関宿のMonsieur 三重県/日本一周の旅
頭の中にある旅の景色、綴っていた旅日記、数えきれないほど撮ってきた写真の全てをどこかに残しておきたくて始めたのに、
莫大な量の日本一周分の思い出は、どこから手を付けたらよいのか正直分からない。
けれども人生と同じく始めないと始まらないので、形式にこだわらず、思い付いたまま綴っていくことにする。
一番初めのエピソードは生涯忘れないであろうムッシュとの衝撃的な出会い、より。
旅をスタートし間もないころ、三重県にある関宿、東海道五十三次、47番目の宿場町に辿り着く。国の重要伝統的建造物群保存地域にも選定されているこの地域は、最も古いもので18世紀中頃、明治中頃までの町屋が多く立ち並ぶ。漆喰彫刻や瓦細工、虫籠窓などの華やかな意匠や木造部分の落ち着いた色目が連なり、歩いているとまるで江戸時代にタイムスリップしたような感覚に陥る。
私たちの他には歩いている人が誰もいなく、静まり返ったその空間の中で、関宿の美しさを存分に堪能することが出来た。
お店やレストランは正直少ない、というよりほとんど無い。だからこそ街並みをはじめ、一軒一軒をゆっくりと見ることが出来、楽しんでいたその時、目に入ってきた一軒のお店。アンティークショップだと分かり入ってみた。
入って直ぐに、大変美しい調度品や、骨董品の数々に目を奪われた。
ヨーロッパからのグラスやプレート、日本の古伊万里なども沢山あり、他にも浮世絵、さらにオランダから仕入れた真っ白で美しいパイプオルガン、見たことも無い大きな蓄音機など、次から次へと夢中で拝見していると奥から初老の男性が出ていらした。
言葉を交わさなくても、ひと目で素晴らしい審美眼と洗練された美意識をお持ちであることは佇まいに表れていらっしゃり、圧倒された。
眼の強さや接し方も一般的ではなく、ムッシュが持つ雰囲気は日本ではなかなかお見かけすることがなかったので、どうしてここ関宿で?という疑問も爆発しながら私たちはものすごく惹かれた。どのような生き方をされたらこのように歳を重ねられるのだろうか、とも考えながら。
店内をゆっくりとまわりながら古い蓄音機が気になっていると、「実際に音が出るんですよ」と仰りアヴェ・マリアを流してくださった。大好きな曲を照明が落ち着いたこの美しい空間で、蓄音機からの深みのある音で体全体で感じながら聴けたことは感動的だった。
その後も少し会話を交わした際に、どこの国から来たのかを聞かれ、彼が答えると、突然ムッシュがフランス語を話し始めた。
大変流暢で美しいフランス語を。
この時点でもう何が起こっているのか理解が出来ずにあまりの衝撃に私は言葉を失った。
パリに長年暮らしていて10年程前に帰国されたと仰っていた。
これまでの不思議な点と点が線につながった感覚。
ムッシュも嬉しそうに彼と話し続け、裏庭まで案内をしてくださった。
関宿は大変美しい街で、ムッシュもその美しさに惹かれ、街が衰退することなく繁栄できるよう、こちらでお店を開いたと仰っていた。
必ずまた行きたい場所のひとつ「ANTIQUE明治屋」。
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