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【第3話】世界樹の迷宮Ⅱ マイギルド創作話 【第2階層編】

※本記事は、世界樹の迷宮ⅡHDリマスターをプレイしたときの体験をもとに脳内設定を膨らませて書いたものです。

前話はこちら

※オリジナルの解釈や設定があります


・登場人物と相関図

※前回までの相関図

The Demon's Gate / 丑寅


女帝・Ⅰ


「サーロイネン!!」
一歩遅かったか。氷の術式弾を構えていたサーロイネンの体が貫かれる。
放った氷刃は一拍遅れて魔物の体に穿たれた。
魔物は痛みに耐えかねて暴れ、その勢いでサーロイネンは引き抜かれる。その体は背後の木に激突し、重力に任せて崩れ落ちた。
ハリューに状態異常を狙わせすぎたか・・・足違えの呪言を使わせておくべきだったか・・・?
ハリューはその衝撃に、声にならない慟哭をあげたように見えた。

…黒い影が舞い降りる。
このままではハリューの戦線復帰も難しい。
私は前に立つふたりに「あの歌」を歌うよう指示した。
ミヒンパーはこちらに向かって何か叫んでいるような・・・?

・・・
だめだ、聞き取れない。
気が付けば、周りの足元は火の海になりつつあった。

全身が痛い。
本当に死ぬほど辛いのに叫び声ひとつ満足に出せない。
目の前で仲間がもだえ、呻き、斃れていくのに身も心もまさに引き裂かれそうな感覚を負いながらわたしの体はどこの指先ひとつも動かすことができない。
このとき痛みの他に大きな感覚があるとすれば、それは誇張抜きに人生で一番の拒絶感だった。

前に立つ人影が、一つずつ炎に呑まれる。愛した人が消える。
そして、わたしの背中から別の赤色が湧き出ているのが見えた。
その姿は少しずつ小さくなってゆく。

何かに語りかけられる。

「ここまで何を捨ててきた?」
「これが夢に見た景色?」
「死ぬのが怖くないの?」

・・・そして私は、上記の全てをきれいさっぱり忘れた。

ある女史の記憶

天空を漂う城の民は
長き流浪の末
再び母なる大地に降り立つ


さて、今日は場所を割り出しておいた第2階層への道を開きに行く日だ。となれば、立ちはだかるはやはりあの魔物か…



・ ・ ・


Harju・Ⅰ


「・・・ん・・・」
半開きのまぶたを擦りながら目を開く。
懐かしいコートの感触が現実に引き戻す。
眠くなった覚えなんてないんだけどな。頭の中はまだぼやけている。


「なんだ、ハリュー聞いてなかったのか?じゃあもう一度説明するぞ」
そう言って彼女は、ペン先ほどに細く絞り出した雷の術式を筆記具にして、ぱりぱりと地面に描き始める。
ものの十秒ほどしか要しなかったものの繊細に描かれたそれは、我々がこの第2階層、燃え盛るような緋い樹海「常緋ノ樹林」で初めて遭遇したF.O.Eだった。

さんとーひみなみうり?

「そう、このサントーヒミナミウリは見た目の通り果実の頭を持った植物系の魔物で、頭を叩き割った中身を裏ごしして作るパイが絶品なんd」ガツン
「”みつがしらとびかぼちゃ(三頭飛南瓜)”だ。ハリューに適当なこと教えるんじゃない。」
サーロイネンが銃床で小突いたその足元に、ヴァスティラが頭をおさえてうずくまっているのが見えた。
「それで、カカリスト、そいつがさっきの地図上で確認できないF.O.Eなんだろ?」

いつものこと、という流れで呻いているヴァスティラをよそに和装の錬金術師は話を続ける。
「そうだ。そもそも我々がF.O.E.といった力のある魔物を、実際に視認せずとも地図上で確認できるのは何故だか知っているか?」
ミヒンパーが答える。
「ああ、前にアルケミストの冒険者登録がある街に寄ったとき、聞いたことあるぜ。確か空気密度の変化、とか言ってたような」
カカリストは肯定する。アルケミストの使う基本術式の三属性:炎、氷、雷、どれも空気中の元素状態を操って発動させているらしい。だから、彼らのような職業は空気の力を操ったり、逆に空気の状態の変化を敏感に感じ取ることができる。
それでこれまでのF.O.Eや、キマイラといった大型で強大、隠れもしないような魔物がいるとその存在による空気密度の変化を感じ取って、地図上に投影することができるらしい。一般に冒険者ギルドから各冒険者たちに配られる地図用の羊皮紙も、その作成にアルケミストの技術が詰められていて、アルケミストの所属していないパーティでもその恩恵を受けることができるのだそうだ。

そして地面に描かれた絵からは、三頭飛南瓜を地図上で確認できない理由を考察することができた。
この魔物の胴体に当たるであろう、複雑に絡みあったツタでできている部分だが、絡み合いながらも十分な隙間を至るところに残しており、さらにこの魔物の持つ特殊な耐性と相まって、周囲への影響を感じ取りづらいのだそうだ。

「だから、こうやって通った場所や地図で確認したF.O.Eだけでなく、自分たちの目で見えた範囲のものをなるべく書いておくものなんだよ」
みんなの反応を見るに、カカリストのこの言葉はよくある冒険者へのアドバイスのようなものだったのだろうが、ハリューにはどうにも示唆的な言葉に思えたようだった。


先のかぼちゃの魔物を避けるようにして歩いてきたので現在の位置と状況整理しようと号令がかかる。
ハリューはまださっきの言葉が引っかかるようで、その目に映ったあるものに興味を注がずにはいられなかった。


The Well / 兎追い


Sahloinen・Ⅰ


ハリュー?

異変にいち早く気づいたのは、やはりサーロイネンだった。
不自然に並んだ木の実の列をハリューがたどって行っている。ごく当たり前の嫌な予感しかしない。このままだと・・・!
わきめもふらずハリューのもとへ走り出し、その軽い体を押しのける。
振り返ったハリューのとぼけたような不思議そうな顔を確認して安心したのも束の間、その光景は高速で上に飛んでいく。「ぅあッ!?
思わず叫び声が出る。

足元を若木がきつく挟み込んでいる。どうやら魔物を捕らえるための古典的な罠にかかってしまったようだ。元々魔物のような存在だった自分にとってなんとも皮肉なものだが、ハリューが無事なことを確認して平静を取り戻す。


自分の声で異変を感じたらしい他の3人がどたどたと駆け寄ってくる。

「あーあー、なーにやってんだよ、こんな古典的な罠にかかるなんて」と呆れた調子のミヒンパー。
何か弁明を言いそうなハリューの気配を感じてサーロイネンがとっさに口を開く。「あ、ああ。すまない。ちょっと防具の素材になりそうなものがあって…これを外してくれないだろうか」
少しの間があってのちにヴァスティラが屈んで罠に使われている若木を丁寧に切り始める。
「こんなところに魔物用の罠か。誰が何のために…よいしょっと。」
カカリストはさっきからまるで何かに納得いっていないかのような面持ちで、人差し指の背側で自分の顎を触っていた。


・・・(怪しまれたよな・・・)
とっさに出た言葉には自分でも内心で驚いていた。
元々は自分の半身だったハリューを庇うという思考回路が働くのは自然だと自分に言い聞かせてはきたが、それだけじゃない何かがあるのではないかという考えは少しずつ増していった。
空飛ぶ城の伝説…この体に起きたこと…増していく考えが不吉をもたらすことがないよう祈り続けていた。


・ ・ ・


迷宮内の扉をいくつか潜り抜け、もうすぐこの階の地図も書き終えようかという頃、
またしても。
またしてもハリューの姿が見えない。

あいつは?ハリューはどこに行った?
(ふらふらと何処かへ行ってしまうので手を焼く・・・いや、むしろ自分がハリューを必要としているという方が正しいとでも言うのか?)

「おい、あそこ!」ミヒンパーが指差し叫んだ先、頭上まで枝を伸ばした木にのぼるハリューの姿があった。
ハリューが手をかけた枝の先には、中身の十分入っていそうな麻袋。他の冒険者が落としたものだろうか、ともかくその麻袋を狙っていることは明らかだった。

ハリューに注意を促しながら、いっときも目を離さず、その真下に陣取り続ける。やがて彼は麻袋をつかまえて、こちらに笑みを投げかけると獲物を落として寄越した。サーロイネンもそれをキャッチして安堵の表情をこぼす。
しかし、ハリューが経路を戻って木から降りようとしたとき、めきめきと枝がしなり、バシンとやや湿った音を立てて、ハリューの体を預かっていた枝は彼ごと落下を始めた。サーロイネンは手に持っていた麻袋をノールックでミヒンパーの方に放り投げる。

「わっっと、とと、、、」急な出来事を受けて麻袋でお手玉するミヒンパー。彼が両の手で袋をしっかり掴んだときには、彼の目の前にはうつ伏せのサーロイネンの上に仰向けのハリューが背中合わせで倒れていた。
サーロイネンが身を挺してハリューを受け止めたようだ。
安堵したのも束の間、ハリューの全身が赤くかぶれ始める。彼らにとっては知る由もないことだが、その木からは動物にとって有害な樹液が分泌されていたようだ。

すぐにミヒンパーに巫医術での治療を頼む。ヴァスティラとカカリストが辺りの警戒を買って出てくれた。
一人で勝手な行動をしないよう、ハリューに忠告する。「ごめんなさい、迷惑をかけた…」明らかな哀の表情で謝罪するハリュー。
彼が苦しそうにしているのを感じると自分も心が苦しい。それを少しでも和らげるようにハリューを抱きしめる。
彼の謝罪を受け入れるためではなく、自分の苦しみを和らげるため?それが知らず知らずのうちに自分の心を蝕んでいくのだった。

また、この時はコートのハリューを抱きしめた部分が濡れていたことも知らなかったのだった。

「もう、その辺でいいだろ。ハリューからお前に、だろ?この袋。」
少し鬱陶しく思っていたはずの声で我に返る。ミヒンパーから突き出された麻袋の中には、武具の素材にこそならないものの、この第2階層でも高額で売れる部類の珍しい採集物が入っていた。
「武具にできるようなものじゃなかったね…ごめん」ハリューはまた困ったような表情を浮かべて語りかける。
私が苦し紛れで言ったあれを‥責任を感じていたのか…
そうとも知らず、「いいんだ、私こそ気を遣わせた。」
目の前のハリューの髪が突然ぐしゃぐしゃになる。「おっ、すげーじゃんこんなレアもの、なかなかお目にかかれないぜ。よく見つけたなァ、でかした!」
ミヒンパーに褒められて、ハリューはすぐに楽しそうな、穏やかな表情を取り戻し、サーロイネンも一件落着と今度こそ安堵するのだった。


・ ・ ・


街への帰還後、宿屋にて、
女将ハンナが他の冒険者と喋っている、快活な声が耳に入る。
「樹海遊びはそんなに楽しいのかい?まったく、冒険者っていうのはしょうがないねぇ、こんな傷だらけになっちゃって。
女の子たちを連れて行く時は気をつけるんだよ?傷物にでもなったら魔物くらいしかお嫁にもらってくれなくなっちまうからね!」
それを聞いてミヒンパーが口を開く。
「おーそういえばさっき魔物用の罠に…グエ」すかさず愛想笑いのヴァスティラが彼の服を引っ張って二階に上がっていった。
ハリューは何やら心配と興味が同居したような目でこちらを伺っている。

・・・こいつら何か失礼なことを考えてないか??




Västilä・Ⅰ


「まだこっちに気付いているかわからないな。もう少しだけ近づいてみようぜ」
隊列の先頭で立ち止まるヴァスティラの横をミヒンパーがすり抜けようとする。
突然彼は足を止めて振り返る。俺よりも後ろの仲間に服を掴まれた彼は、掴んだ方の様子を見てたじろいだ。
つられて振り返ると、綺麗にあつらえていた純白の前髪を崩しながらも、その間からカカリストの鬼気迫る眼差し、つたう汗、小刻みな身体の震えを目の当たりにした。

ミヒンパーのうかつな行動に忠告するヴァスティラ。歩もうとしていた先には蒸気を吹き上げながら異様なオーラを纏い佇む、巨大な幻獣「サラマンドラ」の姿があった。こちらに目も合わせず4本の足を地面に這わせて寝そべっているものの、どこにも隙を見せない、もし攻撃をくらえば全滅が約束されていることはこの部屋に入った時点の空気感の違いで分かった。



数日前、フライングフィンは大公宮に赴いていた。
大臣より直々にミッションを授かったカカリストは、公宮内での立ち振る舞いこそ凛として堂々としたものだったが、外に出てからの言動には興奮を抑えきれないような様子があった。
以前からハイ・ラガードの各所と大なり小なりつながりを持っていたらしい彼女だが、ついにこの街一番の権力である大公宮から依頼をされるにまでなった。

金や権力なんかはトラブルのもと、というスタンスにいたヴァスティラだが、彼女は例外だった。
歳にしては青臭い物言いだが、夢に向かってひたむきに努力する・そのために使えるものは総動員する、という勢いとは裏腹に、切実さすら覚える姿勢には共感を覚えていた。殊に、それを直接受け取ったことのある彼だからこそより強く感じるところがあった。
それゆえ、彼女にありふれた祝いの言葉をかけたヴァスティラは返って来た言葉に面食らっていた。その短い一文でさえ、彼が自らすり減らした器を溢れさせるには十分だったのだ。
「ふふっ、ありがとう。これもお前が一緒に来てくれたおかげだ。どうかこれからも共に歩んでほしい。」



場面は戻って、常緋ノ樹林、8階。
一旦その場から離れ、作戦を確認する。今回のミッションの経緯もおさらいした。
今回のミッションの目的は「火トカゲの羽毛」。幻獣サラマンドラが脱皮をする際に残すものといい、とある秘薬の材料になるとして公国の古い書物に書かれていたことが近年わかったらしい。


ヴァスティラ自身も、公宮でミッションの説明を受けている時は後ろの3人に気を配っていて詳しいところまでは聞いていなかった。

(後ろの3人・・・
サーロイネンはいつものように、天空の城を目指すという目的が最優先のため寄り道となる今回の話を心底面倒そうに聞いていた。
ミヒンパーは、詳しく聞いていないが入国証発行時にごたごたがあったらしく、それと関わりの深い公宮内では落ち着かない様子でそわそわしていた。
ハリューは…大臣とカカリストのかしこまったやりとりを聞いて船を漕いでいた。
ちゃんと話を聞け。

で、今回の作戦は至ってシンプル。サラマンドラの気を引いて巣とするエリアからおびき出し、その隙に巣の中からお目当てのものを頂戴する。正面きって戦いはしない。
肝要となるおびき出し、そして巣への侵入ルートはすでにカカリストによって十分練られていた。周辺の地形や闊歩する他のF.O.Eの縄張りは調査済みで、地図上にわかりやすく色分けされていた。脳内でしたのだろうか、何回か「シミュレーション」を行なったと言っていた。

サラマンドラは桁違いに強い。昔ヴァスティラがハイ・ラガードで活動していた時も、自分はもちろんのこと、周りの他の冒険者は誰一人としてその高熱に滾る肢体に近づこうとはしなかった。
そして今回も、公宮での態度とは打って変わって常に警戒を怠らない者がいた。半人半魔とでもいうべきサーロイネンには生き抜くための本能のようなものが働いていたようで、目の前の圧倒的な力に対して睨みつけるほどの目力で、まさに”正しく”恐れていた。

作戦確認の終わりぎわに、カカリストに先ほどの狼狽ぶりについて小声で質問した。いつも気にかけてもらっているのが申し訳なく思っているのを隠すような声の小ささだった。
カカリストが答える。「今の私たちのレベルではまともにやり合えない相手だ。恐れも抱くさ。」
恐れている、と言った彼女だが、ヴァスティラの耳はそれ以上の恐れを感じ取っていた。

…結局、ミッションはカカリストの算段をなぞることに徹底したおかげで怖いくらいスムーズに達成されたが、成果を報告して喜ぶ彼女を見て、自分の中の戸惑いがより存在感を増していくのだった。

このまま彼女のそばにいることが正しいのだろうか。
この旅の行く末は一体どこなのだろうか。
自分は彼女に呼ばれるべき存在だったのだろうか。
自分はあの時助けられるべきだったのだろうか。



Rising Dragon / 氷の城


Västilä・Ⅱ


世界樹という一本の巨大な植物。その内部には迷宮が広がり、様々な顔を覗かせる。その顔とは自らの恵みを誇るように乱立する樹木であったり、恵みを享受しようとするものを厳しく審判する魔物たちであったりする。
そしてしばしばその両方であることも。この階層で出会った三頭飛南瓜をはじめ、大小様々の植物型の魔物を見て来た。
では聞こえてくるこれは一体・・・?
誘い込まれるかのようにいかにも意味ありげな広場にやって来たフライングフィンの一行。

おもむろに、あたりの木々から自然ではあり得ないような旋律と音の組み合わせが聞こえてきた。
だいぶ探索を続けてきたのでここらで休もうかと思っていたが、状況を警戒して場所を移動したほうがいいかと提案するサーロイネン。

いや、ここは任せときな、とミヒンパーが静止する。
すると、彼は突然木々の間からの旋律に合わせて歌いはじめた。こちらにアイコンタクトしてくる彼に「はいよ」と呼応し楽器を奏でる。カカリストも、私も混ぜろとばかりに雷の術式を器用に展開し、震えた空気から音を発している。観客二人の即興ミニライブの始まりだ。

音の合わせ方はまだ荒削りだが、何より聞いていて元気が湧いてくる。この昂りは聞く者に音に合わせて息を吸い、息を吐き、体を揺らさせ、昂りを増幅させていく。ハリューは表情と全身を使って音楽を楽しんでくれていた。サーロイネンも、武器を手に周りの警戒こそすれ、ハリューの楽しい気持ちがうつったのか、時折こちらを確認してはそわそわしたような顔でゆっくりと体を揺らしている。


・・・先ほどから短いパートに分けて数曲披露しただろうか。
"Hey everybody!!"
ミヒンパーは初めと同じ調子で歌い続けている。
まるで何かを待っているかのような、じれったくも聞こえるような歌い方に思えたのは気のせいか…?
"~'ey, everybody!!"
ミヒンパーと一瞬目が合い反射的にそらす。
鼓動が早まるのを感じる。
目を逸らした先ではハリューが何かを期待するように目を輝かせていた。
(戦闘でないのなら・・・)

何かに縋るように・祈るように絞り出したのは幽かな音量で、比重の異なる液体が混ざらず底にたまっていくかのような低音だった。
カカリストはひとり、空気の振動が確かに変わったことを感じ取って人知れず笑みを浮かべていた。

そのとき、奏でていた音に合わせて目の前の木々が、まるで命を持っているかの様に道を開き始めた!

みな唖然としていたが、ミヒンパーはすぐに満足そうに口角を上げ、曲の締めの流れに持っていった。
開いた道の先へ歩を進めると、そこには一つの宝箱が置かれていた。

ヴァスティラが手を入れて中を探る。見た目の割には中身の詰まっていない箱だが、隅の方に何やら紐のようなものが触れた。
拾い上げてみると、それは術者の精神を安定させ感覚を研ぎ澄ますことで幸運を呼び込むとされる、幸運のネックレスであった。
戦闘での役柄から、ハリューに渡す提案に異論は無かった。
(ある意味、この道を開いてくれた功労者だったのかもな)
目を輝かせてお礼の言葉を口にするハリューを見てそんなことを思っていると、突然背中を手荒く叩かれて「ゔっ」と呻き声が出た。
「お前もいい歌歌うじゃねーか。」とミヒンパー。やれやれ。おじさんづかいの荒い青年だ。。。


Myhinpää・Ⅰ


ミヒンパーにはわかったいた。その木々が歌によって動くということを。家を出ても自分の足で立てるように、旅した各地で出来る限りの知識を吸収した。歌が植物に与える影響、歌が冒険者に与える影響、そして、歌が魔物に与える影響。自分の歌で何ができるのか確かめたかった。
ヴァスティラをたたえたミヒンパーだったが、心の内には、本職のバードであるヴァスティラの潜在能力を目の当たりにして感銘を受けたという思いと、本当は自分の歌で木々を動かしたかったという思いとが同居していた。

彼にはもう一つの動かしたい対象があった。サーロイネンだ。初めて歌を聴かせた時からさっきのミニライブでの反応に至るまで、確信していた。俺の巫術を歌に乗せて唱えるスタイルは間違いなんかじゃない、と。
サーロイネンの中から顕現したと思われるハリュー。彼はサーロイネンとは対照的に全身で音楽に反応してくれている。戦闘以外で歌っていると普段は邪険にしてくるサーロイネンだが、彼もハリューの反応は穏やかに見守っているようだった。
だから、また新しいフレーズ・新しいメロディを思いついたら試すんだ。
何か、他に試せることはないだろうか。

そんなことを考えながら来た道を引き返し始めると、そこには筋骨隆々とした魔人が道を塞ぎ佇んでいた。F.O.E「森林の破王」である。4つの目に青白い皮膚、赤髪を靡かせ、6本の腕で様々な武器をふるうー異国の伝説に聞いたことのある武神を思わせる異形の怪物は、こちらを品定めするかのようにその場から動かないでいる。

「はぁ、さっきは騒ぎすぎたな。ま、ウォームアップは十分だろう?」とサーロイネン。
そのつもりだ、とばかりに歌い始め、巫術を発動する。それが開戦の合図となった。

四目六臂の相手は流石に隙がなく、こちらの前衛2人がかりでも捌き切れない。カカリストの氷の術式でも足止めするのが精一杯だった。サーロイネンのチャージスキルは強力だが発動まで時間がかかり隙だらけになる。ここはハリューの呪言が効き始めるまで相手の攻撃をいなしておかねば・・・
カカリストの方針で、パーティみんなのスキルもだんだんそろってきており、ハリューの呪言を起点に一気に攻勢に転ずる戦い方が板についてきていた。

・・・術式弾を装填する音が耳に入った。ハリューの呪言はまだ効き始めていないがサーロイネンがチャージアイスの準備を始めている。「な、あいつ…!」森林の破王の4つの目はそれを逃さなかった。大きく振りかぶって俺たち前衛をひと払いに薙ぎ、後衛の銃士のもとへ飛びかかる。

「ぐっ」巫剣を支えにして立ち上がると、サーロイネンに巨戦斧が降りかかるところであった。
ロ…!
最悪の光景がよぎったミヒンパーだったが、その瞬間発射準備が整ったようだ。サーロイネンは間一髪のところでひらりと身をひねってかわし、待っていたとばかりに敵の懐に入り込む。冷気を纏った強力な弾丸が敵の胴体を貫き、魔人の肢体はその衝撃に一瞬跳ね上がったかと思うとだらんと動かなくなった。

勝利を掴んだものの、キマイラとの戦いでもよぎった光景とサーロイネンのことが気掛かりのまま街まで帰還したのであった。




Kakaristo・Ⅲ


・・・ついに4度目だ。久々に人形兵たちが大破して帰還してきたが、収穫はあった。
1度目は、サーロイネンが初めてこの街に降り立った時。
2度目は、人形兵を使ってサーロイネンをおびき出した時。
そして3度目はつい先日、思いがけない場所での出来事だった。
第2階層6階、サーロイネンが魔物用の罠にかかっていた時だ。そばにはハリューもいた。本来罠にかかるのはハリューの方だったのだろう。罠の場所まで明らかに作為的に並べられていた木の実、それに何かを感じ取っていたと推察し、その時の木の実をこっそり数粒拝借していた。やはり、これまでと似た呪いの痕跡があった。
だがそうすると、その出所はハリューでもサーロイネンでもないことになる。一体誰が・・・?
そしてこの4度目で確信した。大破した人形兵たちには明らかな呪いの痕跡が残っていた。消去法。ハリューもサーロイネンも、同時期には一緒に迷宮に潜っていた。彼らであるはずがない。何者かが私たちの邪魔をしている…
立場上、いつか政敵(?)は出るものと思ってはいたが、手段が少々厄介だ。
…これは私のものだ。


…しかしきっかけはなんだろうか。樹海磁軸や磁軸の柱を使えるようにしておいたおかげで人形兵にいろいろな場所での採取を頼むようになったり、行きつけの酒場の店主の勧めでブシドー型人形兵のユバスキュラを試験的に武術大会に出してみたりしたが、露出が増えたせいで他の冒険者と何かあったのだろうか。
※ちなみに武術大会では流石に本職のブシドーには敵わず、下位に終わったが、観客は物珍しそうに観ており、大いに喜んでもらえた。

他の冒険者といえば、先日久しぶりにエスバットのライシュッツと出会った。ハイ・ラガード公国でもトップとされる2人組ギルドの銃士だ。見た目の通りの老齢だが、こちらもたじろぐほどの威圧感は健在だった。
実力者なのは間違い無いのだが周りを見下しがちで、力のないものが無闇に命を散らさぬようやたらと引退を勧めてくる、嫌味なヤツだ。この間も、まだそんなガラクタで遊んでいるつもりか云々と。はぁ。人形兵たちのことを言ったのだろうが、こいつらには散らす命なんて無いのだから放っておけばいいだろ・・・
とはいえ、今回の人形兵大破の犯人候補とはとても思っていない。彼はやるときは正面から実力行使するタイプだからな・・・




それから、このことについても書き留めておく。
サラマンドラに近づこうとしたミヒンパーを止めた時、ヴァスティラにはうまく言えなかったが、何か物凄く嫌な予感がした。いや、考えなしにサラマンドラに近づくのに嫌な予感がするのは普通のことだろうが、もっとはっきりと、眼前に「NO」が突きつけられた、そんな感じがして慌てて手を伸ばしたんだ。

カカリストの手記


Ouroboros / 影


Myhinpää・Ⅱ


黒髪の巫医アーテリンデ。随分久しぶりに俺以外にドクトルマグスをやっているやつをみた気がする。ギルド「エスバット」はこの街じゃ有名なようで、そのリーダーである彼女と従者ライシュッツはここいらでトップの腕利きの冒険者と聞き及んでいる。
なかなかお目にかかれない職業同士、相手がトップクラスと聞いて、俄然モチベーションが高まっていた。
「…じゃ、この先に進みたいなら、大公宮で正式にミッションを受けてから来てね。」
・・・高まったモチベーションは無情にも消えた。



そんなわけで今は大公宮で、大臣ダンフォードからミッションの説明を受けている。
あのときサーロイネンたちが暴れた後始末をしたあとで、入国証の後始末もしにここへ来たが、周りの衛士たちのひそひそ話す雑音。いい思い出がない。。。

落ち着かない様子のミヒンパーだったが、大臣の発したある言葉にぴくりと反応を示す。
『じゃが…、ヤツは数日後には、何事もなかったかのように再び蘇えるという。』

第2階層の最奥、第3階層への階段の前に番人のように立ち塞がる「炎の魔人」。その圧倒的な質量を誇示する巨体、炎を操る能力、そして何よりも恐ろしいのはその生命力だという。

たとえ討伐しても蘇る魔物…
ミヒンパーの脳裏にあのふたりの姿が浮かぶ。宿屋への帰り道、前を歩くハリューとサーロイネンの姿が重なり、あのときの黒い魔物の姿が現れた。
「ーっ!」
まばたきの間に黒い影は消えていた。ハリューが興味深そうにこちらに振り返る。
「どうした?顔色が悪いぞ?」とカカリスト。
「あーわりぃ、ちょっと疲れたみたいだ。やっぱあの場所落ち着かねぇな」
「歌バカのお前でも疲れるんだな」とサーロイネンが冷やかす。
「なんとでも言えー」疲れていたのは事実。炎の魔人討伐を明日に控え、いつもより早く眠りについた。
…もう一度、あれを試すか…?


第2階層10階最奥、そこは、試練の間と呼ぶのにふさわしい場所だった。そこそこの広さの部屋に、行手を塞ぐ炎の魔人と対峙するフライングフィンの5人。他に邪魔をする者はいない。
ヴァスティラが楽器を、ミヒンパーが巫剣を構える。
炎を操る魔物の住処だけあって乾燥した空気で火がつきやすいのか、落ち葉の溜まった地面についた杖の先からは小さな火花が走った。


スリー、トゥー、ワン…
巫剣をくるりと回し、全開で歌い出す。並び立つヴァスティラも演奏を始め、味方の能力を上げていく。それと同時に炎の魔人の周りから火柱が噴き上がった。第2階層最後の戦いが始まった。

炎の魔人はその巨体には似合わない跳躍力で高空に跳び上がり、陣形を組んでいたフライングフィンに狙いを定める。
散り散りにその場から逃げ出すと、さっきまでいた場所に炎の魔人がどしんと勢いよく着地し、波飛沫のように炎の輪が展開された。陣形を乱すのを余儀なくされ、歌が途切れる。だが敵の方から近づいてきたのは好機だ。リズムを取り直してもう一度頭から歌い始める。事前にヴァスティラ・カカリストと打ち合わせしておいたセットリストが展開されていった。

鋭い爪を持った両の拳と炎を操る魔力で近距離〜中距離を得意としているらしい魔人の攻撃はハリューの呪言で抑え込んでなお苛烈で文字通り手を焼いたが、次第に規則性がわかってきた。ミヒンパーのリードする歌の調子には炎の魔人もなんらかの反応を示しているようで、この歌を歌ったらこう、というパターンとでもいうべきものを、体系立てて言うには足りないがなんとなくは感じ取っていた。
これを続けていけば勝てる、いやそれだけじゃなく、自分の歌の道を1歩前に進めることができる!そう思った矢先、突然炎の魔人の様子が変わった。炎を纏った握り拳による打撃中心だったのが、両手を開いたままこちらに向かってくる。前衛二人、ヴァスティラとミヒンパーをその巨大な手で掴み上げその体を引き寄せた。

魔人の蓄える灼熱地獄の体温が伝ってくる。ヴァスティラが火幕の幻想曲を重ねてくれていたとはいえ、悪夢のような熱さだった。
寒いよりは暑い方が心地いいと感じる俺だがこれは度がすぎている!命の危険を感じるレベルの温度に苦しみ歯を食いしばり、呻き声を上げた。

炎の魔人は周囲に炎の壁を作り、他の仲間を近づけさせないでいたが、少ししてやっと氷の術式を盾にしたカカリストが輪の中に入り、魔人に捕まっているヴァスティラを凝視する。
「くっ、そいつを離せ!」カカリストから氷弾が一閃し、ヴァスティラの捕まっている手の付け根を突き刺した。炎の魔人は痛みで手を開き、ヴァスティラが解放される。
「いてて…"そいつ"呼ばわりって、ひどくないかい?」火幕の幻想曲がよく効いていたヴァスティラは軽傷なようで、マントの裾についたススを手で払っている。
それを確認した頃、ミヒンパーも解放された。彼の捕まっていた手元にもサーロイネンがアイスショットを命中させたのだ。
炎の魔人は獲物を手放さざるを得なくなり歯軋りして惜しむような表情で息を切らしている様子が窺えた。

サーロイネンは森林の破王戦で調子づいたのか、敵の動きが分かっているのか、好機とばかりにまたもチャージアイスを撃つ構えをとっている。

炎の番人はそれを見逃さなかった。


Sahloinen・Ⅱ


ロイネンっ!!
ミヒンパーが叫ぶが、一歩遅かった。氷の術式弾を構えていたサーロイネンの体が貫かれる。
カカリストの放った氷刃は一拍遅れて魔物の体に穿たれた。
魔物は痛みに耐えかねて暴れ、その勢いでサーロイネンは引き抜かれる。その体は背後の木に激突し、重力に任せて崩れ落ちた。
ハリューはその衝撃に、声にならない慟哭をあげたように見えた。

…黒い影が舞い降りる。

ミヒンパーはこちらに向かって何か叫んでいるような・・・?


・ ・ ・


目を閉じる。

自分が倒れ込んだはずの地面の感覚が波打つように何度も押し寄せてくる。
それは自分の体にぶつかり、しぶきをあげてきらめいた。

誰かが楽器を奏でながら歌っている。
小さな術師をおぶって歩く自分の姿が見える。

(これは…走馬灯…か…?)
このときは何かがちがっているような気がした。


再び波が打ち寄せた。

『ここまで何を捨ててきた?』
『これが夢に見た景色?』
『死ぬのが怖くないの?』

・ ・ ・


目を開けると、何か鬱陶しく思っていたはずの声が今度は心地よく思えてきた。
俺の歌をきけぇ!!!


再び両手に掴んだ引き金を引いた。相反する2色の弾丸が螺旋を描きながら、炎の魔人に飛んで行った。相手の目線は自分と同じほどの高さにある。魔人は両手で弾丸を受け止めているが、弾丸の回転する勢いは未だ止まず、じりじりと相手を押し戻している。

急に渇望と腹のあたりに違和感が襲い、両手に持った巨銃を地面につき地に伏せる。驚きの表情をこちらに見せるヴァスティラとカカリストをよそに、ミヒンパーはにやりと笑みを浮かべていた。歌が再開され、ヴァスティラも戸惑いつつもミヒンパーを見て何か決心したように演奏を始めた。


それを聴いて自分の中から何かの声を感じた
…Harju!!

命…………を…食…え…


手元から黒い影が数本伸びていき、炎の魔人に向かっていくのが見えた。
その影は、二つの翼で包むかのように、回転している銃弾ごと炎の魔人を覆った。相手の姿が全て黒で塗りつぶされたころ、さっきまでの渇望は急に消え、代わりに耐え難い疲労に襲われた。しかしながら、身体が軽くなったようや気がした。
薄目を開けると自分と並んで眠っているハリューの姿が見えた。


・ ・ ・



Myhinpää・Ⅲ


カカリストには「あの歌」を歌えと言われたが、別の歌にすべきだと直感でわかっていた。

まさかこれほどとは。
先ほどまで俺たちを苦しめていた炎の番人は今、その鋭利な爪を自分自身の腹に突き立てていた。
その理解不能な行動に動揺し距離を取ると、炎の魔人の全身が毒々しい薄紫の炎に包まれた。そのただならぬ光景に、3人はサーロイネンとハリューを安全なところまで避難させながらただ固唾を飲んで見ていることしかできなかった。

サーロイネンはミヒンパーの腕の中で気を失っていた。あの絶望を体現したかのような傷跡はなく、代わりに衣服に穴が空いているだけだった。ヴァスティラに抱えられて満足そうな顔で眠るハリューに目をやる。
確かに先ほど、この2人は一つの黒い魔物となって敵に強烈な一撃を浴びせた。

ミヒンパーは考察する。俺の歌は特定の魔物に影響を与える性質がある。大臣は、炎の魔人は何度でも蘇ると言っていた。サーロイネンは魔物になれる。


やがて薄紫の炎と魔人のシルエットは小さくなっていき、最後には跡形もなく消えた。フライングフィンは恐るべき生命力の魔人を下したのだ。

ミヒンパーは自分の歌の道の可能性に興奮するとともに、心のどこかに恐れを抱いたのだった。

カカリストは珍しく終始無言でことの成り行きを見守っていた。



女帝・Ⅱ


「まだこっちに気付いているかわからないな。もう少しだけ近づいてみようぜ」

………

ヴァスティラが身を挺して彼を庇おうとするが、すでに遅かった。
目の前の2人の影は、この森を覆う鮮やかな木々と同じ色をした炎に包まれていた。

同じ景色が私の隣に立つ仲間にも映る。
応戦してどうにかなる状況ではなかった。

憧れのあの人を真似て氷属性の技を磨いている私だが、他の属性を使わないわけではなく、どんな事態にも対応できるよう、全属性最低限の技は扱えるようにしている。
それでも、
ああ、炎か…今は嫌だな…あの人に似つかわしく…ない…
身につけ積み重ねてきたもの全てが、ただ溶けて蒸発してゆくのを待つばかりだった。

そうして術式の残り香、煙のような匂いと、黒い影に視界が埋め尽くされた。。。

(記録はここで途絶えている)

ある女史の記憶


続く



References

・前話


・前話を書いた時に考えてたこと


・プレイヤー目線の記録

・次話

・大なり小なりオマージュ元
新世界樹の迷宮2、エイリアン、マクロス7、ゼノブレイド3、など


余談&実体験

今回の「ってなんで俺くんが?」のコーナー

↑このイベントに感化されたのがストーリー風のもの書こうと思ったきっかけだったので今回形にできてよかったです。




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