建設現場でがんばる若いゼネコンマンへ 〜その11〜
【大阪みっつ目の現場】
大阪3つ目の現場は、堺の工業地域に建つ"製造工場・物流倉庫"でした。
鉄骨造3階建(1階が通常の2層分に相当)の2棟同時施工でした。
僕が入った時は、基礎工事の真っ最中。
順調に工事は進んでいました。
この時、僕は5年目。
2人の後輩がいたものの、まだまだ下っ端でした。
他には、歳の近い先輩がひとり、各棟の担当責任者がひとりずつ、更に、取りまとめの現場担当所長がいる、というこのような布陣でした。
この現場、今までとちょっと違いました。
何が違うかというと、僕を"戦力"として見ていたんですね。
今までは、がんばってはいましたが、ほぼ必ず誰かの指示の元に動いていました。
しかし、この現場、明確な指示が来なかったんですね。
「任せるわ」
ならまだマシで、下手すると、
「どうする?」
「どうなってる?」
と聞かれる状態。
施工計画から工程管理まで、任されてしまいました。しかも、2棟とも。
今、進捗している基礎工事の状況を確認して、後輩に指示を出しつつ、鉄骨建て方の施工計画を行いました。
実は、鉄骨工事は、前の現場のアリーナ屋根鉄骨は先輩について見たことがありましたが、いわゆる在来の鉄骨建て方は、経験がありませんでした。
ここは正直に、各棟の担当責任者の先輩に
「あの、やったこと無いんですけど・・・。」
というと、
「ん?ああ、大丈夫。1ピース当たりの重量調べて、一番重いやつに合わせて、クレーン選定すればいいから。後は、ファブと鳶の職長呼んで打合せて。はい、これ、連絡先。」
と、こんな感じで、任されてしまいました。
その先輩方は、もっと先の調達や工程調整をしており、道筋のついた現場の段取りは、下に任せたい(じゃないと回らない)ってことだったんだと、今ならわかります。
とは言え、当時はよくわかってないので、言われた通り、ファブの担当者と鳶の親方を呼んで、打合せを行いました。
("打合せ"では無く、僕に対するお二方からの"講義"でしたね。お世話になりました。)
現場状況から建て方順序を決めて、一日の部掛りを想定。
それに合わせて部材搬入の計画を立てました。
図面チェックは先輩がやって頂いていましたが、施工に関する仮設材の手配は、僕の仕事でした。
前段取りを含め、建て方は概ね上手くいきました。
建て入れの精度確認も僕の仕事で、トランシットを担いで現場を走り回りました。
トランシットの設置は正直得意では無かったので、毎回モタモタして、『これで大丈夫かな?』とヒヤヒヤしながらやったのですが、外壁(ALC)の施工精度も問題なかったので、まあ大丈夫だったと思います。
それにしても、この現場ではいろいろ工夫を求められました。
担当所長がそういう技術提案みたいなのが好きみたいで、施工計画の相談・報告にいくと、その内容がセオリー通りだったとしても、
「普通だな〜。面白くないな〜。もっと、工期短縮だったり、コスト削減のアイディア無い?」
と聞かれてしまいました。
そこで、僕が考えたのが、"ユニットデッキ工法"でした。
これは、予め地上でスパンに合わせたデッキを組んでおいて、クレーンで吊り上げ一気に敷き込む、というものでした。
このアイディアは採用され、実行に移すことになりました。
ただ、結論から言うと、残念ながらこれは上手くいきませんでした。
地上でデッキを組んで吊り上げるんですが、これが上手く吊れないことがわかりました。
例えば、外周4点で吊ろうとすると、デッキが自重に耐え切れず折れ曲ってしまいました。
点数を増やそうとすると、ワイヤーの長さの違いから、上手く均等に力が分散せず、変形してしまいました。
吊り上げのための治具をアングルなどで作ったりしましたが、治具も変形してしまい、H鋼で作ることも検討しましたが、何よりコストがかかり過ぎることと、スパン寸法が変われば、それに対応した取付加工が、デッキにも、治具にも必要なこともわかり、汎用性の面で十分では無く、「手間の軽減にもならないだろう」、という結論に至りました。
また、他には、これは本当に施工(作業)の工夫だったのですが、2階に大きなステンレス製浴槽を搬入・設置したというのがありました。
製造工場の2階に従業員用の浴室がありました。
浴槽の詳しい寸法は忘れましたが、同時に2〜3人が入れるくらいの大きさはあったと思います。
浴槽ということで、漏水のリスクを避けるために現場組立では無く、ステンレス鋼板一枚ものの工場製造品でした。
大きさ的、重量的に階段を人力で運ぶことは出来ず、当初から「窓開口から入れる」方針でした。
しかし、"これをどうやって入れるか?"
クレーンで吊り上げたのですが、吊材は浴槽を傷つけたり、押し潰さないように、ワイヤーでは無くベルトスリングを使いました。
浴槽内をゴムシートやスタイロで養生し、ベルトスリングが掛かるところにバタ角をかまして、内側に潰れないようにしました。
ここから先は文章で書くのは難しいんですが、想像してください(苦笑)。
単純にクレーンで吊り上げ、窓開口から入れようとしても、近づいたところで、ベルトスリングが外壁に当たり、浴槽の半分以下しか室内に入りません。
そこで、室内の天井に浴槽吊り込み用の仮設のフックを予め打ち込んでおきました。
更に、補足のための丸環をちようどいいところに設置できるように後施工アンカーを打ちました。
そして、フックと丸環にチェーンブロックをセットし、浴槽にベルトスリングを回して、室内に徐々に引き込みました。
やがて、浴槽全てが室内に入ると、今度は所定の位置に設置出来るように、チェーンブロックの台数を増やして位置を変えながら、ジワジワとセッティングしました。
伝わりましたでしょうか(苦笑)?
単純に言えば、『浴槽をセットするために、めちゃくちゃ知恵を絞ってやりました』ということです(笑)。
これは僕の経験の中でも、結構大掛かりでイレギュラーなやり方だったと思います。
ただ、そのために『どうしたらいいか?』を真剣に考え、物理的な計算も自分なりにですが、結構やりました。
それでも当日はヒヤヒヤドキドキで、職人さん達と一生懸命に作業たので、ちゃんと浴槽が納まった時はかなり嬉しかったですね。
そんなこんなで、この現場は僕の試行錯誤がかなり詰まった現場でした。
この現場は竣工間際までいられましたが、転勤期間の3年を終えて東京に戻ることになり、最後の最後は見届けられませんでした。
試行錯誤が多かった分、いろいろ心配はあったのですが、その後クレームや瑕疵といった話は聞かなかったので、『品質的にも問題無かったんだな』と安堵しています。
振り返ってみれば、割りと普通の現場だったと思いますが、ある意味責任感と工夫する必要性を教わった現場だったなと思います。
これで大阪を去ることになり、3年ぶりに東京に戻ることになりました。
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