犬の健康診断の重要性(獣医師・代表 早坂)
はじめに
多くのご家族が、動物病院から「健康診断キャンペーン」という便りをもらったり、「ワクチン接種やフィラリア検査とご一緒に、健康診断はいかがですか?」と案内された経験があるのではないでしょうか。
愛犬への健康意識が高まって、犬の高齢化が進んでいる昨今、とりあえず健康診断を受けさせるのではなく、健康診断についてより詳しく知りたい!という方も多くいらっしゃるはずです。そこで「そもそも健康診断はなぜ必要?」「何歳から受けさせるべき?」「適切な受診の頻度はどれくらい?」「どんなことをするの?」「費用はどれくらい?」といった内容を解説したいと思います。
そもそも健康診断はなぜ必要か?
病気の早期発見や健康維持のために、言葉を喋ることができない動物の健康状態を確実に知るには獣医師による専門的かつ定期的な健康確認が必要なためです。
実際、犬種や体格、生活環境などにもよりますが、犬の寿命は14.2歳といわれています(※1)。人間としては1日1時間1秒でも長く愛犬と同じ時間を過ごしたいものですが、小型・中型犬は人の4倍、大型犬では実に7倍のスピードで年をとっていきます。そして犬は言葉をしゃべることができません。当然でしょう、と思われるでしょうが、これが早期発見を難しくしている大きな要因です。人であれば少しの違和感についても言葉にすることができ、また自分で気付いて病院に行くことができます。犬にはそれができませんし、弱さを見せまいとする本能から我慢してしまう子も多いので、気づいた時には病気が進行していて手遅れ…なんていうケースも多くあります。飼い主さまが愛犬の様子をいつも気にかけることは大切ですし、偶然異常に気がつくこともありますが、やはり不安は残ります。
ここに健康診断の存在が生きてきます。見た目の変化だけでは気づけない異常も、普段から健康診断を実施していればその子ごとの正常値というものがわかり、値がおかしくなった時もすぐに異常が生じていることに気づけるというわけです。私たちよりもあっという間にシニアになる愛犬の健康維持のためには、健康診断が不可欠なのですね。
(※1)アニコム家庭どうぶつ白書
何歳から受けさせるべき?適切な頻度はどれくらい?
少なくとも「1歳から7歳(大型犬は5歳)は年に1回、7歳(大型犬は5歳)からは年に2回」の健康診断を受けることをお勧めしています。各ご家庭のご都合に合わせて健康診断を受けるタイミングを検討してみてください。理由は以下のとおりです。
まずは最低限として、小・中型犬は7歳齢、大型犬は5歳齢くらいになるとシニアとみなされるので、少なくともこの時期までには健康診断の受診をスタートさせたいです。しかし、この対応は人に置き換えれば、小さい頃の健康診断や小・中学校の健康診断、大人になってからの人間ドックなど、すべて受けずに高齢になってからようやく健康診断を受けるようなものです。もちろん、犬でもシニア期の方がかかりやすい病気の数が増えていきますが、重症度に関わらず成長期など若いときに発症しやすい病気もあります。
そして、適切な頻度は習慣的に年に1回受けている人も多いかと思います。ですが小型・中型犬は1年で4歳、大型犬は1年で7歳年をとる中で、果たして1年に1回で足りるのかという疑問もあります。
そのため、できる限り早期に、定期的な健康診断の受診をお勧めいたします。
※ただし、適切な受診年齢・頻度の明確なきまりは日本にはありません。
どんなことをするの?
イメージとしては人間の健康診断や人間ドックと同じようなものです。基本的な検査項目のセットがあり、希望に合わせてオプションの検査を追加することができます。
基本的なセットは身体検査(視診、聴診、触診など)と血液検査のみであることが一般的です。
そして尿検査・糞便検査が追加されたコース、さらにレントゲン検査・お腹のエコー検査が追加されたコース、心臓のエコー検査まで追加されたコースなど、さまざまなものがあります。
受ける検査項目の選び方の目安としては,愛犬がいつも通り元気であれば血液検査のみでも大丈夫ですし、些細なことでも気になることがあれば獣医師に相談し、検査項目を決めるとよいでしょう。
費用はどれくらい?
健康診断(1日ドック)の料金を2万円〜2万5千円に設定している病院が多いようです(※2)。ただし、人間の医療と異なり動物病院によって各診療項目の料金は異なりますので、詳しくはお近くの動物病院に問い合わせてご確認ください。
(※2)家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査及び飼育者意識調査(日本獣医師会)
おわりに
犬の健康診断について解説させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。最後に健康診断の大切さを痛感したエピソードをご紹介します。
私の友人が数年前までヨークシャー・テリアを飼っていました。最近よく吐くな、元気がないなと思って検査をしてみたところ、腎臓の機能が回復不可能なまで状態が悪くなってしまっていました。点滴治療や投薬、輸血まで行いましたが、あれよあれよといううちに状態はさらに悪化し、亡くなってしまいました。多額な医療費がかかったのはもちろんですが、なによりも愛犬を苦しめてしまったことを深く後悔し、どうしてもっと頻繁に健康診断を受けさせなかったのだと、彼が自分を責めていた姿に胸が痛みました。もし腎臓が悪くなっていることが早期にわかっていれば、簡単な点滴治療などで苦しい時間は回避できたかもしれません。このようなケースはよく見かけるもので、適切な時期からの適切な頻度での健康診断を強く勧めたいと思います。
また何かあったとき、相談しやすい獣医師の存在はとても大切ですし、健康診断などで定期的に動物病院にかかることで獣医師との信頼関係も築けます。獣医師としても、その子が普段どのような子なのかがわかっていたほうが当然初期対応は早くなります。
この記事が、皆様と愛犬の健やかな生活の助けになれば幸いです。
(執筆:獣医師 早坂光春)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?