本屋にて
住宅街の静寂を軽トラの屋根に搭載されたスピーカーが切り裂いてゆく。廃品回収の騒音が高層ビル群の曇り空にこだまし、土曜日がどよめく。目覚めても目覚めても、意識はまだ、夢のなか。休息という名の堕落。老人たちのディスカッション。豚運搬車の横転に乗じて脱走した豚たちが首都高を駆け巡る。文芸誌を買い忘れていたことに気づく。高級魚として知られるシマアジは伊豆諸島沿岸の水深30-50mのところに多く生息する。人間だけでなくサメにとっても好物であり、貴重な水産資源でもある。シマアジの話を聞き飽きた人間は得てして車窓の外をぼんやり見つめる。本屋に行く夢を見る。それはデパートの3階か4階あたりにある。エスカレーターで上がってゆくと、床板のすぐ先に、もう人だかりができている。通信販売が盛んになり電子書籍が普及し、本屋に行かずとも簡単に本が手に入り、端末で読める時代になったこの時代、多くの本屋が閉店しました。そのため残った本屋に時折、一気に人が押し寄せるという奇妙な現象が起きている。かの有名な青木まりこ現象である。どこの棚の前にも人が立ち止まっているために自由気ままに本を見てまわることができない。まるで年末の食料品売り場だ。人ごみに流されて。大判の本棚の前にやってくる。雑誌コーナーの人が減るまでここで待つことにする。昆虫図鑑や地図帳などが並んだ大判専用の本棚は人気がなく、ほとんど人がやってこない。そのためスペースが縮小され、本棚と本棚のあいだの通路も縮小されており、本田翼がかろうじて通れるほどの狭さである。そのため本棚の下のほうにある本をしゃがんでとることができず、そもそも大判の本を本棚から抜き取ろうとすると、大きすぎて逆サイドの本棚の本につっかえてしまう。そのため一旦どちらかの本棚を移動させる必要があるのだが、そのような本棚の移動を容易に行うための床のレールやキャスターは存在しない。大判の本の重さで本棚はどっしりとそこにほとんど固定されている状態に近く、移動させるためにはそもそも収納されている大判の本をあらかた抜き取らなければならない。それができないから本棚を移動させたいのだが、本棚を移動させないことには本棚から本を出せないというディレンマ。おそらく売り物ではなく、インテリアの一部なのだろう。本はインテリア、そう思うことにしてその場を立ち去った。
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