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夢で見た怖い話
何から書こうか悩みましたが、夏も近いし雨の時期。
そこで今回は夢で見た怖くて不思議な話をひとつお話します。
※この話は以前に書いたことのある話を修正したものです。
フードコートのゲームコーナー
夜、自分の部屋でいつものように眠りについた。
目を開けるとぼんやりと薄暗い景色が映る。
どうやら車の後部座席でシートベルトに頭を預け、うたた寝していたようだ。窓の外はどんよりと曇っていて、ぱらぱらと降る雨も見える。
運転席の人は座席が邪魔をして見えない。
車の窓からは見知らぬ道を進んでいくのがわかる。
ぼうっとしながら車に揺られていると、運転席から話しかけられた。
運転席から声が聞こえてくるのはわかるのに、言葉がよく聞こえない。聞き返すのはめんどうで、眠たくて、聞き流した。それなのに、運転席の人はかまわず私に話かけてくる。相手に聞こえるか聞こえないかの相槌を打った。
揺られてしばらく経つと明りに近づいていくのがわかった。
車が止まる。
そこは平屋に店舗が建ち並ぶショッピングセンターの駐車場だった。
曇天。雨。
降りたくない。そんな気持ちで相変わらずシートベルトに頭をあずけていた。
運転席のドアが開き、降りてきたのは実の母親だった。母は足早に車のトランクへと向かう。
トランクが開いた。
「あんたは降りる?」
考えるのが面倒で、声には出さずにシートベルトを外して車を降りた。
外に出ると、どんよりとした空気に息が詰まる。降りずに車の中で寝ていればよかった、と少し後悔した。
駐車場はもう夕暮れ時なのに満車のようで、ショッピングセンターからもれる光は見えるのに店舗がよく見えないほど綺麗に車が並んでいる。
母はトランクから洗濯物が入ったカゴを取り出していた。ふと見上げれば雨は止んでいるように思えたけれど、外灯に反射する雨を見て霧雨と気づく。濡れた感覚はない。傘の必要はなさそうだった。
「お母さん、乾燥機かけてくるから」
「なら、そこの建物にいる」
「わかった」
母は車の鍵を締めてカゴを抱え、ショッピングセンターに向かっていった。コインランドリーがきっとあるんだろう方向へ。
止めた車の右側に横断歩道があり、その先には母に伝えた建物がある。その建物は飲食店が入っていそうな雰囲気を醸し出していた。
私は1人なのをいいことに、横断歩道の白い部分だけを踏んで渡りきった。
近くにあるから。そんな理由で決めた初めて入る店に、1人で入っても大丈夫なものかと少しビクビクしながら扉を開けた。
店内は明るく、飲食店舗が正面と右側にL字の形で入っていた。見渡すと真ん中には長机と椅子が等間隔に並び、食事をしている人や勉強をしている人が数人いるのがわかった。飲食スペースの両隣には、小さなゲームコーナーも設置してあった。
なにか食べようか。そうは思うものの、入口近くにあるクレーンゲームが気になる。クレーンゲームの隣にはトレーディングカードやシールがでてくるガチャの機械が上下一対として2台ほど設置してあった。奥の方にはドーム型のお菓子をすくうゲーム機もあったが、見えた限りでは興味を引くような景品はなかった。
ゲームセンターが大好きな私は、誘われるようにクレーンゲームのほうへ足を運んだ。
ゲームをするにもまずは欲しい景品を見定めなければならない。
奥から順々に見ていくことにした。景品にはぬいぐるみやごちゃまぜに入ったキーホルダー、何に使うのかよくわからない景品があった。
ざっと見て特に欲しいものは見当たらなかったけれど、財布の中身を確認すると小銭がたくさん入っていた。これはもう景品を取れということなのでは?
都合のいい解釈を手に入れた私は景品チェックに戻る。
ひとつのクレーンゲームの中に私の好きなとあるゲームの賢王様を見つけてしまった。そのクレーンゲームは小さなキーホルダーをドーナツ型に積んでおり、そのてっぺんに目玉商品を置いている。
このタイプのクレーンゲームはやったとこがなかったこともあって、物は試しにやってみることにした。
いざクレーンゲームの前に立つと、左隣のクレーンゲームで高校生くらいの男の子たちがぬいぐるみを落とそうと盛り上がっていた。
他人がやっている隣でやるのは好きではなかったけど、やる気満々にクレーンゲームの前まで来てしまったのでとりあえず一回だけ挑戦する。
結果、ドーナツ型の土手を崩し反動でいくつかのキーホルダーは手にいれた。が、賢王様は埋まった。
私はそっと、そのクレーンゲームから離れた。
もう少ししたら誰かがやるかも知れないし、そしたら少しだけ埋まった物も取りやすくなっているかもしれないし。
ひと通り景品を眺め終えたとき、男の子たちがいなくなったのがわかった。ではもうひと勝負行こうか、と意気込んで先ほど失敗したクレーンゲームに戻る。
そこには先ほどの状態に、隣のクレーンゲームの景品であるぬいぐるみが上に乗っていた。――難易度があがっている。
「すみません。お客様」
絶望に見舞われていると、左隣から男性店員に声をかけられた。
「今日は学生さんも少ないので、お店を閉めたいのですが……」
驚いた。純粋にただ、驚いた。時間なので、と言われたのならわかるけど早く閉めたいとは。
てっきり学生たちが隣まで転がったぬいぐるみをどうにかしたくて店員を呼んだのかと一瞬よぎったのも、驚きに拍車をかけたと思う。
よく見ると私以外の人はみんないなくなっている。
「欲しいものがあるので、それだけチャレンジさせてほしいです」
普段なら絶対に出てこない言葉がすらりと口から出た。
男性店員は申し訳なさそうに電気も消したい旨を伝えてきたので、ゲーム機のところだけつけておいてほしいと答えたところとても快く受け入れてくれた。新たに人が入るのを防ぎたかったのだろうか?
食堂の部分だけ明かりが消え、クレーンゲームのところだけが蛍光灯で照らされている。それだけで少し怖い雰囲気になる。
早く挑戦して帰ろう。クレーンゲームをしようとしたところ、すべての電気が消えた。
驚いて顔を上げると、再びクレーンゲームの周りだけ電気がつく。
間違えただけ、だろうか。
ぬいぐるみは難なくとれた。おかげで賢王様が見える位置にある。ただ、位置の関係から取るのは難しそうだ。
別にどうしても欲しいわけではなかったので、今ここで無理して頑張る必要は無くゆっくりいろんなものをやろうと決めた。店員が来たらこんどはすぐにやめて帰ろう。
お店の入口に向かう形でまた奥から見ていき、欲しい景品には1つずつ試していく。結果は取れたり取れなかったりした。そうして、端まで見終わった。
おかしい。
足早に来た道を戻りながらクレーンゲームを見て歩く。
ない。
さきほどやっていた賢王様の入ったクレーンゲームが、ない。
端から端を見て歩く。
やはり、そこにあのクレーンゲームはどこにもなかった。それどころか景品がまるっと入れ替わっている。
そういえば結構な時間が経っているはずなのに店員がこない。さすがに電気をつけたまま帰ったりはしないだろうし、戸締りもしていないはず。
とはいえ、不安になってスタッフルームに繋がる扉をノックする。
返事はない。
気づいていないのか、着替えでもしていて出てこれないのかもしれない。
さすがに帰るときには声をかけてもらえるだろう。
クレーンゲームの中身は新しい。邪魔をする人も止める人も今のところいない。私はカバンを長机に置いて、クレーンゲームで遊ぶことに決めた。
小銭が許す限りだ。
財布にいくつ小銭が入っていたのか思い出せないが、パンパンに入っていた最初のことを思うと少し心許なくなってきた。
そして気づいたことがある。
何回ゲームをしてもそこにいる間は景品の入れ替わりはない。
席を離れて端まで行くと景品は入れ替わる。
それと荷物。初めは長机に置いていたのに、いつのまにか置いてある場所が変わっている。椅子であったり違う机だったり、位置が変わっている。
だというのに、人の気配だけはまるでなかった。
不思議に思いつつも私は気に止めなかった。
景品が変わるといってもさすがにずっと同じではこちらも飽きてくる。
ここで出来ること、といえばクレーンゲームとカードやシールなんかがでてくるガチャくらい。
カードに興味はなくとりあえず見てみたら、シールのガチャに『120円』の文字。
自分でもよくわからないけど20円の謎に笑った。身内がいたら間違いなく伝えてネタにしたのに。
笑ったことで少し余裕ができた。財布の小銭はもう数枚しかなかったけど、せっかくだからやっていこうとお金を入れる。
回らない。
なぜ。
「おかね、もどってるよ?」
言われて横を見ると、小学校低学年くらいの女の子がそこにいた。
店内はとても明るくて、外も晴天で昼間の景色になっていることに気づく。人の気配も賑やかさも、いまになって気づいた。
呆然としていたけど、女の子がじっとお金の戻し口を見ていることにも気がついたので指を突っ込み回収する。
私が入れたのは50円玉だったようだ。
女の子にお礼を言ったあとは、女の子がついてくるので一緒に小さなゲームコーナーを楽しんだ。
クレーンゲームの形も変わっていて、手のひらくらいの蚊のような虫の形で足に細い6本のアームがついたものがあった。
これは無理だろうと思ったけど、女の子が楽しそうなので挑戦したところテントを無事に手に入れてしまった。2人でめちゃくちゃはしゃいだ。
はしゃいだところで食堂が目に入る。
そうだ、荷物をどかさないと。
ない。
私の荷物がない。
慌てて、荷物を探す。机の上にはない。椅子は? 隙間には落ちていない?
荷物は、落し物入れに無造作に置かれていた。
こんな所に置く前に一言声をかけてくれればいいのに。理不尽な怒りを覚えながら、荷物を一番奥のクレーンゲームに近い椅子に置く。
苛立ちはしたけど女の子がいたことを思い出し、気を取り直して女の子に向かい合う。
はずだった。
誰も、いない。
人の気配が消え、電気もクレーンゲームのところしかついていない。空も暗くなっている。さっきまであった、たくさんのものが一瞬で消えた。
景品も、違う。
急に、恐怖を覚えた。
熱中してたからって、さすがに夜から昼に変わって気づかないわけがない。
人がいることもそう。荷物だってはじめは1人だったとはいえ誰かがそばに行ったら警戒するし、自分でどかすことだって出来た。
なのに、女の子が話しかけてくるまで賑やかさにも気づかず、荷物を落し物に入れられたことにも気づかないなんてことある?
“不思議”が“不安”と“恐怖”に変わった。
椅子に置いた荷物を机の上に、見える位置に置いた。
私は再び、奥から景品を見ながら歩く。こんどは景品をひとつ見るたびに荷物を確認する。
このクレーンゲームのあったところは最初に賢王をみたところだ。あの時ちゃんと頑張っていたらなにか変わっていただろうか。
荷物は、ある。
繰り返して、端まで来た。
荷物は、そこになかった。
慌てて荷物のあったところへ駆け寄り、荷物を探す。
落ちた音はなかった。それでも下を見て隅々探した。
スタッフルームの扉をドンドンと叩いても返事はない。
当然周りにも人はいない。
荷物もなくなった。これまでに取った景品も重いからと立てかけていたテントもなくなっている。
手元に残ったのは、手に持っていた財布だけだった。
もう、ゲームに向かう気力は残っていなかった。
私は黙って奥にあるピアノの椅子に座る。
クレーンゲームは相変わらずそこに在って、人はいない。
視線を落とす。考えるのもやめた。
このまま寝てしまえば朝になって目を覚ますだろうか。
お母さんはどうしているんだろう。私のこと忘れてしまったのだろうか。
「こんばんは。どうしたのかな?」
顔を上げると、右側におじいさんが立っていた。顔は覚えていないけど、とても白い印象のある年配の方でどこか温かい雰囲気をしていた。
おじいさんはそっと私の隣に座る。
もうずっとこの空間で1人過ごしていくのかと思っていた私は、ひとりじゃない安堵でいっぱいだった。下を向いて、涙をこらえながらすべて話した。
端まで行くと景品が全て変わること。
荷物もそれに合わせて移動していくこと。
ここから出られないこと。
帰りたいこと。
帰りたいの
気持ちが言葉になってはじめて泣いた。
「そうか」
黙って私の話を聞いたあと、そういっておじいさんは微笑んだ。
「……あそこに、置いてあるのはあなたのかな?」
優しい声に視線を上げる。
少し離れた机の上に、見慣れたカバンがそこにあった。
駆け寄り、カバンの中身を確認する。
景品はなくなっているけど、たしかに私のカバンだった。
感極まってカバンを抱きしめ、おじいさんに向き直る。
そこに、おじいさんはいなかった。
私は心の中で、おじいさんに感謝を告げる。
荷物を持って外に出た。入口のドアは普通に開いた。
鍵はきっと店員さんがしてくれるだろう。
曇天。霧雨。
私がはじめにきた時と同じ。
「遅くなったね、ごめんね」
少し大きな声で洗濯カゴを持った母が駆け寄ってくる。
――ああ、私は帰れるんだ。
世界が暗転する。
「――と、いう夢を見たんだよ」
「へぇ~。それは怖いね」
「うん、こわかった」
駐車場の案内役として店の前の駐車場でお客様を待ちながら同僚に夢で見た話をした。どうせ夢の話だからか、あんまり興味はなさそうだった。
話を変えようか。
「この看板わかりづらくない? なんとかならないかな」
「なんとかなったら私たちいらなくない?」
「それもそうかー」
二台ほど車が駐車場に入ってくるのが見える。
「あ、お客きた。私先に案内するね」
「了解。後のお客は私が案内する」
バイト先のカレー屋である店内まで案内しに行く同僚を眺めながら安堵する。ちゃんと帰って来れた。
気を引き締めて、同僚と同じようにお客を店内に案内する。お客に合わせながら大きな螺旋階段をあがる。
あれ? ここはどこだっけ。
私、カレー屋で働いたことなかったような……。
この建物も知らないはずなのに、どうして案内できるんだろう。
――夢を自覚して、ようやく目を覚ました。
そこは見慣れた自分の部屋だった。
とても長い夢をみていた。
不思議で怖い、そんな話。
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