愛の効用
かくも大仰なタイトルを付けてしまいましたが、以下の内容はその通りでございます。「どうした?冬の寒気に頭をやられたか?」という心配の声をかけて下さる慈悲深いお方もおられるやもしれません。いやはや、なんともありがたいこってすなぁ。ざけんじゃねぇよ!(キッズ・ウォー感)誰の頭がキャッチ・ア・コールドだって?せっかく風邪を引いたならなぁ、水っぱなをぶんぶん振り回しながら、丘の上を駆けずり回って「早めのパブロン!」と叫んでやろうか!?エッ!?
———クール・ダウン———
さて、正気に戻ったところで本題に入りましょう。なぜ「愛の効用」というこっぱずかしいタイトルを付けたのかというと『1984年』のある場面を読んで触発されたからであります。おっと心配めさるな。二重思考には陥っていないので御安心を。当該作の主人公は、ウィンストン・スミスという人物です。彼は、監視社会の中で息が詰まるような生活を強いられています。周囲からは人々が次々と「抹消」されていきます。そのため「自分はいつ死んでも構わない」という考えをごく自然なものとして抱いているのです。言うなれば「マイルドな強制収容所」の内部において、心身ともに打ちのめされているのです。
そんなウィンストンがある女性(数日前に頭蓋骨を石で叩き割ろうと思っていた女性)から紙切れを渡されます。周りに気取られないように、恐る恐るその紙切れを開いてみると「愛しています」という文字が書き記されていたのです。さぁ大変だ!これは一体どうしたものか!ウィンストンはその文言を目にして、しばらくの間、身動きを取ることができませんでした。監視社会においては、そのような内容の紙片を貰い受けることも罪に問われます。ですが、彼はその「犯罪証明書」とでも呼ぶべき紙片を即座に破棄することができませんでした。当惑と同時に「確たる幸福感」も抱いていたのです。まったく隅に置けねぇなぁ。
紙片に記された「愛しています」という言葉を目にして、ウィンストンの心の内には「生き続けたい」という欲望が沸き起こりました。愛には命を現世に繋ぎ止める重大な作用があるのです。突如として届けられたこの告白は、ウィンストンにとっての「監視社会というドライな世界に降り注ぐ慈雨」だったのです。まさに慈愛ですね。彼は「愛の効用」を一身に浴びることによって、その虚ろな魂を鮮やかに再生させたのです。とうの昔に死に絶えた魂が突如として蘇ったのです。その様子はまさに「愛のフェニックス」であります。このシーンを読んだ読者諸賢は「いいぞ不死鳥!その翼で死地を脱して自由に羽ばたけ!」と喝采を叫んだことでしょう。
———エターナル・ラブ———