TRPGシナリオ製作術 【非線形シナリオは3つの考え方で】
線形シナリオ、非線形シナリオというワードに触れていきます。
重要な考え方は以下の通りです。
スタート地点はあるけどエンディング地点は書いてはいけない
ストーリーの原動力はキャラクター設定に頼ることになる
GMはクライマックスをアドリブで盛り上げ、PLはそのクライマックスにアドリブで乗っかるのが醍醐味
上記の3つのポイントを抑えることが、非線形シナリオの良さを発揮出来るポイントだと思います。
彡 線形シナリオと非線形シナリオ
圭 何が違うのか?
違いについては調べると一瞬で出てきます。要約すると、スタートとゴールで線になるようなストーリー作りがされているシナリオを線形シナリオと呼びます。途中で分岐ルートがあろうが、それぞれ分岐エンディングで終わろうが、とある卓でゲームが始まってからから終わるまでを一本の線で表現出来るように作ってあるシナリオです。
逆に、そうではないシナリオを非線形シナリオと呼びます。作り方は単純に『シナリオ側でエンディングを書かない』ということです。つまり、スタートの"点"しか用意しないので、エンディングの"点"がありません。1つの点だけでは線を書けない、つまり非線形シナリオということです。
エンディングを書かないということは、シナリオを始めたあとは自由です。どんなエンディングを迎えようと全部GMとPLの発想次第ということです。
例えば『PLに「PC達は今、お昼の渋谷に居ます」と描写する』としか書いてないシナリオがあったとしましょう。
実は、こっから先何やっても良いと言われたら、意外と面白そうだと思う方もいらっしゃると思います。
この描写文をどう捕らえるかはPLに任せることになるので、
『どうして渋谷なの?』
『なぜPC達は集まったの?』
『お昼ということはお腹空いてる?』
『自分のPCと他PLのPCは知り合いだったの? それとも偶然?』
『みんなのPCは日本人だけど、自分のPCキッチキチのスウェーデン人なんだけど?』
などなど、お昼の渋谷に集ったPC達というだけでもTRPGは成立するかもしれない可能性にお気づきかと思います。
圭 結末を書かないTRPGシナリオなんて成立するの?
今回は上記を例にして、少しだけゲームを進めてみましょう。PC達にも設定があるはずなので、PC達がお昼の渋谷に集った理由というものがいくつか浮かんでくるはずです。
どうやらPCの中にスウェーデン人がいるようなので、観光で訪れたのでしょうか。他のPCとは知り合いで、東京観光の案内を買って出たのかもしれません。
いや、スウェーデン人マフィアを歓迎するために日本のヤクザが集まって、お昼の渋谷で寿司と日本酒でもやりますか、という話なのかもしれません。
いやいや、スウェーデン人は実はかなり高貴なお方で、日本の公安とSPのお付きで渋谷を通過しているだけであり、スウェーデン人貴族の公務中なのかもしれません。
いやいやいや、実はスウェーデン人はタイムスリップしてきちゃって困っているところに、親切な日本人が声をかけたのかもしれません。
PC達の設定から『どうしてお昼の渋谷で集まっているのか』に納得の行く答えがいずれ出るはずです。
そう、実は設定さえあればTRPGは原動力を得て前に進むことができます。前回の記事では謎と選択が脚本の原動力だと書きましたが、設定があればその設定に沿った選択が出来ます。そのため、キャラクター設定だけでも手漕ぎボートぐらいの原動力を得ることが出来るわけですね。
もちろん、『PLに「PC達は今、お昼の渋谷に居ます」と描写する』としか書いてないシナリオでは流石に限界があり、PC達の設定だけでシナリオを進めていくと、東京観光して終わりそうなシナリオなんですが、非線形シナリオは『結末は書かないけど設定を大量に書く』のが大変重要です。
彡 非線形シナリオとは、舞台設定を書きまくること
PCの設定だけでも、ゲームは何らかのストーリーを伴って何とか前へ進みます。手漕ぎボートとはいえ、沿岸を散歩する感じでのんびり楽しく遊べている感じです。
しかし、結末を書かなければ何を書いても良いと言われたら、好き放題最高のシナリオを書いてやるぜというのがシナリオライターというもの。
非線形シナリオでは、結末以外をとにかくたくさん書いておくことが重要です。
前回の例を再び使って考えてみましょう。
東京の渋谷で集ったPCたちですが、彼らが集った理由は彼らなりの理由としてPLに任せておいて、渋谷や渋谷近郊、東京都、日本、世界では、『誰がどこで何をどのような理由でどうしている』のか、そのNPCやNPCグループが渋谷や日本や世界にどのような影響を及ぼしているのか、その結果どのような出来事が渋谷辺りで発生しているのか考えて、舞台設定として記述しておくのが非線形シナリオの手っ取り早い書き方です。
つまり、キャラクター設定が原動力になるのだから、大量のキャラクターを用意して、シナリオが前へ進もうとする動力を確保するのです。
圭 キャラクターを増やすと世界は広がる
そのためには、とにかく大量のNPCたちが必要です。そして、彼らは彼らなりの理由で好き勝手に行動している渋谷を想像して下さい。
シナリオにはNPC個人のデータ、時にはNPCグループや組織のデータ、もっと大きく国家のデータとして、主要なNPCたちとグループや組織の設定を書きまくるのが非線形シナリオです。
大量のNPC達を取りまとめるリーダー的な主要NPCを用意し、そのNPC達それぞれがそれぞれの思惑に沿って、シナリオスタートの時点で勝手に動きだすとしましょう。PCたちがいなくても勝手にストーリーが出来上がりつつありますが、そういった舞台設定と化したNPCたちとPCたちが出会った結果どうなるのか、というのが非線形シナリオの醍醐味であり、コンセプトになるでしょう。
線形シナリオでは、特定のNPCに対して協力するのか拒否するのかみたいな2択でもって分岐ルートを作って……という流れがありがちです。
しかし、非線形シナリオにおいてはそもそも出会うかどうかすらPCの行動の選択次第であり、PCが能動的にNPCに会いに行くシーンになる場合もあれば、ストーリーの流れでNPCと出会う受動的な出会いの可能性もあり、そのNPCがPCに何を言うのかも状況によって千差万別であり……といった具合になります。
そして、シナリオに登場させるNPC全員の設定を事細かに書く必要もありません。ちょっとしたNPCはGMのアドリブに任せられるように、組織やグループの構成員一人一人の設定をシナリオに記述せず、構成員としてひとまとめにある程度の情報を書いておけば、GMがそれを汲んでくれることでしょう。
PCの設定はPLが活かす必要がありますが、GMがNPC達の設定を活かしやすいような情報に整理整頓するのも重要です。線形シナリオは流れがあるので頭に入りやすいですが、非線形シナリオは資料として情報が参照しやすい工夫などを心掛けましょう。
圭 GMは難しい、けどシナリオ作者がGMするならギリなんとか
そうなってくると、大変なのはGMです。NPCの設定を全てを把握する必要は無いにしても、どのNPCがPCたちと関わってくるかも分かりませんので、どんなNPCのロールプレイもできるようにある程度設定を読み込んでおく必要があります。
線形シナリオはストーリーの流れが決まっているため、脚本を覚える感覚でシナリオを覚える事が出来ます。しかし、非線形シナリオは舞台設定がたくさん書かれている設定資料集のようなものです。脚本と設定資料集はかなり感覚として違います。
ここが、非線形シナリオの弱点とも言えるでしょう。GMはとんでもない量のテキストを把握し、数々のイベントシーンを想定しておきながら、実際想定したシーン通りに進むとも限らず、NPCのセリフをアドリブで考えながら、次のシーンをどう演出するのかも同時に考えつつ、PCのセリフや行動宣言を世界に反映することによって、シナリオ内の状況を刻一刻と描写していく必要があります。
しかし、シナリオ作者がGMをするのなら話はガラリと打って変わって、何とかなりそうです。シナリオを文章として理解する必要はなく、脳内で既に出力済みだからです。
その場に必要だと思ったNPCもパッと登場させることができますし、シナリオ中の流れに合わせて設定を改変することを思いついても、他NPCたちとの兼ね合いといった整合性を確認する時間がかなり短縮できることでしょう。
圭 NPCを用意できない舞台設定は茨の道
大量のNPCが必要であると書きましたが、正確に表現するならば『大量の舞台設定』が必要です。NPCを増やすのが手っ取り早いですが、人類が滅んだ後の地球を舞台にするなら、滅んだ文明の世界に大量の情報を詰め込むことになります。終末世界を題材にした作品はたくさんありますよね。
しかし、人物がいないのは、シナリオとして結構単調で孤独になりがちです。手記や手紙、本やテキストファイルといったものを情報としてPCは手に入れることができます。しかし、NPCが居れば会話によってたくさんの情報のやり取りが可能なのは目に見えています。そういったNPCはPLにとってもGMにとっても、話を展開させやすいので居て欲しいはずです。
しかし、そうしたNPCと出会えない流れはPLにストレスを感じさせます。緊張と緩和という脚本技術から考えると、ストレスは解消されなければいけません。ということは、会話できるNPCと出会えないストレスは、会話可能なNPCに出会うまで解消されないということです。
そのため、別の方法で過剰にストレスを緩和させるか、ちゃんと会話可能なNPCを登場させる流れを用意しておく必要がありますが、非線形シナリオにはエンディングを書くことができないので、流れを作ってしまうとそのままエンディングにならないように気を付けないといけません。PCたちの目標が『終末世界で生きている人と逢う』だった場合、なんなら目標達成してしまいます。
非線形シナリオには結末が無いというのが、非線形シナリオ特有の良さです。終末世界を題材にするに限った話ではありませんが、非線形シナリオである意味を考え直しましょう。PL達に提供したいエンタメは非線形シナリオなんでしょうか。
非線形シナリオに向いている舞台設定と向いていない舞台設定があります、少なくともNPCの登場しない舞台設定はかなり難しいので気を付けましょう。
彡 じゃあ非線形シナリオの見せ場って?
圭 クライマックスも設定出来ないなら盛り上がりに欠けるのでは?
結末を書けないということは、クライマックスも書けないのと同義です。どこがクライマックスなのか決めてしまうと、結末も自ずと決まってしまうからですね。
しかし、脚本技術というものはクライマックスを如何に盛り上げるかに注力するために開発されてきました。ゲームプラン技術もそうです。
そういった技術たちを使わずに、どうやって盛り上がるクライマックスを演出すれば良いのでしょうか。
それは、GMとPLのアドリブ力です。つまり、シナリオ側では『面白い舞台設定』を最大限用意し、それ以外は全てGMとPLに任せるということになります。
これは、ある意味では楽ですし、ある意味では難しいことです。NPCを魅力的なキャラクターに仕上げる脚本テクニックやゲームデザインテクニックを使用することは出来ますので、舞台設定だけ考えるのは楽だと思う反面、いざ実際にゲームが始まってしまうと、エンディングに進んでいくにつれてアドリブに継ぐアドリブに継ぐアドリブ、と無限アドリブをしながら皆が楽しかったと思えるゲーム体験を出来るような結末に着地しないといけません。
そのためには、即興で脚本テクニックやゲームプランテクニックを使用してストーリーを盛り上げる必要があります。伏線のつもりだったものが最後に回収出来なくてもご愛嬌として、ある程度の妥協は仕方のないことですが、それでも線形シナリオよりGMとPLが協力して物語の完成度を高めていくより前のめりな体勢が必要です。
圭 問題は用意できるけど、解決方法は用意できない?
シナリオというか物語には、何らかの問題発生が付き物です。問題が発生すると、解決するためにキャラクターたちは選択し、行動していく必要が発生し、ストーリーが前に進むからです。
非線形シナリオの場合、個々のNPCたちそれぞれが大小様々な問題を抱えてもらうのが安定した問題提示方法です。
しかし、問題解決の具体的な方法までを考えてシナリオに書いておく必要はありません。大抵の場合は、問題解決をもってエンディングとするからです。問題解決方法を書くということは、エンディングに行く方法を書いてしまう事と同義です。それでは自ずとエンディングも固定されてしまうため、問題解決方法まで記述しておく必要はありません。
その代わり、それぞれのNPCが抱えてる問題や、長所や短所といった特徴、バックストーリーを、その他の様々なNPCたちの問題や特徴と絡めておくのは重要です。
とあるNPCの問題を解決するために手を貸してくれるかもしれないNPCや、そのNPCの問題が解決されると困るNPCなどが居ることによって、勝手に協力関係や対立構造を発生させることができます。
コンフリクトという脚本技術はキャラクター設定にも応用できるテクニックです。2つの大きな組織を対立させるのか、大きな組織だけど派閥があって、内戦を引き起こしているのか、小さな組織をいくつか登場させて、その組織たち全員が互いを潰し合うのか、もしくはPCの思惑によっては小さな組織同士が合併してより大きい組織と衝突するのか、これらの展開が半自動的に発生するような流れを想起させるキャラクター設定を用意することによって、エンディングをアドリブで生み出しやすい状況を作っておくことはできます。
しかし、PCたちそのものに問題をもたせるのもまた、シナリオのスタートを勢いづける有効な手段です。これは線形シナリオでも同じですよね。非線形もスタートという点を打つことは出来るので、その点を凝ったものにする事によって、PCちは濃厚なスタート地点から出発することが出来ます。
圭 シナリオの見せ場も、コンセプトも題材もテーマもアドリブ
というわけで身も蓋もないのですが、非線形シナリオはほぼ全てをGMとPLのアドリブによって構築していきます。NPCの設定にテーマを持たせることは出来ますが、そのNPCが物語にどれほど関わることが出来るかもまたアドリブ次第であり、ストーリーをシナリオ側で過度に強制するのは、非線形シナリオの良さを削ることになります。
もし強制させたい展開があったとして、どこまで強制させるかは考えものです。そういった塩梅もまたGMに一任することになります。
彡 まとめ
線形シナリオと非線形シナリオ、どちらが良いとするかは好みの問題でありますが、ゲーム体験としてはかなり別物です。
そして、主流はもちろん線形シナリオであり、それは『SNSにおけるシナリオの"通過"報告』から見ても非線形シナリオはかなり時代に逆行してそうです。
それでも、シナリオ作者として非線形シナリオに挑戦してみたい場合は、現代を舞台にしたものが手っ取り早くてオススメです。現代設定ならば、GMもPLも現代のあらゆる事を想像しやすいので、アドリブもスムーズにできるはずです。流れるようにアドリブに継ぐアドリブの果てにある、誰も知らない結末を迎えるというゲーム体験こそ非線形シナリオの醍醐味なので、それを表現するために頑張りましょう。
余談ですが、YouTubeやTwitch配信者の方々が参加している『ストグラ』というコンテンツがムーブメントを起こしているのをご存知でしょうか。
グランド・セフト・オートというゲーム内で、架空の都市『ロスサントス』という街を舞台に、配信者としてではなく、キャラクターとしてRPしながら特に台本などもなく好きに遊んでいる様子を配信しているコンテンツを『ストグラ』と言います。
筆者もかなり面白いと思って拝見しています。
しかし、考えてみれば非線形シナリオと同じことをしているということになるでしょう。
たくさんの配信者たちがキャラクターたちとしてRPしていますので、それぞれ目的があって好き勝手に行動しています。
その中でキャラクター同士の交流がドラマを生み、時には大きな出来事に発展していき、街を巻き込んで大騒動になる……というのは、まさしく非線形シナリオの目標とも言えるゲーム体験なのではないでしょうか。
『ストグラ』というコンテンツが盛り上がっているという意味では、非線形シナリオには可能性があるという見方ができますし、シナリオライターとしても挑戦しがいのある題材かもしれません。TRPGシナリオとしては明らかに流行りと逆行している非線形シナリオですが、部分的にでも取り入れる方法もあるはずです。例えば、シナリオ道中に自由度を持たせようとした場合、キャラクター設定がストーリーを展開する原動力になることを知っていれば、流れを書かずに、設定だけでもエンディングに向かうことは出来るはずです。
是非、非線形シナリオをネタとしてストックしておくことをオススメします。
この記事が誰かのシナリオ制作の一助になれば幸いです。