…覚えていない。
(YouTubeに映り込んでいた映像を見ると、自分は口を真一文字にして、じっと前を見ていたようだ)
100回を超え、平然とした顔で120回、130回…そしていまのトップの記録144回を抜き去った。
それでも跳び続ける風見和香。最終選手だから、この種目の優勝は決まったのに。
記録152回で、バーに少し足が当たったところでストップがかかった。その場に倒れ込むこともなかった。ただまっすぐに立ち続けていた。
休憩時間に訪れたエリアあたりから大きな「ののか」コールが起こる。
そのコールは、やがて会場中の拍手に変わる。
その真ん中に、風見和香が満面の笑みをたたえて、スタンバイしているときと同じ姿勢で、まっすぐに立ち続けていた。
■最終決戦
最終の第4種目は、ほどなくして開始された。
アリーナの向正面、我々の座っている側のスタンドすぐそばには、SASUKE名物の「そりたつ壁」とともに、ハードルや平均台といった障害物とあわせ、30メートルほどのコースが設置されていた。
このコース、我々から見て手前側に隣接しているせいで、この種目は、並走する応援メンバーの様子や、選手たちのスタンバイエリアはほとんど見えなかった。
選手が名前を呼ばれ、スタートライン立った瞬間に初めて、「ああ、次はこの選手なんだ」とわかるという具合だった。
事前に順番も伝えられていなかったため、誰がいつ出てくるのかは、完全に未知の状態だった。
そのことはつまり、結城りなが次に登場するのか、それとも最後まで現れないのか、全くわからないということでもあった。棄権後の彼女がどういう状況にあるのかも不明で、落ち着かない気持ちがまだ続いていた。
他の応援席は、今日最後の競技ということもあり、最高潮の盛り上がりを見せていた。
各選手の挑戦に対して、声を限りに応援し、好タイムが出ると敵味方関係なく大きな拍手が送られていた。
しかし、やはり自分の周囲の空気はどこか沈んでいて、心ここにあらずといった様子だった。
目の前を何人もの選手が駆け抜けていった。
「そりたつ壁」を一気に登り切った選手が、好タイムを叩き出す中、風見和香は残念ながら身体を持ち上げるのに手間取って、タイムが伸びなかった。
ふと視線を移すと、また青いシャツの子(岩本理瑚)がスタートラインに立っていた。目が自然と引きつけられる。
途中ぼんやりと見ていた時間が長かったとはいえ、最初にバク宙で派手に登場してから、ここまでの各競技のパフォーマンスから、彼女には優勝の流れが完全に来ているように見えた。
正直なところ、会場の空気そのものも彼女を後押ししているかのようなオーラが感じられた。
スタートの合図とともに、岩本理瑚は力強く駆け出した。
動きに迷いはなく、見る者を圧倒する集中力が感じられた。
だが、その空気は突然一変した。途中の平均台で、彼女が足を滑らせたのだ。一瞬の出来事だった。体勢を立て直す間もなく、岩本はバランスを崩して平均台から落下した。
まさかの失格。
その瞬間は、我々の陣取った場所の真正面で起こった。
まさに目の前で、優勝候補だった彼女が倒れるのを見てしまった。
信じられない光景に、周囲からどよめきが起こったものの、すぐに静寂が広がった。
コース横にうつ伏せに倒れたまま、岩本はなかなか起き上がることができなかった。応援席にいた誰もが「これが現実なのか…」と感じずにはいられなかった。
勝負は残酷だった。いくら実力があっても、どれだけ努力を重ねても、一瞬のミスがすべてを終わらせることがある。それがこの予選会の厳しさであり、もしかすると美しさでもあるのかもしれない。
ただ、そんな理屈をその場で受け入れられるほど、状況は容易ではなかった。
ただただ、呆然とうつ伏せになった青いTシャツの背中が、そこに見えているだけだった。
■「り」と「な」の2文字のボード
向こうのスタンドの方で、見覚えのある顔が不自然に動いているのが目に入った。よく見ると、顔見知りの彼が、手作りの「り」と「な」のボードを大きく振り回しながら、こちらのスタンドの下を指差している。
何秒間か考えた後、彼のジェスチャーの意味がようやくわかった。
結城りなが、このスタンドの下に戻ってきて、待機しているようだった。
「この下に! りな戻ってきたみたいよ!」
その言葉は、応援席全体に一瞬で伝播した。それまでの沈黙と無感情を破り、換気と安堵が入り混じった小さなざわめきが席を包み込む。
みんな一斉に身を乗り出して、彼が指し示す先を覗き込もうとした。
だが、どれだけ目を凝らしても、我々の位置からは、彼女の姿を捉えることができなかった。
競技に出場するために準備しているのか、それとも一時的に体調回復したから顔を見せにきただけなのか、何もわからない。
すぐそこにいるはずなのに、見えないというもどかしさと、彼女が戻ってきたという事実への高揚感が複雑に絡み合い、胸がざわついた。
それでも、彼女がここに戻ってきたというだけで、何かが報われたような気がした。それだけは間違いなかった。
赤いTシャツを作ろうと言い出した仲間は、この瞬間もまだ、頭を抱えたまま、うなだれ続けていた。
(【結】へ続きます)
《12月20日追記》
(3人の後日談について、追記します)
予選会のYouTube第4回が公開された翌日、12月3日の17時に、7年ぶりに女性版SASUKEの”KUNOICHI”が開催されること、その参加選手50人に、結城りな・風見和香・岩本理瑚の3名も選ばれたことが発表された。
この日の岩本理瑚の公式ブログ(毎日更新されている)で、すでにKUNOICHIの収録が終わり、結城・風見と3人でまた一緒に競技に挑めたことについて、素直に喜びを表していた。
(※サイトへのアクセスには、無料FC会員への登録が必要)
その10日後、第6回までの公開(12月13日)を待って、風見和香もブログを更新していた。そこにも、同じように一緒に戦った3人の絆について書かれていた。
同日、12月13日の岩本理瑚の公式ブログでは、平均台で落下したことを受けて、こんな風に記述されている。
(※なお、月3回更新を目標としている結城りなのブログは、現在のところ、まだ更新されていない)
そして・・・
12月16日に、YouTubeの第7回で、急きょ設けられたアイドル予選会の「敢闘賞」枠でのSASUKE追加出場選手に、岩本理瑚が選ばれたことが発表された。
この日のブログで、岩本理瑚は、本戦出場への想いを静かに、しかし力強く綴っている。
アイドルは時に、さまざまな場面で「戦わせ」られる存在だ。
そして、その戦いのルールが理不尽であったり、不毛に思えることも少なくない。観る側の自分たちがその“消費”に加担しているのではないか、と複雑な気持ちになることもある。
思い返せば、秋元康が20年近く前から手がけてきた一連の取り組みが、そうした構図を強く意識させるものだったと感じる。
「アイドル予選会」と銘打たれたイベントも、そうした構図から完全に自由ではなかったのだろう。
それでも、あの日、ステージや配信画面ではなく、体育館という場で繰り広げられた全力の戦いには、理屈を超えた力が確かに宿っていた。
そして、期せずして秋元康のグループのメンバー2名が次の戦いに挑むことになった。
少し苦笑いしながらも、すでにその日を心待ちにしている自分がいることに気づく。
■ SASUKE2024 〜第42回大会〜
(出場選手:伊藤実希<予選1位>、岩本理瑚<予選6位>)
2024年12月25日 (水) ごご 6時00分〜
TBS系列で全国放送
■ SASUKE2024 〜第42回大会〜
(出場選手:結城りな<予選2位>、風見和香<予選5位>、岩本理瑚<予選6位>)
2025年1月13日 (月) ごご 6時30分〜
TBS系列で全国放送