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地獄を見てるのかと思った。(3)

ハローワークに向かう途中の景色はとてものどかだ。
もうすぐ稲刈りの時期を迎えるであろう田んぼの稲がまさに黄金色となって広がっている。

真っ青な空には入道雲が立ち上り
遠くでは青々とした山々。
運転しながら風景を楽しみ、少しだけ気分が軽くなった。

赤い橋を渡り国道に入る。
平日の昼間なのだが、この辺りは大型スーパー、書店、ホームセンターが軒を連ねているせいか、いつもそこそこ混んでいる。

仕事をしている人がほとんどだろう。今そこを制服姿で歩いている女性も、銀行やなんかの職員さんに違いない。
世の中の人が仕事に出ている間、仕事をしていない自分の状況が不思議なものに思える。
やろうと思えば家に帰って昼寝だって出来るのだ。
さきおとといまで、あたしも朝家を出て電車で通勤し、夕方に帰宅する人間だったのに。


ハローワークについた。

入り口には【新型コロナウイルス関連就労相談窓口】と真っ赤な字で書かれた紙が貼られていた。

手指消毒をし、タブレットのディスプレイに近づき検温をする。
「36.4℃-正常ですー」

受付に耳が聞こえないことを伝え
「内定取り消しを受けた。何か相談できないか、失業手当の受給が早くなる等の補償とか」と、筆談で聞いた。
「離職票はありますか?」
「年休消化中なので、ありません」
受付の女性の目がちょっと困って笑っているようだった
「離職票がないと出来ることない感じですか?」
「そうですね。お仕事のご紹介は出来ます。」
「では、それでお願いいたします」

紹介窓口にいき
障害者用求人と、通常求人の仕事をいくつか紹介してもらった。
事務職、製造、食品加工
障害者用求人は時給で、月給もかなり安い。

まあ。年末までに決めることが出来ればいいから、これを持ち帰って検討しよう。
求人票をもらってハローワークをあとにした。



なんだかどっと疲れた。

日没が早くなり、夕方にさしかかっていた。

車を運転していると
頭の中に「これからどうしよう」という文字がどんどんどんどん落ちてくる
雪のようにたまっていく。そうイメージした瞬間、
鼻の奥がツンとして頭がカッと痛くなり、涙がぽろっと出た。
呼吸がしずらい。

ひ、ひ、
ひっ、ひっひっひッ… 

胸の緩やかな痙攣に、呼吸が持っていかれる。顔が熱くなる
涙があふれて、ボロボロ落ちる。
マスクが冷たくなっていく。

「これからどうしよう、どうなるんだろう」

泣きながら車を運転して、自宅に着いた。

家に入り、パソコンを立ち上げ、あたしはむせび泣きながらディスプレイを見た。求人サイト検索しては登録する。

涙が止まらない。
たまらなくなり
タオルで顔を抑えて声を出して泣いた。

胸のあたりに
どうしようもない気持ちと、悔しい気持ち、自分を責める気持ちが
糸になってぐちゃぐちゃに絡まって、それが動くたびにゴリゴリと痛む。

南向きの日当たりのいい和室で、障子越しに差し込むやわらかい光のなかで

あたしは大声を出して泣いた。

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