【創作】昨日、君を車で送った

 朝、運転席に座ると君の香りがした。ただそれだけのことで心がざわつくのは何故だろう。何の香りかも良く分からないけれど、これが君の香りだってことだけは直ぐに分かった。エンジンをかけて、お気に入りの曲を流す。その間も君の香りが僕の胸を満たしていく。サイドブレーキを下ろして発進、いつもの交差点を左に曲がる。左側の歩道には、元気いっぱいのゴールデンレトリバーとショートカットのお姉さん。いつも通りの朝だ。何も変わらないはずの朝。ただ僕の心だけが変わってしまった。昨日の夜は君がそこに居たんだということを、君の香りが教えてくれる。なんて寂しく残酷な朝だろうか。これは恋か。これが恋か。これを恋だと、言っていいのだろうか。僕には分からない。ただ君がここにいないことが寂しい。ただ、それだけだった。明日の朝になれば分かるだろうか、僕のこの気持ちをなんと呼ぶのか。窓ガラスに雨粒があたる。空は晴れで、天気雨のようだった。パラパラと降る雨に朝日が反射して、アスファルトが金色に輝いている。この光景を、君に語りたいと思う。それが答えなのだろうと思った。君を送った、次の日の朝のこと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?