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【随筆】指

 僕の指は汚い。短く、丸く、しわが目立つ。抜いても抜いても毛が生えてくる。爪なんてもうひどいもので、長年の悪癖がたたって、とても小さく醜くなっている。爪の先から肉が見えているのが僕はどうしても嫌で、この指を隠すように握りこむ。
 この指を君に握ってもらう時、僕はとても幸せな気持ちになるけれど、同時にお願いだから見ないでくれと思うのだ。この指で君の背中をなぞる時、指先にぽっと炎が灯る。暗闇の中で、ひとつ道しるべを見つけたような、ほっとした温かさが指先からじんわりと心臓まで沁みてくるのを感じるけれど、この指が目に入ると、せっかく君の背に沿わせて伸ばした指を握り込んでしまいたくなる。
 この指は、僕の身の中に宿る醜悪な何かを顕している。君には見られたくない、知られたくない何か。たとえば君が、その何かを愛してくれたとして、そして僕の指を握ってくれたとして、僕は僕のこの指を愛せるだろうか。寂しくて辛くて、今日も僕は僕を愛せない。

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