呂氏春秋が今に伝える人物の見極めかた その2:事例研究 米ファイザー社
呂氏春秋にはこうある。聴かば則ち其の行うところを観よ(聴則観其所行)。見解や意見を聴いたときには、その人が実際にどのような行動をとるかを観るべし、といったところか。
武漢肺炎ウイルスに対するワクチンとして、米ファイザー社の開発したワクチンが有効らしい、という評価結果が公表されたのは、2020年11月のことである。当然のように、同社の株価は上昇した。
そのとき、ファイザー社の経営陣は、どのような行動をとったか。ファイザー社のCEO・A.ブーラ氏は、自身が保有するファイザー株式の大半を売ったのだ。また、副社長のひとりも、同じ日に同じく、持株の大半を売却処分とした。
ーー“ファイザーCEOらも保有株売却、ワクチン期待で製薬株が急伸” 2020.11.12 ブルームバーグ
このワクチンは、同社の扱う製品として、これ以上ないほどの市場規模を持つ。全人類が潜在的なユーザーであり、国家買い取りであり、しかも複数回の接種が行われるのだから。
同社にとって、これ以上ないほどのビジネス チャンスであるはずなのだが、ファイザー社トップの行為をみれば、彼自身、そのようには考えていなかったらしいと読める。あたかも、その日が、保有株を売り抜ける最大の好機とでもとらえていたかのようだ。
まるで、新ワクチンのリリースが、自社の企業価値を大幅に損なう発端になるとでも思っていたかのようにも見える。これはうがった見方だろうか。
これは、大きなニュースと私には思えたのだが、日本のメディアが大きく報じることはなかった。
もし、ファイザー社の開発したワクチンが、人類を救うようなすばらしいものであるのならば、今後、同社のさらなる成長が見込めるし、株価のいっそうの上昇も期待できるはずである。
ところが、当の経営トップは、真逆の行動をとった。これをどうとらえるかは、私たち投資家個々人の判断するところではある(ちなみに2021.9.3現在、ファイザー社の株価はさらに上昇している)。
当時、ファイザー社のCEOは、CNBC記者からの、「あなたはいつワクチンを接種するのか」との問いに対して、言葉をにごし、明言を避けた。
※質問への回答を重ねてうながされたファイザーCEO(右)と、記者(左)の、気まずくも緊張感ただよう間。動画はこちら。
いつでも打てるが、私は健康であるし、待ち望む人々の列に割り込むようなまねはしたくない、というのがその理由だそうだ。
しかし、ワクチンの安全性に対する懸念が世界中で高まっているそのようなときにこそ、本当に自社のワクチンが自信を持って供給できるものであるのならば、自ら率先して接種して見せても良いはずと私は考えるのだが。
ファイザーCEOの言葉を額面通りにとらえては、経済的にも健康面でも、痛い目を見る危険性があるように思えたのは、私だけだろうか。
これら一連の行動を見ていえるのはふたつ。私がファイザー社の株を買うことは当分ないだろうし、ファイザー社製のワクチンを積極的に接種したいと思うこともないだろうということである。