『旅の空』ネパールの旅 憧憬のヒマラヤの向こうに 18
パシュパティナート
その3日後の朝、ある老人の死体が焼かれていくのを、ぼくはぼんやりと見つめていた。焼いているのはその老人の息子だという。ここはパシュパティナートというヒンドゥー教寺院で、そこを貫くバグマティ川は、聖なる川ガンジスに注いでいる。その川沿いのガートでは、あたりまえのように、いくつかの死体が今日も焼かれていた。
「人生観変わるでしょ。」インド・ネパールを訪れた旅行者がよく尋ねられる質問の一つだが、ぼくの場合、それで何かが劇的に変わったわけではない。ただ、目の前で死体が焼かれるということを、自然に受け入れている自分がそこにいた。同じ頃に亡くなったじいちゃんも同じく火葬されたが、焼かれている姿を親族が見守ることはできなかった。自分とは遠い存在の他人の葬儀を見つめながら、ぼくはそのことを思っていた。
「炎に力があって、焼き終わる時間が短い方が、その人は良い来世に恵まれるんだ。」いつの間にか隣にいた少年がぼくに説明していた。「でも、貧乏な人はそのための十分な木材が買えないのだ。」とも。