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魚道
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「魚道」というものをご存知でしょうか。魚道とは読んで字の如く「魚の通り道」です。言うなれば「魚のバリアフリー」ですね。魚がスムーズに移動できるように拵えたものが魚道です。六道輪廻の世界であれば、畜生道に該当するでしょうね。
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魚からすれば「僕達のために魚道という立派なものを造ってくれる人間は優しいなぁ。人間っていいな」と思うかもしれません。ですが、この認識は誤りです。なぜなら、魚道というのは、人工物を設置したために造られたものだからです。
ダムなどの人工物を造った結果、本来であれば魚が通る道を塞いでしまったので、その迂回路として魚道が造られたのです。言うなれば、カニを食べてしまったので、その代用品としてカニカマを食膳に供するようなものです。まっことおいしゅうございました。
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なので、魚の立場からすれば、人間に感謝する必要性は全くないのです。人間が自然に介入した贖罪の形が魚道として顕現しているのです。魚道は、妖怪に例えるとわかりやすいでしょう。人工物がぬりかべ、魚道が一反木綿です。眼前にぬりかべが現れたので、一反木綿に乗って飛び越えるというわけですね。高飛びの予行演習にもなります。
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一口に魚といっても、性格は千差万別です。魚の中には、ぬりかべに体当たりをブチかますことによって、突破口を開こうとする猛者もいるかもしれません。当然の帰結として、ぬりかべに激突(Duel)した魚は圧死します。「あっしには関わりのねぇことでござんす」と言ってその場を立ち去りたいところですが、それが許されるのは紋次郎だけです。
紋次郎ではない我々は、亡くなった魚の冥福を祈りましょう。ぬりかべはそのままの形で墓石になるので、一石二鳥ならぬ一石一匹です。今までの話をまとめると、魚道というのは、魚が自然に通る道を塞いだことによる決まり悪さを払拭するためのものです。なので、魚には魚道を堂々と通る資格があります。もちろん、キマリは通しません。ビランとエンケとぬりかべが死守します。