低温火傷の恋 いち

2021/03/02

「彼女募集中って、俺、公言して回るからさ。これから」

そういってこちらを振り返って笑う、あの人。いたずらっぽいような、意地の悪いような、分からない笑い方をする。

「そうですか」

興味なさそうに、吐き捨てるかのように返す。胸の奥底で渦巻く感情を、マスクで覆い隠しながら。

「ええー、だめ?俺」

「いくつ離れてると思ってるんですか。かろうじて母よりは年下ですけど」

心底嫌そうな顔をする。どうしてわたしが、この人と。
でも、わたしは知っている。
だめ な理由が、歳しか思い付かない、それ以外とっさに出てこなかった、わたしのことを。

「まーなー、でも若い奥さんがいいな」

「そうですか」


話を終わらせておきながら、話が終わったことを、残念に思っている。

横目で、顔色を窺う。あ、違う話になりそう。よかった、いつも通りに、返せたみたいだ。

また、他愛のない話が始まって、終わって、駅が近づく。

「じゃーな、気をつけてな」

「お疲れ様でした」

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恋人ではない。友達でもない。タメで話せる関係ですらない。
でも毎日会う。話す。笑う。

その度に、心が温かくなる。小さな幸せと、微笑みがある。

けれど、あとでジリッとする。触ると、痛い。もうやめよう、いけないことだと、痛みと約束する。

でもそれがおさまるころ、また、温めたくなる。

寒さに負けて。

そして、温まって、嬉しくなって、ひりついて、痛くなって、

くりかえして、くりかえして、
赤い跡が、増えていく。


今晩は特に、寒かった。
また、跡が残った。



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続きます。
寒くなくなるまでは。